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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第二章 王子様と共同生活始めました
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添い寝はNGらしいです

 シャハトの第三王子ことエドヴィンを拾ったのは良いものの、拾った事によって問題が幾つか浮上してくる。


 大まかに言ってしまえば衣食住の問題だ。


 まず大きな問題として食料。

 私一人だったら町まで下りて食料を買いに行く頻度も少ないのだけど、成人男性が増えるとなるとそうはいかないだろう。

 ……男の子はよく食べるらしい。

 養えはするだろうけど、こまめに食料を入手しなければならない。


 次点で衣服の問題だろうか。

 この家は私一人しか居ないのだから、男性ものの服がある筈がないのだ。

 流石に同じ服を着させ続けるのは衛生的にも良くないし、何着かは着替えが欲しい。これも町で入手するしかないだろう。


 そして、衣食住の住……というか、生活環境なのだけど。


 うち、今空き部屋ないのよね。ベッドも一つしかないし。




「取り敢えず、君が何処で寝るかとか決めなきゃならないのよね。……私のベッドじゃ嫌なんでしょ」

「勘弁しろ」


 まだ全快ではないのでベッドは貸すつもりなのだけど、エドヴィン的には私のベッドを使うのが不服らしい。

 確かに寝心地が良いとかはとてもじゃないけど言えない。でも床よりはましだと思う。


 我が儘ね、と腕組みしながら呟くと「我が儘とかそういう問題じゃないだろ」と不満げな声が返ってくる。

 何が駄目だというのだろうか。


「……お前、一応女だろ」

「一応?」

「訂正する。歴とした女だろう。男にベッドを使わせるのは良いのか」

「? 私もそこで寝るから問題ないよ?」

「大問題だろうが!」


 何故か声を荒げるエドヴィンに、目を丸くする。

 そこまで拒否しなくても良いと思うんだけど。


 ……ああいや、彼の言いたい事は何となく理解出来る。けど、それを心配する必要はないと思っているのだ。


 一応、私は魔女だし、それなりに強い。襲われたとしても返り討ちに出来る自信はある。

 ……それに、彼は私を男と間違うくらいだから、何かするつもりもないだろう。ええ、どうせ私は女っぽくないからね。


「仮に君が寝首を掻こうとしても、私はそれを捩じ伏せられるから問題ないのよ。こう見えて、魔女の名を継いでるからね」

「……魔女」

「シャハトでは魔女なんて異端中の異端だったね。……気味が悪いと思う?」


 問い掛けると、苦い顔で頭を振るエドヴィン。


「……俺も、忌避される側だったのに、そんな事言える訳がないだろう」

「それもそうか。それなら良いのだけど」


 今になって拒絶されるのも複雑だし、敵愾心とか嫌悪感とかその辺がないなら良かった。

 私に完全に気を許した訳ではないだろうけど、この家で暮らすと決めた以上針を逆立てた針鼠のような刺々しい雰囲気で居て貰っても困るし。


「まあ、そんな訳で私それなりに強いよ。だから、別に同じベッドで寝ても問題ないよ」

「大有りだろうが!」


 エドヴィンは再び声を荒げて、今度はテーブルを叩く。

 彼、何だかんだ力が強いからテーブルがまたみしみし言ってる。壊したら修理して貰うからね、ほんと。


「あ、もしかして私が横で寝るのは嫌かな。それだと困ったなあ。寝床、ないんだけど」

「馬鹿! そうじゃなくて普通男女で寝床を共にするなど、伴侶にしか許さないだろうが!」


 なんと、真っ赤な顔で常識を説かれてしまった。


 いやでも寝床ないんだもん。ベッドが一つしかないのだから、一緒に寝るしかなくないかな。


 ……いや 、本当の事を言えば、ない事もない。


 かつて師匠が使っていた部屋がある。当然そっちにベッドはある、のだけど……出来る事なら、入って欲しくない。

 あそこは、あのままにしておきたいから。

 もう、帰ってくる事は永遠にないのだけど。


「別に気にしないから大丈夫だよ。ベッド狭いからちょっと窮屈になりそうだけどね」

「俺が気にするんだ!」

「む、我が儘な……じゃあどうするの。ベッドを手作りする? かなり手間掛かるけど」

「……そっちの方が何百倍も良い」


 かなり疲労感の滲む顔で頷かれて、じゃあそうするしかないかと私も承諾する。

 ……そんなに嫌だったのだろうか。私は構わなかったんだけどな。久し振りに、誰かと隣で一緒に寝るのだから。


 まあ、これで一件落着という事で安堵している彼に残念なお知らせを一つ。


 どちらにせよ暫くは完治まで安静にしてもらうので、そのベッドで寝て貰います。




 ご飯を出してお風呂も用意してあげて(服は着替えがなかったのでお風呂に入ってる間に簡単に洗って魔法でぱっと乾かしてあげた)、さあ寝ようという事で寝床を差し出したのだけど……彼があまりにも嫌がるものだから、私の眉が寄る番だった。


「あのね、一応疲労とか打撲が治ってからはベッドを作るなり好きにすれば良いけど、今くらいはちゃんと休みなさい」


 今回ばかりは問答無用で押し込む。

 というか私は早く寝たいのだ、早朝に起きて調合に使う朝露を採取しなければならないのだから。

 こんな無駄な争いは時間の無駄である。


 しかし彼的にはどうしても譲れないらしく、ベッドに入る事を頑なに拒んでいる。

 そんなに嫌なのか。逆にショックだよ。


「……分かった分かった、じゃあ君がベッドで寝て。私、今空いてる師匠の部屋で寝るから」

「部屋あるんじゃないか!?」

「出来れば、使いたくなかったの。当時のまま残しておきたかったから」


 でも彼が一緒に寝たくないと言うのだから、どうしようもないだろう。


 そもそも、空いている部屋を提供しない私が間違っているのだ。

 いつまでも亡者の幻想を追う訳にもいかないってのは、分かっているのだから。


 いい加減切り替えないとならないってのは、分かっているのだけど。


「……その師匠は」

「死んだよ、数年前にね。だから、空いてるの」


 詳しく話したいとは思えないから事実だけ話すと、彼は微かに青の瞳を細めた。


 別に、表情を暗くしたつもりはないし、声は平常通りのものだ。

 それなのに、彼は一瞬だけ痛ましげに瞳を伏せて、それから細く、息を吐く。


「……分かった。俺が駄々をこねて悪かった、隣で寝ればいいんだろう」

「あっほんと? そう言ってくれると助かるんだけど」

「そこで即座に切り替えるの腹立たしいな」


 頬を引っ張られた。素直に喜んだだけなのに。


 まあ何にせよ、どうやら隣で寝る事を了承してくれたらしい。


 ただ、仕切りを作れと多少文句を言ってきたので、仕方なくベッドの中央を分断するような位置で壁と壁を繋ぐように縄を張って、予備のカーテンを通して仕切りを作ってあげた。

 まあ即席だけど効果はあるだろう。

 しかしベッドが余計に狭く感じるのはご愛敬。


「これで文句ないでしょ。じゃあお休みなさい」


 もう今日は抗議も聞かないので、そのままお休みの体勢に。

 ……毛布は一つしか見付からなかったので共有だけど、それくらいは大目に見て欲しい。


 カーテンを動かして相手をシャットアウトして、そのままもぞもぞと毛布に潜り込む。

 カーテンの向こう側でたじろぐ気配がしたけれど、もう眠かったので敢えて気に止めない事にした。


 まあ私がぐーすか寝たら彼も寝るだろう。

 信頼関係の築けていない女が隣で寝るという状況が嫌なんだろうけど、慣れて貰うしかないし。


 おやすみー、とカーテンの向こう側に掌だけ出して緩く手を振って、私はそのまま丸まって瞳を閉じた。


「……良いのかそれで……」






 小鳥の囀りが、毎朝の起床合図だ。

 微睡みを引き上げるように駄目押しで朝日が瞼の上から突き刺さって、自然と意識が起こされる。


 まあ目覚まし代わりの小鳥の歌声は寝惚けながら聞いてるので堪能する事はあまりないのだけど、ゆっくりしている時間はないとも分かっているので、もぞもぞと毛布から這い出る。


 ……眠い。目がしょぼしょぼする。

 けれど朝露は採取に時間が掛かるし、早く行かねば意味がなくなるから迅速に行動しなければならない。……うう、迅速に、迅速に。


 くぁ、と欠伸を噛み殺して、よたよたとクローゼットを開けて動きやすいワンピースを取り出す。


 今日は人目がある事を考えて、ほんのり品のいいワンピースに。良すぎても目立つから、あくまで町娘並の、ね。

 ……エドヴィンの事もあるし、ちょっと町に行かなきゃいけないからね。


 朝露を取ったら、先日から乾燥させておいたカラグの根を粉末にして…… と今日の調合予定を思い出しながら寝間着を脱いだのだけど、そこで背後からゴンっという鈍い音が響いた。


 何事かと振り返ると、やや開いたカーテンの向こうでもぞもぞと動いているのが見える。

 ……多分壁側だったから寝返りでもした際に盛大に体を打ってしまったのだろう。呻き声が聞こえるので相当痛かったらしい。


「おはよう。何か凄い音がしたけど大丈夫?」

「……うるさい」


 心配したのに何故か怒られた。理不尽だ。


 まあ大丈夫なら良いけど、と勝手に納得しておき、ワンピースにさっさと着替える。

 ああ、というか私が動いた時の物音で目覚めさせてしまったのかもしれない、うるさいというのにも納得だ。


 うんうん、と私なりに納得しておき、不機嫌そうな彼には「まだ寝ていて良いからね」と言い残して採取に出掛ける事にした。

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