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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第四章 縮まる二人の距離
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魔女様の悩み

 エド君は、私の側に居てくれる、と言ってくれた。

 そこについて嘘偽りはないし、その手を取っても良いとは、思うけど。


 ……本当に、良いのかなあ。


「ねえヴィレム、もしずっと側に居てくれるって言ってきた人に帰るべき場所があったなら、それは受け入れても良いものなのかな」

「どうしたんだ急に」


 エド君とは一旦分かれて、一人で薬の納品にきた際にちょっと質問を投げ掛けてみれば、ヴィレムは困惑の様相。


 一応ぼかして真実は微塵も見せない方向で問い掛けてみたのだけど、ヴィレムはいきなりの質問に訝る様子だ。

 まあ、本当に急なのは分かってるんだけど、他人の意見というものも聞いてみたかったのだ。流石に魔女云々は言えなかったので、ああして例えてみたのだけど。


 どう思う? と伺ってみると、ヴィレムはやや呆れたような眼差しを向けてくるのだ。


「何だ、エドワードに告白でもされたのか。遅かったな」

「へ?」


 ……エド君、というのは合ってるけど、告白とかそんなんじゃ。しかも遅かったなとかどういう事で。


 ぱち、と瞬きを繰り返す私にヴィレムが「やべまだだったか」と零すのだけど、え、何どういう事?


「あー。エドワードに何か言われたとかじゃなくて?」

「エド君に言われたのはそうだけど、告白とかじゃないよ。ただ、ずっと側に居るって言われただけだもの」

「それが告白なんじゃねーか!」


 ヴィレムがバン、とカウンターを掌で打ったせいで薬の入った小瓶が倒れてしまったので、二人して慌てて床に落ちないように戻していく。


 ……何でそんなやけ気味に言われなくてはならないのか。

 告白とかって、そういうものなのだろうか。私の知識では「愛している」とかそういう言葉を指すと思っていたのだけど。


 それは早とちりなんじゃ、とヴィレムを見たら見たでヴィレムが「有り得ねえぞこいつ……」とか額を押さえている。


「どういう状況で言われたのか知らないが、ずっと側に居るって事は死ぬまで側に居るって意味だろ」

「うん、まあそうなるね」

「だったら普通分かるだろ!」


 パン、と今度は自身の膝を叩いているヴィレム。

 乾いた良い音を鳴らしてとてももどかしそうにしたヴィレムは、私が困惑の顔を浮かべているのを見て更にもどかしそうにしている。


 流石に苛立たせるのも悪いと思ったので「だってエド君だし……」とごにょごにょ言い訳を続けたら、もう何かヴィレムが馬鹿を見るような目になったよね、うん。


「あのな、一生を共にするって事は相当な覚悟っての分かるだろ?」

「う、うん、それは分かるけど……」

「だったら普通そういう事にならないか?」

「で、でも、なんというか。……私に魅力ってないじゃない?」

「は?」

「最初男と勘違いされるくらいには、女の子らしくなかったし。そういう感情を抱けるものなのかなって」


 あれはあまり思い出したくはないのだけど、エド君男の子と勘違いしたし。何処をどう見たら男の子に……とは思ったけどあの頃は今みたいに着飾らないし身嗜みなんて整えなかったから仕方ないんだよね。


 人間って第一印象が殆どだろうし、そこからどうやったらそういう感情を抱けるのか。……いやまあ、愛してるとかその辺りのは仮定だよ?


「……同情とか、親近感から、ずっと一緒に居てくれるって事だって、考えられるでしょう? そういう感情じゃなくても大切にしたいって気持ちはあるだろうし」

「何でアンタそんな思考が拗れてるの。そこは素直に受け取れば良いだろ」

「素直に受け取ったらそうなったんだってば」

「このにぶちんめ……」


 そんな事言われても。そうなったんだもん。

 はっきり言われなきゃ、分かんない。都合の良い勘違いなんてしたくないもの。


 ……都合の良いってなんだろ? そりゃあ、好意的に見て貰えるのは嬉しいけど……?


 考えると胸がもやもやしてくるので、一旦置いておこう。

 というか、そういう事を相談しにきたんじゃない。そこも大事かもしれないけど、私としてはエド君を受け入れて良いのか、という問題があるのだ。


 エド君は、魔女になる道を選びたがっている。私は、それを導く事が出来る。


 でも、本当にエド君を魔女にしても良いのだろうか。


 エド君は魔力があるだけで、まだそれは目覚めていないし、普通の人として生きていける。

 シャハトにさえ戻らなければ、此処で生きていけるのだ。髪は魔法使わなくても染めるなりすればどうにかなるし、時が経てば隠れ住まなくても良くなるだろう。


 一般人としての道を歩めもするエド君を、私の為だけに此方側に引き込んで良いのか。


 私は、停滞している。あの頃から代わりのない体。老いず成長もしないで、止まったまま。


 十七歳に見えないと言われたけど、そりゃあそうだろう。私は十五歳前くらいで止まっているんだもの。


 エド君も例に漏れず、多分成長は止まる。十七歳で永遠に時を止めるのだ。

 私は、停滞を彼に強いて良いのか。


「ねえヴィレム。エド君はさ、ただ頼る人が居ないからずっと側に居ると言ってるとか、ないよね」

「それ本人に言ったら怒られるからな確実に」


 ヴィレムの呆れはやや苛立ちの声に。

 ……わ、分かってるんだけど、どうしても疑ってしまうというか。


「アイツに何があるかなんて知らないけどさ、エドワードにはエドワードなりの覚悟があって言ってるんだと思うが。それを踏みにじるのだけは止めてやれよ」

「……でも、それでエド君が不幸せになるかもしれないでしょ?」

「じゃあそれをアンタが幸せにしてやれば良いんじゃないのかね」

「……私が?」

「まあ普通は男の台詞だろうけどさ。不幸せになるっていうなら幸せにしてやれば良い話だろ?」


 ……それは盲点だった。

 いやでも、エド君を幸せにするのって難しいしエド君の幸せが何だか分からないもん。エド君は物で幸せになるようなタイプじゃないし。


 ヴィレムは簡単に言ってくれるけど、幸せにするのって中々に難しいと思うのに。不幸せから幸せに、って、凄く大変そうだ。

 私の側に居て、幸せになってくれるのか。


 むぅ、と眉を寄せた私にヴィレムは苦笑を隠そうともしなくて、何だか生暖かい笑みと共に「アンタってエドワードの事になると女になるんだよなあ」と呟く。


 ……エド君の事だけこんなに悩んでるのは自覚あるけどさ。

 これは、女の子らしいのだろうか。あまり女らしい事をしていないから、あまり実感が湧かないというか。

 そもそも、何でエド君の事だけ女の子らしくなるのだろうか。最初は、こんなんじゃなかったのに。


「ま、事情は詳しくは知らないが、ちゃんとエドワードの意思も尊重して決断すべきなんじゃないのかね」


 それは分かってるけど、という言葉は飲み込んで、私は小さく頷くだけに留めた。




 エド君と合流して、必要な物を買って家に帰る。

 もう慣れてしまった行為だ。最近はよく付き添いできてくれるし、手を繋いで歩くのにも慣れた。

 ……周りから冷やかされるのはどうにかして欲しいのだけど。はぐれない為に繋いでいるだけなのにな。


 そうして家に帰って一息ついたところで、私はヴィレムに言われた事を聞いてみる事にした。


「……エド君の幸せって何?」

「いきなり何だ」


 流石に突然すぎたらしい。

 青い瞳が訝るように揺らめいて此方を見るので、どう説明したものかと悩む羽目に。


「いや、その……エド君が魔女になると、不幸せになるかもしれないじゃない? じゃあ幸せにすればって思ったけど、幸せにするにはどうしたら良いだろうって」

「まだうじうじ考えていたのかお前」

「だ、だって、人生を左右する事だからね?」


 エド君は分かってないと思うのだ、魔女になる事の危険性を。本来は簡単になれるものでもないのだから。

 今の状態から時を止めてしまう事がどれだけ恐ろしい事か、エド君は分かっていない。


 呆れた顔のエド君だけど、私としては大真面目なのだ。


 意気込んで言ったけどエド君は相変わらず苦笑じみた表情を浮かべていて、隣に座った私の頬を軽くつねる。

 いひゃいー、と文句を口にすると、本当におかしそうに笑ったエド君。……すっかり、表情筋も柔らかくなったようだけど、いつこれが凝り固まってしまうのかと思うと、怖い。


「俺の幸せは、そうだな、お前が幸せならそれで良いかな」

「え?」

「お前の幸せは何だ?」


 逆に聞き返されてしまったのだけど、そんな事を聞かれても困るというか。


 私の幸せ。

 私の幸せは――。


「……一人は、嫌だから、……一人じゃなければ……」


 一人ぼっちは、嫌だった。アレクだって、毎日来てくれる訳ではないし、本当に私の気持ちを分かってくれている訳ではない。


 誰か、側に居て欲しかった。温もりが欲しかった。理解者が欲しかった。

 隣で一緒に過ごしてくれる人が居るってこんなにも幸せな事だと思わなかった。


 でも、それを望んでしまって良いのか、私には分からないのに。


「じゃあ決定だな。魔女になれば良い話なんだから」


 でも、エド君はあっさりとそう言って。


「あ、あれ?」

「俺が魔女になってお前は隣に立つ人を得て幸せ、俺はお前が幸せなら幸せ。問題ないだろう」

「え、ちょっ、そ、そんな決め方で良いの?」

「良いんだよ。俺の決定だぞ、文句あるのか」


 そんな流れであっさり決めて良いの!?

 魔女になるって事は人を止める事だってちゃんと説明してるのに、何でそんなに簡単に決めてしまうの。


 嬉しくないって言ったら嘘になるけど、大手を振って喜べるかと言ったら否だ。どうしても、エド君の別の道を模索してしまうから。


 でも、エド君は後悔なんて微塵も感じさせない朗らかな表情。

 逆に清々しい程で、私の困惑にもちょっと苦笑を湛えるだけ。


「俺が勝手に決めた事なんだから、良いんだよ」

「ほんとに?」

「じゃなきゃ言わないさ」


 だからそんな顔をするな、と頭をぽんぽんと柔らかく叩かれて、じわりと染み込む温もりに、自然と眉が下がった。


 良いのかな、とは思ったけれど、エド君が望んでくれるなら。

 ……彼が望むなら、私は彼を人でなくす事にしよう。あれだけ言っても、聞かないんだもん。


 ほんと、ばかなんだから。

皆様明けましておめでとうございます。

色々一段落したので更新も隔日更新くらいになるかな、と思います。応援していただければ幸いです(*´ω`*)

今年も宜しくお願いします!

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