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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第四章 縮まる二人の距離
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王子様は紳士さん?

「……アンタら何かあったの?」


 いつもの納品の日、ヴィレムは私達の入店早々に訝りも露な眼差しを向けてきた。


 何か、とは何だろうか。

 入店前に手を離したエド君は普通に扉を開けて支えてくれてだけ。私もそれにありがとうと言って笑いかけてそっぽ向かれただけなのに。


 何なんだろうね、と持って貰っていた鞄をエド君から受け取りつつ首を傾げても、エド君は「さあな」とだけ答える。

 ついでに風で跳ねていたらしい髪の毛を整えてくれた。エド君はそういうところよく気付くよね。


 ただそんな態度すらヴィレムには疑わしかったらしくて、まじまじとエド君を見ているのだけど。


「アンタらとうとう……」

「何もないからな」

「いやだって、アンタの態度からして全然違う気がする」

「残念ながらいつも通りだ」

「ふぅん、そうかいそうかい」


 納得しているような口振りで、その実全くしていないどころか何か変な事を考えていそうなヴィレム。

 お顔がにやにやしてるからね、君。


 エド君もヴィレムの顔が何とも言えないにやつきを含んでいるので、若干こめかみがひくひくと臨戦態勢に移行しかけている。

 ヴィレムの言いたい事は分からないけど、多分相当エド君の気に障る事だろう。とうとう、なんだろ。


 まあちょっぴりむかっとはするけど気にしない事にして、薬をカウンターに並べる。

 いつも通りの納品だけど一応ヴィレムにも確かめて貰わなきゃね。品質もいつも通りだし、文句はない筈。


 お仕事なので真面目な顔になって検品し出すヴィレム。そこは律儀なんだよね。

 問題ない、と声を貰ったのでほっとしつついつも通りの金額を受け取り、確認してから懐に仕舞う。此処だけはお仕事だからしっかりとね。


「ヴィレム、次もいつも通りで良いの?」

「おう。……あ、そうだ。リア」

「なに?」

「いつもアンタの薬買ってる奴等がありがとうって言ってたぜ。ゼルパ熱にかかった奴等も先んじて薬を作っていたから症状が軽くて済んだって言ってたし。いつも助かってるよ」


 伝えといてくれって言われたからさ、と笑ったヴィレム。

 あれはヴィレムの采配だったから、私がお礼を言われる事でもないと思うんだけどなあ。

 ヴィレムが手配して対策も徹底したから、流行らなくて済んだ訳だし。


「私は頼まれて作っただけだよ。……でも、役に立てたなら良かった。ヴィレムも、ありがとね」


 褒められるというのも中々に照れ臭いものだな、と頬を掻きつつ笑うと、何でかヴィレムが目を丸くしている。

 ……何だろうかその顔。


 ゆっくりと首を傾げて……それから、エド君に手を取られた事にワンテンポ遅れて気付いた。


「……ほら、用事が済んだならさっさと行くぞ」

「え? うん、そんなに急がなくても良いと思うけど」

「良いから。買い出しするんだろ」

「そうだけど……まあエド君がそう言うなら」


 そこまで焦らなくても良いと思うんだけどなあ、まだ全然日は暮れないし。何でそんなに急かすんだろう。

 エド君はエド君で、機嫌は宜しくない。……機嫌が悪いなら理由くらい教えてくれたって良いのに。


「じゃあまた納品しに来るね、ヴィレム」


 まあ外に出て宥めれば良いか、なんて結論付けて、私はぽかんとしているヴィレムに空いている手を振った。

 エド君に手を引っ張られているので、振り返りながらだけど。


 エド君は、相変わらず無言で私を引っ張って外に連れ出すのだった。


「……ありゃ何かあったなあ。エドワードの眼差しからして駄々漏れだしリアも満更でもなさそうだし……早く伝えれば良いものを。やれやれだ」




「ねえエド君、どうしたの?」


 手は離してくれたけれどまだご機嫌斜めなエド君。

 前みたいに私を置いて行ったりはしないのだけど、背中からしてちょっと面白くなさそうな雰囲気を醸している。


「……うるさいな。何でもない」

「じゃあ黙るけど……」


 一体何だというのか。

 エド君は言いたくなさそうなので詮索はしないのだけど、あんまりヴィレムと喧嘩はしないでね。大概ヴィレムがからかうのが原因だろうけど。


 何かエド君とヴィレムって合わなそうというか、ヴィレムがからかっちゃうからエド君怒っちゃうんだよね。アレクも似たようなものだけどこっちはそれなりに仲良くは出来てる……の、かな……?


 出来れば同性で腹を割って話せる友人でも作って欲しいなあ、とは思うものの、エド君が望まないんだから仕方ない。


 ……なんてエド君の心配をしながら市の方に向かっていると、いつも野菜を買っている店の女主人と目が合った。


 いつも明るくてフレンドリーな人なんだけど、私一人でよく買いに来て会ってたから今回がエド君とは初顔合わせ。

 ぱちくりと瞳を瞬かせてエド君を見ているの。


「おや、薬師様じゃないか。そっちの坊っちゃんは噂の」

「エド君有名になっちゃったね」


 八百屋の主人にも伝わってるくらいだから、多分この分だと町中に広まってるんじゃないかな。

 本当はよろしくないのだけど、変装は相変わらずだろうし、追っ手が来たとしてもまさか市井の人に上手く紛れ込んでるとか思わないだろうな。


 エド君は苦虫を噛み潰したどころか、とんでもなく濃く入れた薬草茶を飲まされたような顔。


「薬師様の方が有名だとは思うけどねえ。そっちの坊っちゃんは特に若い女の子に人気だから」

「エド君もてもてだねぇ」

「嬉しくない」


 どうやら私の知らないところでも女の子に人気らしい。当然だろう、エド君格好いいし、手先器用だし、何か最近料理覚え始めてやけに上手くなってるからちょっぴり戦慄してるし。


 顔良し器量良し性格ちょっぴりぶっきらぼうだけど優しくて良しだから、私だったらエド君はお買い得! と思ってしまう。他の女性だってそうだろう。

 ……エド君はあげないけど。

 だってエド君は私の、大切な……何だろう。お友達? 同居人? 理解者?

 どれも合ってるけど、しっくりこないなあ。


 うーん、と悩む私の店主はちょっと笑っている。


「薬師様はいつもよく効く薬を作ってくれるからね、町民は感謝してるよ。うちの旦那もよく頭痛に悩まされてたけど薬師様の薬で対処出来てるから」

「でも私生きる為に作って卸してるだけだから」

「そりゃ誰だってそうだろう、慈善事業じゃないんだからね。感謝してるのは、それでも助かってるよありがとうって事だよ」


 朗らかな笑みを浮かべて私の背中をポンポンと叩く店主に困惑する私。

 店主はその困惑すら気にした様子はないらしくて、そうだと今思い付いたとばかりの顔をしては積んである野菜を紙袋に入れていく。


「ほら、これあげるよ。薬師様細っこいからちゃんと食べてるか心配でね」

「わ、わっ」

「そこの坊っちゃんもしっかり食べなよ? あんたら同棲してるって噂だから二人とも沢山食べな」


 紙袋に詰められて押し付けられて目を白黒させる私。エド君は、店主の言葉にわなわなと肩を震わせて頬を染めている。

 瞳が吊り上がっているけど、それは怒りではなく羞恥からくるものみたいだ。


「ど、同棲など……! あれは居候というだけで、」

「おんなじようなもんだろ、ほら肉つけてシャキッとする!」


 実に豪快に笑った店主がエド君の背中までパンパン叩いているものだから、エド君面食らって若干おろおろしている。ああうん、分かるよ、慣れないと困惑するよね。


 こういう人を竹(という植物が東の方にあるらしい)を割ったような、性格、というのだろう。あっけらかんとしていて、接していて気持ちいい。


「……ありがとう」


 素直にお礼を言って貰った野菜を抱え直すと、店主はにっこりと私に笑い返した。




「……不思議だね、皆優しい」


 その後も、さっきなやり取りを見ていたお店の人達が薬のお礼を言ってきた。そこにはゼルパ熱にかかって薬で軽症に収まった人も居て、とても感謝された。

 おまけにお礼だと果物や干し肉やパンとかその辺のものを沢山貰ってしまった。


 お陰で荷物がどっさりだ。鞄に入るものは入れたけど、入らないものはこうして手に抱えるしかない。


「そうだな。この町の住人は、皆優しいと思う」

「ふふ、そうだね。……何か良いね、こういうのって」

「……ああ」


 エド君も、少し顔を柔らかくして同意してくれる。

 ……そういえば、エド君って昔に比べて表情が和やかというか、棘がなくなったよね。


 そう思うとエド君って馴染んできたなあ、と思えてついついにやっとしてしまったら、気に食わなかったらしくて空いていた手で髪をくしゃりと乱された。


「あ、ひどい、私荷物持って抵抗出来ないのに」

「はいはい」


 む、と唇を尖らせて見上げたら、苦笑の後に私から荷物をあっさり取り上げてしまうエド君。

 エド君だって荷物持ってるのに、両手にそれぞれ抱えてしまって。


「エド君、自分で持つよ?」

「女に重いもの持たせるのは悪いだろ」

「別に重くないもん」

「いいから」


 そう言ったきり、エド君はこっちを見ない。

 私が両手で頑張って抱えていた荷物を事もなげに抱えて、平然と町を歩く。それが当たり前だと言わんばかりに。


 ……エド君って何気にそういう所は紳士的だよね。最近とみにそう思う。というか、私を女の子扱いしだしたような。

 泣いてしまったから、か弱いとか思わせてしまったのだろうか。


 まあ、良いか。エド君が優しいの、嬉しいもん。


「ありがとう、エド君」


 ほんのりとした疼きを胸に抱えたまま微笑むと、エド君は耳を赤くして応えた。

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