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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第三章 王子様の秘密と魔女の秘密
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ちょっと変化しました

 定期的にエド君は町に行って、作品を売るようになった。


 もう何だか繰り返しているうちにすっかり雑貨屋のお客さんとも顔見知りになってしまったらしくて(主に女性)、あれこれ貢がれてもとい頂いて帰ってくる。

 流石美形。こういう時苦労しないよね。


 いやはや褒めたら良いのか呆れたら分からないけど、ある意味で凄いのは確かだ。

 それに、作品の評判は良いらしい。そりゃああんな精密に作った作品だからね、好評価なのも頷ける。


 家でせっせと編んでる姿を応援しつつ、私は私で調合したりね。ヴィレムに違う薬を頼まれたので、そっちにかかりきりになっている。


 ただ、無茶はするなとエド君に厳命されたので、無理のない程度の調合だ。そもそも今回は寝ずの番をする程に長く加熱しなくても良いので、そう無理する事もないのだけど。


 因みにゼルパ熱は、私が調合した薬のお陰で此方に流れては来たけど即座に対処出来て流行る事はなかったそうだ。


 薬を作ったのは私だけど、先んじて手を打っていたヴィレムの指示があってこそ。

 ああいう素早い対応が、流行り病を防ぐのだ。


 そんな感じで、私は私で、エド君はエド君でそれぞれ仕事をしながら過ごしていた訳。


 偶々納品が重なったので一緒に町に出るのだけど、やっぱりエド君は何だか目立つようになってしまった。


 頼み込まれて、雑貨屋の売り子の仕事も手伝ったらしくて余計にね。

 目立たないようにとあれ程……まあ、変装してるから良いんだけどね。

 結局のところ、露出せずに生きていくなんて不可能に近い訳だし。


「おーエドワードじゃないか。随分とモテてるそうで。噂は此方まで届いてきてるぜ」


 エド君の人気具合は薬屋を営んでいるヴィレムにすら届いているらしく、げらげらと笑いながらエド君の肩を叩いている。

 エド君は煩わしそうにするだけ。嬉しくはなさそうだ。


「……うるさい。別に女に興味はない」

「おーおー人気者の余裕ってやつですか。あれか、リアが居るから他には興味ないってか」

「違う! 勝手な想像を働かせるんじゃない!」


 躍起になって否定しなくても。分かってるから大丈夫だって。

 ヴィレムはそんな反応すら楽しんでいるのだけど、からかいすぎるのは程々にね。エド君あんまりやり過ぎると不貞腐れて、後で私が宥めるのが大変になるんだから。


 もう、とヴィレムを窘めるのだけど、今度はヴィレムが私ににやにや笑いを向けてくる。

 ……そのヴィレムの顔嫌いなんだけど。


「リアは良いのか? エレナ、大分エドワードの事気にしてるみたいだけど」

「気にかけてくれるのは良い事だよ。よくして貰ってるならそれで良いんじゃないのかな」


 ヴィレムは何が言いたいのか。……その顔むかつくんだけどなあ。


「良いのか? もしエドワードがエレナのものになったら」

「ないよ、エド君は私のものだもん」


 エド君が吹き出したけど、だから最初から言ってるじゃない。

 エド君は私が拾った私のものだから、生活とかも全部こっちが賄うって。お手伝いはして貰うけど、そんな焦らなくても良いと。

 ……まあエド君働きたがってるので好きにさせてるのだけど。


 だから、エレナのものに、という認識がよく分からないのだけど……何でヴィレムは腹抱えて笑ってるのかな。私に失礼じゃないかな。


「そこは自信満々なんだなリア。いや意味分かってないだろうけどさ。……だってよエドワード、愛されてるなー」

「絶対意味が違うしこいつは分かってない! あと俺がどう思おうがお前には関係ないだろ!?」

「……割と自白してるよなあんた」


 あれ、エド君撃沈してる。


「ええと、エド君が出ていきたいというなら勿論意思は尊重して……」

「出ていかない!」


 何だかムキになっているエド君に、ちょっとほっとしてしまった自分が居る。

 ……エド君は、うちに居てくれるんだよね。居たいと思ってくれてるんだよね。良かったぁ。


 安堵している私にヴィレムのにやにやしながらの「青春ですなあ」という呟きが直撃して、ちょっと喋れなくなる薬でもぶっかけてやろうかと思ったけど抑えておこう。

 今持ってないから今度作って飲ませてやろうかと本当に思うよ。


「ま、二人とも仲良くしてくれよな。ついでにオレに面白話を聞かせてくれる事を祈ってるよ」




 ……ヴィレムの店を出てからエド君が不機嫌だ。


 慣れた足取りでズンズン進んでいくから、逆に私が置いていかれそう。

 うう、エド君脚が長いから歩幅が違って歩く速度から違うのに。


 エド君が迷う事なく歩いてるって事はこの街に慣れたって事だし、それは喜ばしい事なんだけどね。

 実際エド君顔見知りも出来たのか声かけられてるし。


 知り合いが出来たんだなあとほっこりなのだけど、でもちょっとゆっくり歩いて欲しい!


 ちょっとずつ遠くなっていく背中。


 ……行き先が分かってるから、別に追い付く必要はないんだけどね。どうせ納品しに雑貨店に行くんだろうし。


 じゃあ、焦らなくても良いのか。

 急いでいた歩みを、緩める。置いていかれるのは、本当は嫌なのに。でも、どうせ行き先は知ってるから、良いか。


 エド君に追い付ける気がしなかったので、ゆっくりとしたスピードに落として、とぼとぼと追い掛けて……。


「……遅い」


 声をかけられて、エド君が戻ってきた事に気付いた。


「遅いんじゃなくて、エド君が早いんだけどな。エド君歩幅考えてよ。置いてくつもりなら先に行って欲しかったんだけど」

「……すまない。置いていくつもりとかじゃなかった」


 置いていった自覚はあるらしくて、ちょっと眉を下げるエド君。

 責めるつもりじゃないんだよね。ただ、置いていかれるのは寂しいなあって、思い出しただけだし。


 見上げると、エド君は暫し逡巡した後に、私の手首を掴む。

 瞬きを繰り返す私に、エド君の「これならはぐれる心配もないだろう」という声が届く。ほんのり、頬が赤い気がする。


 ……エド君が自分から触るのは珍しい。

 というか、お外でこうして手を繋ぐ……とは言えないけどちゃんと触れてくるのは初めてではないだろうか。いつも、袖とか指先だけだったから。


 どういう心境の変化があったんだろうか。


「……そういう顔されたら置いて行ける訳がないだろ」


 そういう顔?


「良いから、行くぞ。どうせ作品納めるくらいだけどな」


 どういう顔かは説明せずに、エド君は私の手を引く。

 今度は、ゆっくりとした足取りで。


 私の事を気遣ってくれたらしいエド君に、私は手を引かれた状態でひっそりと笑みを零した。

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