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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第三章 王子様の秘密と魔女の秘密
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探し人は王子様です

 エド君は最近やけにお手伝いをしてくれるようになった。

 作業している時はしているけど、私が何処かに出掛けようとするとついてくる。正直後ろをついてくるひよこみたいで可愛いです、はい。


 というか単純に手伝おうって頑張ってくれてるんだろう。

 最近は森も一人で出歩けるようになってきて、辞書で覚えたらしく指定した薬草を摘んでくる事が出来るようになった。覚えるの早すぎないかなほんと。


 今日はエド君と一緒に薬草取りに励んでいる。

 そろそろ乾燥させていたウルグズの葉が足りなくなってきたところだった。これは免疫力を高めるのに役立つ薬草で、私達が飲んでいる薬草茶にも入っていたりする。


 エド君も最近はあの苦い渋い酸っぱい不味いのお茶も大分慣れてきたらしく、今ではそこまで希釈せずに飲めるようになった。口直しは要るみたいだけど。


「こっちは籠に山程摘んだが、こんなもので良いか?」

「うん、それくらいにしておこうか。摘みすぎても駄目だからね」


 こんな薬草を好んで食べる野性動物も居る訳で、全部取ってしまうとその子達が食べるものに困ってしまう。

 幸いこのウルグズは成長が早いから根さえ抜かなければまた生えてくる。それを野性動物達も分かっているから、葉だけ食べていくのだ。


 私の籠もそこそこに盛れたし、まあこんな感じだろう。


「じゃあこれ家に持って帰って軽く洗ったら乾燥させよっか」

「……これがあのくそ不味い茶になるのか」

「そうそう。他の葉ともブレンドするけどね。因みにこれが苦い味担当。かじったら分かるよ」

「誰がかじるか」


 うぇ、と薬草茶の味を思い出して顰めっ面しているエド君に笑って、じゃあそろそろ帰ろうか――そう言いかけた、のだけど。


「……?」


 ざわり、と森が揺れた。


「エド君エド君」

「何だよ」

「悪いんだけどこの籠持って先におうちまで帰っていてくれる?」


 唐突な私の言葉にエド君が訝る様子に。

 ただ、私は事情を説明する気にもならなくて、エド君に笑顔で籠を渡す。


「ちょっと野暮用。心配しなくても直ぐに私も戻るよ」

「何が、」

「エド君、良いから。それとも一人じゃ戻れない?」


 からかうように笑ってみせると、エド君はムッと表情を強張らせて私から籠を受け取り、さっさと家に戻る道を歩いていく。


 細かく聞かないのは彼らしい。私が詮索するなと笑顔に浮かべたのを直ぐに感じ取ったのだろう。

 ちょっと、エド君に深入りされると困るものかもしれないから。


 小さくなる背中を見届けて、私はエド君とは逆方向……シャハト側の方に向かう。

 この森はトーレスとシャハトの国境付近にあるので、行こうと思えばシャハトにも行ける。ただまあわざわざ魔女が迫害される国に行こうとは思わないんだけどね。


 静かに、森を歩く。ローブのフードを被って、顔を見えにくくして、警戒しながら。

 禁忌の森の外縁部に近付くにつれて、どんどん鼻につく臭い。その上、辺りが騒がしい。


 ああ、やっぱり。


「――馬鹿な人」


 此処は禁忌の森。魔女のおわす領域、決して立ち入る事なかれ――そうこの国で伝わってる事を、知らないのだろうか。


 ああ、知る由もないだろう。

 だって、侵入してきたのはトーレス国民ではないのだから。


「そもそもシャハトの兵士が越境してくる自体間違ってるんだけどね」


 何で入ったかなあ。シャハトの方にも禁忌の森には魔物がうようよ居るから近寄るべからずくらいは伝わっていると思ったのだけど。


 地面に転がっていたのは、間違いなくシャハトの兵だ。服装からして分かる。

 ただ、まあ何でシャハトの兵士が此処に居るかって問題だよね。


 ……探しに来た? 今更?


 禁忌の森付近で消息を絶った、のなら禁忌の森を探すのが当然なのだけど……幾ら何でも遅すぎないだろうか。伝達の問題? それにしても遅すぎる気も……。


 と、そこで倒れていた男が動いた。というか呻いた。


 そうなんだよね、血塗れなんだけど生きてるんだよね。魔物に襲われて瀕死になっていたみたいってだけ。

 今私が来たから魔物は去ってしまったけど、気付かなければそのまま骨ごとしゃぶりつくされていただろう。


 さて、どうしたものか。


 ……私、正直言うと、彼が死のうが生きようがどうでも良いんだよね。魔女は気紛れで、自分勝手で、そして自身の領域を侵される事が何より嫌いだから。

 他国(トーレス)の、それも禁忌の森に入ってきた彼が悪いのだ。


 それに、この人はエドヴィンを探しているのだろう。なら助ける義理はないのだ。

 放置してしまえば死ぬ。ただ、魔物に殺されたと思われるだけ。私が手を下すまでもなく、死ぬ。相手には手がかりがなくなる、のだけど。


「……きみ、は……?」


 あ、気が付いてしまった。

 仕方ない。


「――妾の森に何の用か」


 ちょっと口調と声を取り繕う。傲慢に、冷酷に。魔女として、気高く孤高の存在として。


 フードがあるから完全には顔も見えないだろう。それに、意識が朦朧としているのに顔を覚えられる訳がない。


「此処は魔女の住まう土地。妾の領域。人間風情が立ち入って良い場所ではない。何用だ。返答如何では死を以て贖って貰うぞ」


 脅すように地に伏せた彼の目の前に雷を落とすと、ヒッと肺を引き絞るような悲鳴。

 ……うん、何か此処まで怯えられると罪悪感湧くよね。


「何用で侵入した」

「……ぅ、あ、……人を、探して」

「人?」

「くろかみ、の、おとこ、を……」


 やっぱりエド君絡みか。というか何でそこまでエド君を執拗に探すかな。死罪にしたのもおかしいけど、禁忌の森で消息不明ならほぼ十中八九死亡と見なしても良いだろう。

 他国に入って、それも禁忌の森にまできて探すとか、普通はおかしい。


「そのような者見ておらぬ。見たらくびり殺しておるわ。……貴様もそうしてやろうか?」

「ひっ、それだけは、どうか、」

「……目的はそれだけか」

「あ、と、は……革袋、を」

「……革袋?」

「その男が、持っている、革袋の中身を、持ち帰れと……ヘルミーネ様、が」


 ――革袋。

 そういえば、エド君、最初に小さな巾着袋、持ってたよね。あれ、革製だった気が。


 ヘルミーネ、はシャハト国王の王妃の名。つまり、その王妃はエド君を、というより……その革袋の中身を欲していた、という事になる。

 中身は私も知らない。あれから気にした事もなかったし、わざわざ聞く事でもないと思ってスルーしてた。


 王妃が欲しがるようなもの……?


「中身は」

「しら、な……」

「まあ良い。さて、貴様には侵入した罪をどう贖って貰うか」


 どちらにせよ、彼はそう長くなさそうだ。少なくとも放置していれば。


 ああ面倒な。情報が手に入ったのは良いのだけど、魔女の存在をみられたのがなあ。まあ顔は見せていないのだけど。


 仕方ない、と私はその辺にあった薬草を彼の口に突っ込んでやった。

 むがっ、と声がしたけど知らない。そのまま咀嚼させる。


 その辺に生えてる薬草なのだけど、ちゃんと成分を抽出しないと幻覚を見せる薬草だ。

 そのまま噛ませたので、多分効く筈。一日分くらいの記憶は飛ぶくらいには強い。


 程なくして謎の声をあげる彼に、彼の上着を剥ぎ取って破り、止血効果のある薬草を当ててから傷口を塞いでやる。薬草の宝庫だった事を彼は感謝して欲しい。


 大怪我は私の責任ではないし、この手持ちのものでは手当てしきれない。あとは彼の気力次第なのだ。正直助ける義務も道理も私には存在していないのだけど、多少良心が痛むので助けてあげるだけ。


 家に持ち帰る訳にもいかず、かといって森に放置だと死ぬので、一番手っ取り早く森の外に置いておく事にした。


 一番近い町に向かう道の脇、そこに置いて後は彼の幸運を期待するしかない。私から助けるつもりはない。

 運が良ければ誰かが助けてくれるし、若しくは自分で気が付いて町に向かうだろう。


 本来なら野垂れ死にする所だったし、ぶっちゃけ今まで私が関与してないところではそうだった。

 禁忌の森に入った人間に気付いてわざわざ助けに行く訳がない。入る事自体愚かな行為だもの。

 エド君が気紛れだっただけで、私は善人ではないのだから。


 まあ、そんな訳で私は彼を町に近い道に置いて、森に戻る事にした。


 ……エド君、全然帰ってこない私を不審がってるだろうなあ。どう説明したものか。

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