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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第三章 王子様の秘密と魔女の秘密
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王子様は就職希望です

「そういえば、エド君って何で町に行きたがったの?」


 薬の納品を済ませて二人共風邪を完治させて、漸く一息ついた所で、私は気になっていた事をエド君に聞いた。


 あの日、エド君は町に行きたいと言った。暇潰しというよりは、何か目的があったように見えるのだけど。でなければ私同伴で行くだろうし。


 問い掛けにエド君は、ちょっと躊躇うような顔を見せる。


「……怒らないか?」

「いや正体バラしたとかしたら怒るというか困るけど、それ以外は別に」

「……その。金を稼ぐ手段を探していた」


 ……はい?

 王子様がお勤め希望とな?


「何か欲しいものでもあったの? 言ってくれたら買うけど」

「違う! 俺はただ、お前に世話になりっぱなしなのは癪だったから働こうと思っただけで」

「エド君仮にも王子様でしょ。よくその発想が出てきたね」


 幾ら忌み子として幽閉されて来たとはいえ、衣食住は立派なものを与えられていたらしいエド君。

 王族としては扱われなかったかもしれないけど、ある意味で高貴なる虜囚として扱われてきた筈だ。本人だって離宮に居たって言っていたからね。


 だからまあ、基本的には出される、与えられる、なのが当たり前だった筈だ。

 他の人間からは蔑まれていたとしても、それだけは確保されていたみたいだから。


 義母……確かこの場合は正妃だっけ、正妃の意向を構わず庇えるなら、多分父親本人が庇っていたんじゃないかな、とは思うんだけど。

 ……待って、その父親が庇えなくなったから、エド君は死罪を言い渡されて追われた……?


 アレクから聞かないと分からないけど、何となく読めてきた。けど確かな予想ではないしほぼ憶測と言って良いだろう。

 今エド君にそれを言うつもりはない。


 まあ、脱線してしまったそんな重たい事情はひとまず置いておき。


「別にエド君がわざわざ働かなくても、困りはしないんだけどなあ」

「……俺が頼りっぱなしなのが嫌なんだよ。女におんぶにだっことか、情けないだろ」

「別に良いのに」

「良くない」


 エド君的には譲れない事柄のようだ。


 というか何でいきなりそんな事を言い出したんだろうか。ヴィレムの言っていたあれだろうか。

 よく分からないけどヴィレム曰く男の子にはプライドがあるらしくて、頼りっぱなしだと沽券にかかわるらしい。難しいものだ。


「とにかく、だ。俺としてはお前に借りを作りっぱなしなのが気に食わない。返すべきだと思う」

「一緒に住んでるのに借りも何もないと思うけどなあ。私が勝手に拾ったんだもん。それに、エド君どうやってお金稼ぐつもりなの」


 エド君は王族で、一応逃亡者の身だ。幾ら変装しているとはいえ、万が一が考えられない訳でもない。

 あんまりうろちょろするのも本当はよくないんだよなあ。まあ気にせずさせてるけど。

 というか、王族が庶民の労働に耐えられるのだろうか。


「そこは抜かりないぞ。刺繍やレース編みの作品を雑貨屋に売るくらいなら出来た。というか売ってきた」

「行動早いね!? というか大丈夫だったの!?」

「最初に町に出た時に会った女の店を、薬屋の男に紹介して貰った」


 あ、エレナの店か。彼女のお店は雑貨屋だから、まあそりゃあ品物さえ良ければ買い取ってくれるだろう。エド君のは出来が良いもの。

 それに、エレナは私の顔見知りでエド君もあの時見たから、初対面の人に交渉するよりはやりやすかっただろう。


 そこからエレナづたいに他の店にツテを作り上げる事も出来るだろうし、エド君が出来る中では最善の手立てだとは思うけど。


「だから、これ」


 そう言って、エド君は私の掌にしゃらんと革袋を乗せる。中身は硬貨だろう。

 思ったよりも量が多いんだけどエド君。適正な値段だとは思うけど、初めてでよく買い取ったなエレナも。


「偶々店に居た女がそのシーンを見ていたらしくて、エレナ……だったか、彼女から直ぐに買っていった。売れるものなんだな、本当に」


 ……それ多分エド君の顔面パワーもあるのでは。

 美形お手製レース編みの作品とか、ある意味売れそうだからね。エド君黒髪だからとやかく言われるだけで、一般的な髪色になったら単なる美形だから。


 噂になるだろうなあ、色々。


「……まあ、へましてばれない限りは良いんじゃないかな。でもこれは受け取れないよ、エド君の作品への正式な対価だもの」

「その作品はお前が材料を出したんだろう。衣食住全部お前に用意して貰っているんだぞ」

「ええー。分かった分かった、じゃあこれだけ」


 革袋の中を漁って、硬貨を一枚摘まむ。


 ……別にね、私エド君からお金貰いたいとか思わないんだよね。

 ご飯だって半分くらい森にあるものを使ったりしてるからそう困らないし、衣服もそう高いものじゃない。

 エド君には、一緒に居て貰って退屈をしのいでくれているんだもの。それだけで結構な対価になるんだけどなあ。


「……それだけで足りる訳がないだろう。流石に俺でも分かるぞ」

「良いの良いの。エド君には服とか綺麗にして貰っているし、最近お手伝いして貰うようになったから。お金には困ってないから大丈夫だよ」

「俺が嫌なんだ。自己満足だろうが、受け取ってくれ」

「私が嫌なの。じゃあそれで材料でもまた買って、たまーに私に何か作ってくれたらそれで良いよ。私、お金はもう受け取らないからね」


 一枚だけ貰ったら充分だ。

 その後はエド君自分で材料買って賄っていくだろうし、自立出来るレベルには稼げるかもしれない。


 そうしたら、エド君はもしかしたら此処を出て行ってしまうのだろうか。

 ……それは、寂しいなあ。


「……私、エド君が側に居てくれるだけで充分満足なのになあ」


 対価なんて要らないから、このままのんびり二人暮らし出来たら良いのにな、と思うのは我が儘だろうか。


 うーん、我ながら此処までエド君を気に入るとは思ってなかった。最初は何となく、可哀想だったから、拾ったのに。

 今じゃ、一緒に居て居心地の好い人になってしまった。なんというか、エド君の突っ込みが楽しいんだよね。何だかんだ優しいし。


「――っ、だから!」

「はい?」

「何でお前はそういう誤解を招きそうな事を言うんだ馬鹿!」


 何故かエド君がぷりぷりし出した。

 誤解を招きそうな、と言われても。嘘偽りない本音のつもりだったんだけどな。


「わざとじゃないし、本気だよ? エド君が住むようになって、味気なかった毎日が色付いたもん。だから、それだけで充分だよ」

「……っ、俺は他に行く所なんてないし、此処に居る。あんなので良いんだったら、作る」


 そう言ってそっぽを向いてしまったエド君。照れ隠しなのか、耳が赤い。


 他に行く所が出来てしまったら何処かに行ってしまうのかなあ、なんて思いながらも、嬉しくてつい頬を緩めてしまう私だった。


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