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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第三章 王子様の秘密と魔女の秘密
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魔女様のお仕事

 取り敢えず在庫確認しに行くだけのつもりだったから、エド君にはお留守番して貰おうと思ったのだけど……エド君も行く、という事で一緒に行く事になった。


 暇だったのだろう。禁忌の森をうろつけるようになったとはいえ、私が居なければ迷子になりかねないので私同伴じゃないと出ないし。


 そんな訳で今日も手を……というか今日は親指を引いて、町を歩く。小指よりは進歩してるね、うん。


「……何か今日やけに見られてない? エド君、美形だからってオーラ振り撒かないでね」

「んな訳あるか。というかそこで俺が謝罪したらとんでもないナルシストじゃないか」


 大体視線を集めるのはエド君のせいなので注意するのだけど、エド君は突っぱねてしまう。


 因みにエド君は今日も師匠のローブで地味に纏めているのだけど、それでも美形はオーラを発してしまうので美形とは大変だな。

 あんまり目立って欲しくはないのだけど、逆にこんなに堂々としていれば変装も相俟って誰も王子様なんて思わないだろう。


「まあエド君がそういうのならそういう事にしておくけど。取り敢えず、さっさと目的地に行こうか。私、エド君のおまけでも見られるの好きじゃないの」


 私まで視線を浴びているような気がしてくるので、用事を手早く済ませるに越した事はない。

 ちょっぴり居心地が悪くて肩を縮める私を、エド君は静かに見ながら溜め息をついた。




「……あれ、リア? どうしたんだよ女装して」

「気持ちは分かるけど女装って言うな女装って」


 店に入って早々に失礼な言葉を投げ掛けられたのだけど、一瞬納品止めてやろうかと思った。するけどさ。お客さんが困るし。


 カウンターの奥に居た青年……ヴィレムは、紫の瞳を丸くして私の姿をまじまじて見る。

 女装とか言うな。普段雑な格好しかしないからそう見えるのも分かるけど。


「いや、リアがそういうの着るとか珍しいしきっちり髪整えるとか天変地異の前触れじゃ」

「薬二割増しで売るよ」

「ごめんって。で、そちらさんは?」


 私が伴っているエド君に視線を移して、興味深そうに観察するヴィレム。

 そういえばヴィレムの店にエド君連れて入った事はなかったからね。納品暫くしてなかったし。


「この子はエドワード。エド君って呼んでるの。この間から私の家に居候してて、えーと助手みたいな事頼んでるの。薬師見習いというか?」

「え、何そいつと一緒に住んでるの?」

「うん。……何?」


 何か駄目なんだろうか。弟子という立場なら一緒に住んでも問題ないだろう。


「男女で住むって相当な事だと思うんだが。普通、他人と住むとか嫌だろ」

「そう? 一緒に寝ててもへーきだよ、偶に抱き枕にされむぐぐぐぐ」

「余計な事を言うな! あと一回しかしてない!」

「ぷはっ。残念三回あったよ、私が早く起きてすり抜けてるだけだもん」


 口を塞がれてしまったので抜け出しながら笑って指摘してやる。


 実はエド君、カーテンの下から引っ張ったりして抱き枕にしてきた事があるのだ。

 寝ぼけてるというか寝ていて無意識だったんだろうから、気にしなかったんだけど。


 一度目はエド君が起きたから自覚はあっただろうけど、二回目三回目は起きる前に抜け出していたのでエド君は気付いていない。

 ……エド君は、初めて知ったと愕然としつつ顔を赤くしたり青くしたり忙しそうだ。


「え、何お宅ら一緒に寝るとか恋人とかそんな感じなの?」

「断じて違う!」

「おうち狭いからベッド二つ置けなくて一緒に寝てるだけだよ」


 結局ベッド作ろうとしたんだけど置場所なくて止めたんだよね。

 別に一つのベッドで二人収まるからいいかなって結論出たし。エド君滅茶苦茶抵抗したけど。


 今では慣れて普通に寝てくれるから、順応してきたんだと思う。


 案外普通に生活出来るよ、とヴィレムには言ったのだけど、聞いていたヴィレムはなんとも憐れむような眼差しをエド君に向けている。


「……うわー。エドワード、頑張れ。それとも役得か?」

「んな訳あるか!?」


 全否定された。

 そもそも役得って、何が役得なんだろうか。

 別に、一緒に寝てもエド君に得はないと思うんだけどなあ。狭いだけだろうし。


 きょと、とエド君を見上げても全力で首を振るので、説明はしてくれないようだ。

 対照的な私達の様子にヴィレムは「あんたら面白いな」とげらげら笑っている。


「ま、オレとしては薬師の生活なんて口を挟む事じゃないから良いんだけどさ。で、今日は納品しに来た……訳じゃないよな、手ぶらだし」

「ああ、うん。在庫聞こうと思って」


 っと、話は変な方向に行ってしまったけど、当初の目的に戻ろう。

 此所からはエド君には分からないだろうから、私達だけの会話になる。


「補充はいつも通りで良い?」

「いつも通りと、それとゼルパ熱の治療薬を追加注文で。此方に子細書いてるからこの量な。最近近くの町で流行り出したらしいから、こっちにも流れてくるかもしれない」

「手間がかかるんだけどなあれ……。納期は?」

「二週間でいけるか?」

「材料の調達があるから、急いだら何とか」

「じゃあ二割増しの金額で良いか」

「三割」

「……二.五」

「まあ良いか。分かった」


 ……エド君、何かなその「お前交渉出来たんだな」的な眼差しは。

 急ぐならば割り増し料金を貰うのは当然だ。吹っ掛けてない分ましだと思う。私は正当な対価でしか基本的に動かないからね。


 残念な事に、私は人助けがしたいから、とかそんな崇高なものはないし、それでは動かない。対価、もしくは私の興味を引く事がないと、わざわざ動いたりはしない。


 魔女はそんなものだし、人間だって損してまで他人の為に働く人なんて滅多に居ないだろう。

 私は善良な魔女のつもりではあるけど、人にとっての善良と魔女にとっての善良は違うし。


「いやあ、リアもちゃんと値段見極められるようになったよな。最初は俺にぼったくられてたのに」

「うるさいな。というかそれはヴィレムのせいでしょう、全く。私も生活があるの」


 魔女とは思えない発言だけど、実際そうだ。

 生活できる分だけお金があれば良いとは思ってる。まあ食費二倍なのでそれなりに稼いでおきたいのだ。此所はまあ人間も同じだろう。


 ヴィレムはエド君を見て「養われてるねえ」とか笑ってるけど、エド君気にしなくて良いから。

 ああもうヴィレム余計な事言うからエド君が罪悪感を滲ませてるじゃないか。


「エド君大丈夫だよ、私に任せておけば問題ないから。別に何しなくても良いから、ね?」

「リア、逆にそれ男のプライド抉るからね」

「え?」


 ……あれ、エド君が顰めっ面してる。あ、いやその、本当に気にしなくてもいいんだけどなあ。


「あのねエド君、良いんだよ本当に。私、エド君居てくれるだけで充分に毎日楽しいから。ね?」


 これは本音だったのだけど、エド君がむすっと不機嫌そうな顔になってしまった。

 ヴィレムはヴィレムで笑ってるし、どうしたものか。




 結局、エド君は帰っても不機嫌そうなままだった。というか、何か思案した様子だ。

 帰りがけお願いされて糸を購入したのだけど、それをじっと見つめて悩んでいる、みたいだ。何か新しい図面でも考えているのだろうか。


「えーとエド君エド君、私これから多分調合にかかりきりになると思うから、その間自由にしててね。森に出ても良いけど、あんまり遠くに行くとまだ迷子になっちゃうだろうから、程々にね」


 そんなエド君は気になるのだけど、私は私で薬の調合をしないとならないので、ずっとエド君にかかりきりという訳にもいかないのだ。


 ある程度の用意はするけど、他は自由にして貰うしかない。暇潰しはあるだろうから、それで我慢して欲しい。


 いつもの注文分の薬はもう作ってあったのだけど、追加で注文された薬は今から作らなくてはならない。

 その上調合するのにやけに手間がかかるのだ。


 調合素材を森から取ってくるのもそうだけど、薬草を乾燥させたり、別の薬草の特効成分を抽出するのに二日浸水させてから丸一日煮込んで毒素だけ消すやら幾度となく蒸留やら濾過やらして不純物取り除いたり、とにかく時間も手間もかかる。


 ゼルパ熱は罹患すると高熱を引き起こしてそのまま帰らぬ人になるとかもよくあるので、まあ流行る前になるべく早めに納品してあげたいとは思う。

 私だって無闇に人を死なせたい訳ではないからね。


 暫くは忙しいからね、と先んじて言っておき、私は取り敢えず素材を取りに素早く森に出た。

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