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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第三章 王子様の秘密と魔女の秘密
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魔女様のおめかし

「……うーん、そろそろ薬を納品しに行かなきゃなあ」


 そろそろ薬屋に卸した薬も売り切れる頃なので、新しく納品しないかなきゃならない。エレナがよく買っているお薬も、多分使用頻度を考えれば品切に近いだろうし。

 定期的に納品しに行ってるのだけど、そろそろ次の納品がある。


 私の呟きに、相変わらず刺繍……じゃない、今日はレースを編んでいるようだ。まあレース編みしているエド君が顔を上げる。

 女子力本当に高いねエド君。私より余程女の子っぽいよ。聞かれたら怒られるだろうけど。


「……そういえば薬師やってたんだな」

「そうだよ、といっても基本的には卸すだけだからね。そんな人とも関わりは要らなくて楽なんだよ」


 薬を一人で作って納品するだけなので、そう大勢と関わる訳でもない。

 調合は仕事兼趣味のようなものだし、苦ではない。あまり沢山の人と関わるのは苦手だし避けてるけどね。


「町に行ってどれだけ薬が必要かちょっと聞いてくるね。定期納品分だけで足りるか聞いてみる」


 そう言って鍵を持って出ようとして……エド君に手首を掴まれた。


「エド君?」

「お前な、その普段着で行こうとするな」


 どうやらいつもの色褪せた服で行こうとしたのが駄目だったらしい。


「えー、じゃあそこのローブ着てくから、」

「朝に薬液ぶちまけて洗って干してる途中だろ」

「そうだった。……このままじゃ駄目?」

「駄目に決まってるだろうが。しかもそんなぼさぼさな髪で行くな」


 怒られてしまった。……エド君は結構見た目に気を使うよね。王族だからそういうところはしっかりしてるんだろう。


 私としては誰も見るものでもないだろうし、多少だらしない格好でも良いんだけどなあ……というのが顔に出ていたらしくエド君に額を小突かれた。

 痛い。エド君は小姑のようだ。


「はいはい、今度はちゃんと着替えますー」


 エド君が外に行くなら服装を整えろとの事なので、仕方なくクローゼットを漁りに行こうとして……エド君からぽいっと服を投げられる。

 きょとん、と目を丸くしてエド君を窺うと、それを着ろ、との事で。


 ……拒否権はないらしい。

 まあエド君が指定したなら逆らうつもりもないし、エド君なら審美眼も確かだろう。ところで、こんなワンピースあっただろうか。


 首を傾げながらも素直に着替えてくるのだけど……いやはや、何というか、エド君って本当に器用だよね。


「……どうだ」


 着替えてきた私の姿を見て問い掛けるエド君だけど、エド君自体とても満足げな顔をしている。


 ……いや、うん。凄いと素直にびっくりしてるよ。


 今私はエド君から渡されたワンピースを着ているのだけど、それがエド君に刺繍の為に占領されていたワンピースなんだよね。

 うん、つまり刺繍でお飾りされて返ってきています。


 あまり派手な色は苦手で紺地のものだったけど、襟や裾の辺りに白の糸で花と蔦の模様があしらわれている。


 私の趣味というか好みを服で判断したらしく、派手ではなく品を持たせたデザインで、目立たないけれど確かな可愛らしさがある。

 飾りが足りないと言わんばかりにレースのリボンまでついているので、何だか服が生まれ変わった感じだ。

 素材は変わらないのに、ちょっとした飾りでこうも変わるのか。


「びっくりしたよ。……というかよく出来たね」

「慣れだ慣れ。……あと、そこに座れ。髪梳くから」


 言われるがままにソファに座ると、あまり使わない櫛を持ってきてせっせと私の跳ねた髪に櫛を通している。

 あまりに丹念にするからびびるのだけど、彼はとても真面目な顔をしているから黙っておいた。


 ……王子様に身支度をして貰う。これ程シュールな光景は中々にないよ。


 別に着飾っても、エド君が知ってるようなきらびやかな女性にはなれないんだけどな。


 物好きだなあエド君は、なんて思いながらされるがままでいると、軽く長い髪を編まれて服に付いたものと同じ意匠なレースのリボンで結んでいる。


 ……エド君、引きこもりの王子様だった筈だよね? 何故侍女のような事が出来るの?


 因みに聞いたら「人を見てたら覚えた」との事。……見て覚えられるんだったら薬草の採取とかにも役立てそうで良い事だろう、うん。


「まあ、これで良いだろう」


 満足げなエド君に促されて鏡を見に行くと、ちゃんと町娘のような格好にはなっていた。

 うん、前の自分よりは可愛く見える。髪跳ねてたし、そんなお洒落なんてする気なかったからね。


「おお、なんかそれっぽく」

「……素材が良いからこれでも充分だろう」

「それはどうもありがとう。という割に最初男と勘違いしたよね」

「あ、あれはその、髪がボサボサだったし、体型出ないローブ。着ていたし」

「はいはい」


 エド君に男と勘違いされた事は忘れていない。怒ってもいないけどね。


 そりゃあ、あんな雑な格好してたら見えないよなあ、と今の格好と比べて思うもの。エド君には野猿にでも見えたんじゃないだろうか。


 まあ、今ならそれなりに女の子に見えるだろう。

 ただ、何というか。


「……うーん、何か、凄い違和感がするなあ。こういう格好しないし」


 私は、別に衣服とかは拘らない。着る事さえ出来れば男物でも良いし。いや男と勘違いされるのはちょっとむかっとするけど、別に構いはしないのだ。

 可愛い格好をすると、何というか、くすぐったい。


「……別に要らないと思ってたんだよね、お洒落とか。着飾っても自分しかこの森には居ない。薬師の時はローブでも充分。お洒落なんてする意味なんてなかったし」

「……俺が居るだろう、今は」

「人目があるからシャツ一枚だと駄目だもんねえ」

「止めろ」


 エド君がうるさいからシャツとか下着でうろうろ出来なくなったのは残念だけど、でも、うん。

 こういうのも悪くないかもしれないなあ。


 鏡に映る自分は、町娘となんら変わらない。今だけは引きこもりの魔女でなくて、女の子のように見える。

 可愛さは残念ながら中身が私なのでそうはないのだけど。


「エド君エド君」

「何だ」

「似合う?」

「……まあまあだな」


 スカートをちょこんと摘まんで聞いてみたら、エド君はちょっとだけ口をつぐんでからエド君なりに褒めてくれた。


 絶賛してくれるとは全く思ってなかったので、ちょっと褒めてくれただけでも充分だ。いや褒めてくれなくても勿論良かったのだけど。


「ありがとうね、エド君」


 笑ってエド君の手を握ると、エド君は顔を赤らめて手をやんわりと払いのけた。

 こういう仕草もちょっと優しくなったのは、私だけが知る事だ。


 そっぽを向いてしまったエド君にまた笑って、私はほっこりした事を内緒にしておこうと心に決めた。

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