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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第二章 王子様と共同生活始めました
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王子様と眠れない夜

今回は三人称でエド視点です。

 ――寝たか。


 隣で静かな寝息を立てるリアに、エドヴィンはひっそりと安堵した。


 先程まで頬が火照って仕方なかったのだが、漸く落ち着いてきた。リアに抱き締められてからというもの、嫌という程に鼓動がエドヴィンをせっつく。


 柔らかな感触を顔全体に押し付けられては、堪ったものではない。色事の経験がないエドヴィンには、あの刺激は強すぎた。


 本人は全く意識していなかったが、エドヴィン的には内心で「止めろ止めてくれ当たってるから」と叫んですら居た。


 能天気で女らしい格好はあまりせず、髪もいつも跳ねさせているリアは、普段なら中性的な雰囲気をさせている。


 それ故にあまり意識はしない、というかしないようにしているエドヴィンだが、くっつかれたり、薄い寝間着姿になられると、否応なしに女性と二人きりという状況を改めて突き付けられるのだ。


 自分よりも随分と小さな体。華奢な四肢。まだ幼さの残る整った顔立ち。赤目だと面白くなさそうに本人は言っていたが、紅玉にも勝る澄んだ輝きの瞳。柔らかそうな薄紅の唇。


 どうして男と間違えたのか、エドヴィン自身にも分からない程、リアは少女らしい姿をしている。

 恐らくローブ姿で野暮ったい姿をしていたから勘違いしたのだろうが、今ではとてもではないが男には見えない。


 ただまあ、雑すぎる格好な為に残念感が溢れるのだが。


 シャツ一枚で歩き出した時は流石のエドヴィンも頭を抱えてしまった。

 無防備過ぎる。脚が丸見えなど淑女にあるまじき行為で、飾り気のない下着が見えた時には全力で叱り飛ばした。


 本人は、きょとんとした後に「だって面倒だったんだもん」と拗ね気味に宣う始末だったが。


 エドヴィンはいろいろと頭が痛かった。


 性別をほぼ気にしていないという点が、彼女の最大の欠点だ。

 今も隣で異性が寝ている事を気にせず、のんきにすやすやと安らかに眠る程だ。


 少しだけカーテンを開けて空間を繋げると、やはり全く気にせずにぐーすかと少女は寝ている。

 これが国を滅ぼせる魔女だというのだから信じられない。エドヴィンにはただ無防備で天然な少女にしか見えない。


 カーテンの隙間からそっと手を伸ばして細い首筋を撫でる。

 このまま掴んで力を入れてしまえばポキリと呆気なく折れてしまうだろう。それ程に、この少女は華奢だ。


 何故、最初から警戒もせずに、隣で寝かせたのか、未だにエドヴィンには分からない。

 馬鹿な少女だ、とエドヴィンは思う。熟睡している所を襲い掛かれば捩じ伏せるも何もないだろう。


 それなのに、エドヴィンを至極当然のように寝床を共有するのだから、訳が分からない。


 流石に常識的に襲い掛かりはしないし、伴侶でもない女性に何もする気はないが……幾らなんでも無防備過ぎないだろうか、とエドヴィンが心配になるくらいだ。


 アレクシスにはなつかない猫のような態度を見せたが、何故それを自分には発揮しなかったのか。


 発揮していたら、あんな、柔いものを顔に押し付けるなんて暴挙はしなかっただろうに――とそこまで考えて感触を思い出してしまい、エドヴィンは呻く事になった。


 そもそも、アレクシスが余計な事を言わなければ、抱き締められる事はなかったのだ。


 そう責任転嫁して、エドヴィンはリアに聞こえないように囁かれたアレクシスの言葉を、思い出す。




「リアの事をどう思う?」


 リアがアレクシスの為にとてつもなく濃い薬草茶の準備をしている間に、アレクシスはひょっと近付いてきて小さく囁いた。


 エドヴィンとしてはとても苦手な人間だったので近寄りたくはなかったが、にこやかな笑顔が回答から逃れる事を許さない。

 故に「……単なる天然だろう」と無難に答えると、アレクシスも同感だったのかぷっと吹き出す。


 愉快そうに笑った後、アレクシスはその笑顔のまま「それもそうだね」と返した。


「まあ、それは否定しないんだけどね。でも彼女は君が思うよりとても繊細でアンバランスな存在でね。リアは魔女だけど、同時に人間でもある。か弱くて脆い、一人の女の子だ」

「……そんなのは分かっているが」

「本当かな?」


 にこやかな笑顔は、何処か薄っぺらいものに見えた。


 アレクシスの視線が、台所の方に居るであろうリアに向く。

 恐らくリアはアレクシスに細やかな仕返しとしてとんでもなく苦い薬草茶を入れようとしている。体をベタベタされたのが相当お気に召さなかったようだ。


「普段はまあ、普通なんだけどね。でも、彼女には、どうしても目を背けたい過去がある」

「……赤目の迫害か?」

「それもあるけど、もっと別のね。これは僕からは言えないから、いつか本人が言ってくれるのを待つしかないと思うよ」


 肩を竦めたアレクシスは、リアの方向から視線をずらし、此方を見てくる。

 今度は、おふざけなどない表情だった。


「出来れば、側に居る君が気にかけてやってくれ。リアは、実は結構に幼いんだよ。人として成長する大切な時期に、色々あったものだから」

「……あれが幼いのは同感だが、一体何が、」

「まあリアって体つきも多少幼いんだけどね。いやあれはあれで需要があると思うんだよね僕。発達しきってない肢体って素晴らしくない? 抱き付かれて分かるだろう?」

「殴るぞ」


 何故変態トークに付き合わなければならないのか、とエドヴィンがアレクシスを睨むと、アレクシスはいつもの表情でへらりと笑う。

 話の筋を逸らされた、と気付いてももう遅かった。


 何があった、とはもう聞き出せそうにない。そもそも、アレクシスが話すつもりがないのは明白だ。

 聞きたければリアが話すのを待て、と視線が物語っている。


「エドヴィン君は、リアに気に入られているよ。リアにとって過去の自分みたいだからね」


 出来たー! と、台所の方から弾んだ声が聞こえる。楽しそうなのは、余程濃く入れてやったからなのだろう。

 アレクシスはそんなリアにやや頬を引きつらせたものの、眉を下げて笑った。


「だから、その信頼を裏切らないでやって欲しいんだよね。出来れば、だけど」


 そう真面目に言った後「リアは子供っぽくて可愛いからこれからも成長を見守っていけるし、何なら自分好みに変えていけるしお得だと思うよ」とか変な事を言うので殴りたくなったが。




 ……信頼を裏切らないで欲しい、か。


 口の中で小さく呟いたエドヴィンは、なんとも穏やかな寝顔を見せるリアの頬を撫でる。


 彼女は、自分を信頼して、側に置いてくれているのだろうか。


 最初は、間違いなく同情からだ。腹立たしかったが、それに縋るしかない自身の弱さを呪いもした。


 だが、今では――側に居るのも悪い気は、しない。


 一緒に過ごしてきて徐々に変化してきた柔らかい眼差しが、親しげな態度が、信頼だというのならば、それも悪くはなかった。


 初めて知った他人の心地好さ。手放したくないと思ってしまうのも、仕方のない事なのかもしれない。


「うにゅ……」


 何とも間抜けな寝言が、小さな唇から零れる。

 ころん、と体勢を変えて此方を見るように横向きに寝返りを打ったリア。


 どう見ても十七歳には見えない無防備で幼い寝顔に、何とも言えない感情が湧き上がり、また消えていく。


 穏やかな温もりが胸の内を占めていたが、ふと、服の隙間から覗く白い肌に気付いてしまって一気に中で燃え上がる。


 広く開いた襟ぐりから覗く、白く滑らかな肌。

 横向きになった事できゅっと寄せられたその存在をちょっとだけ見てしまって、慌ててカーテンを閉める。


 見たくて見た訳ではない。

 そう自分に言い聞かせ、エドヴィンは背中を向けて瞳を閉じた。心臓がうるさくて仕方なかったが、気にしないと押さえ付けて。


 今夜は、中々眠れそうにない。

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