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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第二章 王子様と共同生活始めました
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王子様とお散歩しましょう

 次の日。

 悩みに悩んでの決断なのだけど、やっぱりエド君には結晶を渡す事にした。


「はい、エド君。これ」


 ……エド君は気が進まないのは分かってるんだけど、禁忌の森を歩いて貰おうと思ったら必須なので、私はお手製の魔除けを手渡す。


 一応、中身が見えないように小さな革袋に入れて、その上で頑丈な紐でペンダントにしている。

 無くされても困るので首から下げていて欲しいから。


「いやその、確かに血液製なので気持ち悪いとか汚いとか思っちゃうかもしれないんだけど、これは命綱なので出来れば受け取ってね」

「気持ち悪いとか汚いは思ってない。痛みを強いた事がむかついてるだけだ」

「ご、ごめん」

「お前が謝る事でもないだろう」


 エド君は結晶自体に忌避感は持っていないようで、ただ包帯を巻いた腕を見て痛ましげに瞳を伏せている。

 これくらい、気にしなくても良いのに。鍵を作る時なんてもっと抜いたからね。


 ……あ、そういえばエド君にも鍵を作ってあげないといけないよね。私と一緒に行動してたら楽しくないだろうし。

 私、基本的に薬を卸す店と食料品、それから書店に行くかなってくらいで他にはうろつかないもの。


「もうあんな事するな」

「え? でも、」

「良いからするな」


 エド君には念押しされてしまった。……どうしようかな、鍵作らなくても良いのかなあ。極論私と一緒に出たら良いんだけども、息が詰まったりしないのだろうか。


 ……まあちょっと不便なくらいだから、良いんだけども。


 エド君がそういうなら、と渋々頷くと、エド君は少し安堵したように息を吐いた。

 ちょっと不機嫌そうなのは変わらないのだけど、怒ってはいないようだ。


 エド君に革袋のペンダントを付けるように促すと、エド君は思ったよりも素直に首にかけてくれる。

 良かった良かった、割とないと出歩けないからね。私が居たら平気なんだけどさ。


「えーと、受け取ってくれたので、今日からエド君も禁忌の森に進出です。取り敢えずお散歩してみよっか」


 幾ら数日の一回町に連れて行ったとはいえ、ずっと狭い家の中で退屈だったと思う――そう言ったら「閉じこもるのは慣れている」との答え。

 何と反応して良いか分からずに曖昧な笑みを浮かべると、エド君も苦笑して「気にするな」と言ってくれた。


 でも、やっぱりうちは狭いから退屈はしてたと思うんだよね。離宮に居たって言うけど、宮と付くくらいだからそれなりに広かっただろうし。

 うちみたいなおんぼろな家とは雲泥の差だろう。よく馴染んだものだ。


 エド君は気にしていないみたいだけど、私が気にする。

 どうせ暇を持て余しているだろうし、気分転換に行こうか。


 エド君の手を引くと、やっぱり払われ……は、したけれど、何と小指を握ってくれた。地味な進歩である。

 ちょっとはなついたのかな、と思ったら口に出してしまっていたらしく「ペットじゃない」と背中を軽く叩かれた。その衝撃が弱いものだったのは、彼が手加減しているからだけど。


 それでも慣れてきてくれたのかな、なんて思うと微笑ましくて、つい笑っていたらエド君が不貞腐れてしまった。

 ごめんって馬鹿にした訳じゃないから。




「えーと、まあエド君にもその内採取のお手伝いをして貰うけど、今はそんなに気にしなくても良いよ」


 という訳でエド君を連れてお出掛けです。

 といってもあんまり遠出するのも面倒なので近場をちょろっと案内するだけなんだけど。


 足元にある薬草があったらこれはこういう効果があるんだよーと説明するくらいだ。

 流石に真面目に講義しようと思ったらもっと細かくなるので自重する。


 因みにエド君にこまめに飲ませている薬草茶の材料を見付けて説明したら物凄く渋い顔をしたので、余程不味いと思いながら飲んでるのだろう。

 あれも飲み慣れると中々に味わい深いんだけどなあ。不味いけど。


 まあ、そんな感じでゆっくりと禁忌の森を歩くのだけど、進む毎にエド君の顔が訝るようなものに。


「……禁忌の森って言う割に、平和過ぎないか」

「いやまあそりゃあねえ。魔物が居なければこっち側は平和だよ。私達は魔物に襲われる心配ないし」

「こっち側は」

「逆側……ええと、エド君が倒れてたシャハトに近い方には、ちょっと近寄らない方が良いかもね。向こうは道が平坦じゃなくてちょっと険しいし、魔物も多めだから。あと毒草も結構あるから、見分けられるまでは近寄らない方が良いよ」


 禁忌の森は平坦ではなくて、ちょっと山になっている所もある。その上魔物が居たりそこら辺に薬草やら毒草が生えてるから、まあ一般人が入れば普通に死ぬ。

 まあトーレスの人間は、余程の事がないと禁忌の森には絶対に近付かないんだけどね。


「禁忌の森って、何が禁忌なのかと言えば魔女が居るからなんだよね」

「……魔女が?」

「そ。トーレスは魔女自体には忌避感ないんだよ。決して機嫌を損ねず対価を与えさえすれば知恵を与え力を貸してくれる存在として見られている。深入りさえしなければ何もしてこない無害な存在って思われてるからね」


 というか魔女は人嫌いが多くて引きこもりがちだから、近寄ろうとさえしなければ何もしないんだよね。

 私の場合は面倒くさがりだし頼られてばっかなのは疲れちゃうからこもってるけど。


「まあ、そんな訳で、この森は恐れ多くも魔女の住まう領域。人の身で立ち入る事となかれ、というトーレス側が決めた事なんだよ。だから、禁忌の森なの」


 トーレスの民は恐れ敬うからこそ、入ってこない。

 あと純粋に魔物がうじゃうじゃしてるから入ったら割と死ぬんだけどね。魔除けないと死ぬし。


 この森は良い薬の材料があったり美味しい果物や木の実も生っているけど、魔物に襲われたり魔女の機嫌を損ねる事を天秤にかけると入ってくる馬鹿は居ないのだ。


 そう説明すると、エド君は何とも感心したようにまじまじと私を見る。


「案外凄い魔女だったんだな」

「む。そりゃだらしなくて残念な女ではあるけど、こう見えて魔女なんだからね。……魔女歴は短いけど」


 師匠から継いで、もう三年になる。一応、一人でやってこれたけど、ちょっと寂しかったな。


 でもまあ、今はエド君が居るので結構賑やかだし、寂しくはない。

 ただ、エド君小姑みたいに格好を注意してくるから困ったものだ。良いじゃんシャツ一枚でも。楽だもん。


 エド君が居るので迂闊な服装は出来なくなってしまったのだけど、まあ仕方ない。

 代わりに、私の話し相手として居てくれるのだ。それだけで充分だろう。


「まあ、そんな感じなんだ。禁忌の森って言っても、私達には殆ど害もないから安心して。まあ毒草とか崖には気を付けてね、くらいかな」


 人里離れている事を除けば、寧ろ魔除けさえ出来れば平和で過ごしやすい場所なので、エド君にも過ごしやすいと感じて貰える筈だ。

 泉だってあるし、結構に快適環境なのだ。町だって魔法でドア繋げてあるし。いつでも町にも行けるから、文句の付け所がないと思うんだよね。


 ただ、エド君、私よりも人見知りだからなあ。

 まあ、私でゆっくり慣れて貰おうか。大分私には慣れてきたみたいだし、他の人ともお付き合いを覚えて貰おう。

 今のところ追っ手もかかってないみたいだし、外に出る時は変装してるから大丈夫な筈。


 今後の課題だなー、とか考えながら、エド君の小指を引いて戻る。

 取り敢えずはお試しのお散歩だけなので、そろそろ帰ろう。本当は薬草を取っていきたかったけど、生憎採取袋持ってないからね。


 そう遠くもなく、私達は直ぐに家に辿り着いた。

 そうしてただいまーと誰も居ない自宅のドアを開けて――。


「お帰り、リア。会いたかったよ」


 ――誰も居ない筈の自宅に笑顔の青年の姿を認めて、無言でドアを閉めた。

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