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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第二章 王子様と共同生活始めました
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王子様はめざといです

ほんの少しだけ流血描写があります。

 取り敢えずエド君には刺繍とかレース編みとか道具一式を買い揃えてプレゼントしたのだけど、どうやら恥ずかしかったみたいでそっぽ向かれてしまった。気にしないのに。


 ただ「……暇潰しにはなるな、助かる」との声は貰ったので、満更でもないご様子。特技というか趣味なのかもしれない。


 エド君は早速私の服を直して(もうちょっと良いものを着ろと小言を言ってくるけど)、暇を見つけて刺繍をしている。

 ――何故か、私の服に。


 余程使い古した可愛げのない無地のシンプルな普段着が気に食わなかったらしい。比較的新しいい服を一つ、エド君に占領されている。勿論刺繍されてる。


 いやだって、一人暮らしで誰も見てないなら、ぼろい服でも良くないですか。面倒臭い時はシャツ一枚で充分だもの。


 ただそれやったらエド君怒っちゃったので(検証済み)、ちゃんと家でも着込んでいるのだ。お洒落はまあ、しないけど。


 まあそんな訳で、繕い物と簡単な掃除が彼の仕事になった。


 本当に余計なものさえなければ、まあお掃除は出来たし。

 まあ私のアトリエに入れる訳にはいかないけど。素材とかガラス製品がわんさかあるから、割られると困るもの。


 ……エド君が夢中になるものが出来たのなら、丁度良かった。


 私も、エド君の為に魔避けの準備しなきゃいけないし。


 お掃除とかを終えて、エド君はソファでちくちくと刺繍している。うん、全く王子様には見えないな。

 ただまあ真剣にやってるから、そういう表情はとても綺麗だ。


 何が彼をそこまで駆り立てるのかはさっぱり分からないけど、遣り甲斐を見出してるならまあ良いか。

 やる事もなくどうすれば良いのか路頭に迷っている彼よりずっと良い。エド君男の子だけど普通に針子になれそうだねほんと。


 まあ良いとして、私は私でアトリエに。魔避けの準備をするつもりだ。


 魔物避け、というのは魔法であり、道具でもある。


 この辺り一体は私の領域だ。だから、私なら襲われない。私の支配下にある。

 なので、まあ魔物に『私の所有物だ手出ししたらぶっ殺しちゃうぞ』って理解して貰えるようにする、といった感じだろうか。


 詰まる所、私の魔力を持って貰うのだ。


 本当に、丁度エド君が刺繍に集中していて良かった。

 流石に血を抜く所を見られるのは、ちょっと。


「……苦手なんだよなあ、痛いの」


 血を使うのが一番早いと分かっているからするけど、わざわざ自分を進んで傷付けたいとは思わない。

 痕とか師匠に拾われる前に散々痛め付けられていてその痕が元々あるので、気にしないのだけど……やっぱり痛いのは嫌なんだよなあ。


 けどエド君の安全の為だし仕方ない。


 小さなナイフを手にして、腕の服でも隠れる辺りを、ゆっくりと切る。

 これほんと痛いんだよね、馬鹿みたいだと思ってるけど仕方ないのだ。


 ぎゅっと痛みと苦いものを噛み締めながら、深くはない程度に調整しつつ傷を入れていく。

 浮かび上がる赤の玉は、やがて一筋の細い川になる。それをゆっくりと試験管に流し込んでいく。


 今回は、そんなに凝縮しなくても良いから一度きりで充分だろう。鍵を作る時はかなり繰り返したから貧血になった思い出だよ。


 ゆっくりと、液体を固めるようにイメージしながら、血に魔力を込めていく。

 真っ赤なルビーを想像する感じだろうか。あんなに綺麗で透き通ったものにはならないのだけども。


 小さく、濃密に、凝縮する。

 魔力を沢山込めて、これだけで触媒になるように。もし何かあった時の為の防衛用魔法も込めてるから、エド君が魔物でももし襲われたとしてもなんとかなるだろう。


 そうして魔力をたっぷり込めた血液は、試験管の中で硬質な輝きを放つ、小指の爪にも満たない程の結晶になっていた。

 うん、これで問題ないだろう。ただ、腕はやっぱりじんじんとしていて、新しい鮮血を肌にもたらしている。


 取り出して結晶を取り出して机の上に置くのだけど、この傷はどうしたものか。包帯持ってき忘れたんだよね。あと巻いたら不自然だし。

 弱ったなあ。


「……おい、今取り込み中、か……、」


 なんて悩んでいたら一番悪いタイミングでエド君が入ってきた。ちょっとノックしてよお兄さん。


 あ、と間抜けな声を放つのと、エド君の視線が腕に流れるのは、同時だった。


「……それはどうした」

「……えーと、諸事情によりちょっと」

「それ自分でやったものだよな」

「どうだろうねえ」


 やばい、エド君の顔がどんどん不機嫌になっていく。

 視線も鋭くなって、私の腕をじっと睨み付けているし。たらたら血が流れているのを見て、極限まで瞳が細められていた。


「自殺しようとしたのか」

「は? そんなまさか」

「じゃなきゃ自分で切らないだろ」

「違うって。何が悲しくて自殺を選ばなきゃいけないのさ」

「じゃあ何で自分で切ったんだよ」

「そ、それはその……色々と仕方なかったというか」

「結局自分で切ったんだな、それは」


 あっ。


 エド君の瞳は、鋭いまま。

 ただ、視線が机に置かれたナイフと、血のような赤色の結晶に滑る。ああやだ、エド君って割と勘が良いというか。


「……おい、それって」

「……答えないもん」

「答えなくてもいい。答えは出したから」


 言うや否や、エド君は血が流れていない方の腕を取り、そのままずんずんと引っ張っていく。

 先程までエド君が座っていたであろうぬくいソファに座らされて、念入りに「逃げるなよ」とまで低い声で命令されては大人しくするしかない。


 エド君は数日の間に何処に何が置いてあるのかは把握してしまったらしく、手当て道具が入った箱を持ってきてテキパキと血を拭って包帯を巻いていく。


 ちょっと血が勿体ないな、なんてぼんやり考えていたら、エド君は自分の指についてしまったらしい私の血を舐めて。……舐めた!?


「あああああ」

「何だよ、怪我人は大人しくしてろ馬鹿」

「な、何ともないの? 魔力をかなり含んでるよ?」


 魔女の血は、一般人が体内に取り込むと毒になりかねない。元々魔力を受け付けないのだから、拒絶反応が起こっても仕方ないのだ。


 それなのに、エド君は平然として……ああいや、私が馬鹿だったかもしれない。

 エド君は魔力があるから器はあるんだ、ただ、この場合他者の魔力を取り込んでも……平気、なのかな……?


「別に何ともないが。それよりお前、わざわざあんなもの作る為に血を流していたのか」


 実にけろりとしているエド君。

 ……魔力持ちだから、だろうか。わざわざ血を飲ませるなんてする訳がないし、こんな事初めてなんだけども。


「あんなものとか言わないでよ。魔除けする為に作ってたんだもん」

「……つまり、俺のせいで怪我したと」

「う。エド君のせいではないよ。私が勝手にしてただけだから」

「でも俺の為だろうが」

「……そ、そんな事ないもん。私はエド君にお手伝いして欲しかったから、外に行く為の安全装置を作ってるだけだったもの」


 これは嘘ではない。私はエド君に採取のお手伝いをさせたいと思っていたから、わざわざ痛い思いをして血を集めていたのだ。

 つまりこれはエド君をこきつかわせる為にしていたと言っても過言ではない。


 そりゃあ、エド君引きこもってたら昔と同じ状態で嫌かな、とか禁忌の森にも綺麗な場所はあるんだよと教えたかった、とか気分転換させてあげたかったとか、ないと言ったら嘘になるけども。


「あ、あのねエド君」

「……次やったら怒るからな」

「も、もう怒ってるよね」


 顔的に怒ってるよエド君。

 でも、別にエド君が気にする事じゃないのにな、ほんと。


 でもそれを言ったらエド君は余計に不機嫌になりそうなので、私は口をつぐんでやっぱりむっすりとしたエド君の視線を流すだけに留めておいた。

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