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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第二章 王子様と共同生活始めました
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王子様が女子力高い件について

「という訳で今日からお手伝いして貰います」


 暫く顔を合わせてくれなかったエド君だけど、流石にお手伝いの事になると視線だけはちょろっと合わせてくれた。

 未だにほんのりと頬は赤い。そこまで恥ずかしがる事なのだろうか。


「といっても、簡単な家の事ね。調合とかそっち系のお手伝いは、また慣れてきてからにするし」

「……何をしろって言うんだ」

「え、普通に家事。お洗濯とか、お掃除とか。多分料理は出来ないだろうから、出来そうな事を頼むつもり」


 何も最初から難しい事をして貰うつもりはないのだ。一緒に生活する上でしなければならない家の事を手伝って貰う。

 まあお料理は出来なさそうなのは見え見えなので、初心者でも簡単に出来そうなお洗濯お掃除を任せるくらいなんだけどね。


 王子様にさせる事じゃないんだとは思うけど、ほら、そこは働かざる者食うべからずってやつです。

 此処に住むんだから家事の一つや二つして貰わなくては。


 それくらいなら多分出来るでしょう? と問い掛けると、微妙な顔をされた。


 ……仮にも王族だからした事ないよねー。追い出される前の生活基準は扱いとしては不遇ながらも一定水準は保たれていたみたいだ。

 つまり、一応は彼は施される側だったのだ。……当然、こういう侍女がするような事は経験ないよね。一般家庭では普通だけど。


「ちょっとずつ覚えてくれれば良いから。ね?」


 基本一人でも出来るのだから、エド君が急速に覚える必要もない。というか極論はしなくても良いんだけど、してくれた方が私も助かるのだ。


 と、いう訳で、エド君も家事デビューです。




 ……まあデビューしたのは良いんだけど。


「最初から出来ると思ってなかったから良いんだけどさ」


 成功するとは確約されてないんだよね。うん。


 だからそう気を落とさなくても良いんだよ、失敗は誰にでも付き物だし。多少床が水浸しになってその上に本ばら撒かれても仕方ない仕方ない。


 因みにバケツにぶつかってバケツの水が床ざばーん→狼狽したエド君が今度はテーブルにぶつかる→本タワー崩れて床に→びっしょびしょのコンボです。どうもありがとうございます。

 一連の流れが見事すぎてちょっと面白かった。


 怒るというか、ドジっ子なのかなエド君とは思った。初っ端からこれなのでちょっと先行きが不安だ。


 エド君凹んでるけど、机の上に本をタワーにして起きっぱなしにしていた私が悪いんだし。先に片付けておけばよかったな。


「良いよ良いよ。大体本の中身は覚えてるし、乾かせば読めるから。私が置きっぱなのが悪かったんだよ」

「……」

「良いから良いから。多少しおしおになっても読めるし」


 絶賛後悔中なエド君に苦笑して、濡れた本を拾う。


 ……すっかり濡れて染み込んでいるな。

 革製の表紙とかはまだ良いんだけど、落ちた時に開いてしまって紙のページの面で着地したやつは駄目かもしれない。

 濡れた本を上に更に本が雪崩れて、衝撃で破けているのもある。


 もう少し早く気付けたら魔法でキャッチも出来たんだけど、つい見とれた(?)というか。


 これはちょっと外に置いて乾かそう。日光に焼けてしまうかもしれないけど、家に並べる所はないし。魔法で急速乾燥させると皺が余計に酷くなるから。

 なるべく丁寧に乾かしておこう。


 本を乾かす為にちょっとお外に重石をして出してからエド君を見ると、エド君はずーんと沈んでいらっしゃった。


「そんな凹まなくて良いというか、気にしなくて良いってばもう」


 得意不得意あるし仕方ないって。というか、別に自分でしても良かったから私がすれば良い話だし。

 流石に料理をさせる訳にはいかないし(大体結果が想像出来る)。


「エド君は何か得意な事とかある? それを生かす方向にしましょう」


 お手伝いして貰うのはまあ私の負担を減らすってのもあるけど、何より手持ち無沙汰だと彼が暇だからね。

 彼の場合、下手すれば力仕事が一番向いている気がしなくもない。やっぱり荷物持ちがお仕事になるのだろうか。


「剣、はまあそれなりに。それと……」

「それと?」

「……馬鹿にしないか?」

「何で馬鹿にする前提なの」


 どうやら何か言いにくい特技らしい。


 といっても、エド君は一応王族な訳で、王族が出来る事にも限りがあるんだよね。

 王族は低俗な趣味特技は持てないとは思うので、ある程度絞られたくるんだけど……役に立ちそうなのっていってもなあ。


 何? と首を傾げながら見付けると、エド君は実に気まずそうに瞳を揺らして。


「……し、刺繍……とか、レース編みとか、全般的に」


 奥底から絞り出すように、躊躇いがちに告げられる言葉。声の端々が震えているのは、多分、恥ずかしいからなのだろう。


 刺繍。レース編み。また意外なものが。


 言葉を噛み砕いていると、エド君は顔を真っ赤に染め上げて、ムキになったように私を睨んでくる。


「悪いか! 離宮に幽閉されてたらやれる事なんて限られてるんだよ! 手慰みにやってたら得意になったんだよ悪いかこの野郎!」


 まだ何も言っていないというのに、エド君はキレ気味に噛み付いてくる。お、落ち着いてどうどう。


 ぽかんと、呆然と彼をみるとやっぱりこれでもかと顔を真っ赤にしていて、私の視線に瞳を細めている。

 ただまあうん、……可愛い気がする。ムキになったエド君。


「えーと、裁縫は出来る……っていう事だよね?」

「……出来たら悪いか」

「あ、じゃあ良かった。結構服とかほつれてるんだけど私縫い物苦手で」


 良かった、家事出来るって事じゃないか。まあ想定外すぎたんだけど、そういう事出来るなら大丈夫だ。

 私に出来ない事をしてくれる方がありがたい。針とかはうっかり手に刺したり、そもそも不格好になるからなあ。


 じゃあそっち担当して貰おうかなあ、とのんびり口にすると、エド君は若干毒気が抜けたように此方を見ている。


「……馬鹿にしないのか」

「逆に何で馬鹿にするのさ。私はとてもじゃないけど剣は振れないし、裁縫は出来ないから」


 私に出来ない事が出来る、それだけで凄いのに何故馬鹿にする必要があるのだろうか。


 ああいや、常識的というものから考えれば男らしくないとは言えるのだろうけど、別に編み物とか刺繍を嗜む男子が居ても良いだろうに。

 ……ちくちくと真面目に刺繍するエド君を想像すると和むな、これ。


「だから、凄いと思うよ」


 純粋にそう思ったから褒めたのだけど、エド君は目を丸くして固まってしまった。

 どうしたの? と顔を覗き込むと、相変わらずの赤い顔でプイッと視線を逸らされる。


「……繕うものがあるなら寄越せ」


 言葉は刺々しいけど、実は声はそこまででもない。

 寧ろちょっと嬉しそうな辺り、誰かに認められたかったのかもしれないな。エド君、周りが自分を否定するような人ばかりだったみたいだから、尚更。


 本の分を挽回と張り切り気味なエド君に苦笑して、クローゼットから直して欲しい服を探し出そうと決めた私だった。

 まあ、私体型そんな変わらなかったから長年同じもの着ていて、結構に使い古しているし沢山あるんだけど。




「どんだけ繕うの面倒くさがってたんだお前! というか何でお前はこんなものしか着ないんだ!」

「こ、こんなものとか言わないでよ。楽なんだよ? 一人暮らしならローブ一枚で過ごせるし」

「俺が居るだろうが! これとこれなんか色褪せて生地も傷んでいるだろう! ぼろぼろ過ぎる!」

「だって別に誰も見ないし着なれてるし」

「俺には好きに買い与えて自分の格好には無頓着っておかしいだろう! お前ももうちょっとまともな格好をしろ!」

「着飾っても似合わないしー。別に誰も気にしないって」


 その後まあこんなやり取りがあったので、私よりエド君の方が女子力あるんだなあと思いました、まる。

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