14話
「ん………ここはどこだ………?」
長い眠りから目を覚ました優人は首を左右に振り、自分がどこにいるのかを確認しようとするが湖のそばで木にもたれ掛かっていたため思っていたように体が動かせず、横に倒れ込んでしまう。
「っつ…………ここは、森の中か?」
『正解だよ、お兄さんっ』
「っ!!」
脳に直接語りかけてくるその声の主の気配を感じ、瞬時にバックステップをとる。
するとそこに居たのは、白い光で構成された妖精の様なものだった。
『おっと待ってよ?ボクは敵じゃないからね?』
「…………確かに」
索敵スキルを使い、それの言っている事が正しいと理解する。
『信じてもらえたようだね。じゃあ自己紹介でもしておこうかな』
光の集合物体とも言うべきであろうそれは自らの名を名乗り、おそらくだが笑った。
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暗い洞窟の中を照らすランタンは2つ。
「………………」
「………………」
それを持つ2人の少女の動きに合わせてランタンは揺れる。
「………イリスちゃん」
片方の少女が今の今まで固く閉ざしていた口を開く。
「ユートは、帰ってくるよね?」
「…………うん」
また、洞窟内は静寂に支配される。
しばらく歩き、少女がまた口を開く。
「ねぇ、イリスちゃん。ユートは」
「大丈夫、だから」
「………何で!?」
少女は立ち止まり、声を荒げる。
「何で!?イリスちゃんはユートの事が心配じゃないの!?」
「心配じゃない、と言えば嘘になる」
「じゃあ何でそんな落ち着いていられるの!?
本当は心配してないからなんでしょ!?」
「ナナ、落ち着いて」
───ポカッ。
「あうっ」とうめき声を出しながら少女は叩かれた所をさする。
「落ち着いた?」
「うぅ………頭叩く必要あったかなぁ」
「良薬口に苦し、って師匠は言ってた」
「え?どういう意味?」
「分からない、でもナナには効く」
「何かすごい馬鹿にされている気がするよ………
そんな事よりも、イリスちゃんはどうしてそんなに落ち着いてるの?」
「師匠は、簡単には死なない。
それに、ヘルフレイムドラゴンが、言ってた」
「『借りていく』、だよね。
そんなの本当に信じていいの?」
「最初は、信じてなかった。
でも───────」
森精の少女は自分の考えを狐の少女に語る。
「………そっか。じゃあナナ達に出来る事は無いね」
「うん、だから、今は帰ろう」
「………そうだね、帰ろっか」
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「お前の名前は分かった。
で?俺はどうすればいいわけだ?」
目の前の光物体の自己紹介も終わり、優人は素直な疑問を投げかける。
『話が早くて助かるよ~。
ま、ボクのちょっとしたお節介に付き合ってくれればいいだけだよ』
「お節介、か。つまり俺に指導がしたいって事でいいんだな」
『まあね~。
そうだね、お節介ついでに一つ聞いてもいいかな?』
「何だ?」
『どうして、仲間と一緒に戦おうとしないんだい?
さっきの時だって、仲間と上手くやれば逃げれたかもしれないのに』
「………待て、何でその事を知ってるんだよ?
あの時あの場にいたのは俺とナナ、イリスとあの龍だけだろ?」
『はぁ、君はそこまで聡くないみたいだね。
ちょっと待っててね』
「え、どういう──────うおっ!!?」
光物体は優人の頭上高くまで飛び上がると眩しいくらいに光を放ち、それによって優人は目を伏せてしまう。
『ふむ、もう目を開けてもよいぞ、小僧よ』
「え、その言葉使いは」
気配のする方へ首を向けるとそこに居たのは先程までの光物体────ではなく、ヘルフレイムドラゴンだった。
「………まさか」
『おっ、物分かりのいいの』
「2つ、聞いてもいいか?」
『まあ、わしの答えうる範囲でなら答えてやろう』
「じゃあ1つ。
さっきの光物体とその龍と、どっちが本体だ?」
『さっきの姿じゃろうな。
この姿はわしが昔吸収したモノをそのまま真似ておるだけじゃからな』
「吸収?てことは他の姿にもなれるって訳か」
『そうじゃな。じゃが他のは需要が少なくての』
「そうか。
じゃあ2つ目の質問だ、その喋り方は何だ?
さっきと全く違うみたいだけど」
『あーそれの。この龍の意思を反映してると言うかなんと言うか、どうも取り込んだモノの口調に勝手に合わせてしまうようでの。
まあ気にすることでもないじゃろうて』
「いや、かなり気になったから聞いたんだけどな………」
『して小僧よ。わしの問いかけにも答えてくれんかの』
「………そりゃあ、あいつらを危険な目に合わせる訳にはいかないし」
『それで小僧が先にぶっ倒れてたら元も子もないじゃろうて』
「くっ」
『まったく、それだからお主は強いだけの男なのじゃよ。
若いうちは間違いを犯すのも仕方ないじゃろうが、さすがにこれは看過出来んからのう』
(………なんで俺、龍に説教されてるんだ?)
どうするかの、とブツブツ独り言に走る龍を見ながら、優人はため息をつきたくなるのを我慢する。
『まあ、3月はあるんじゃし、気長にやれば良いか。
さて小僧よ、その性根を叩き直させてもらうぞ?』
「ッ!?…………やるしかないか」
赤い瞳で優人を見据えた龍は今まで抑えていた威圧を一気に解き放つ。
殺気に近いそれを直に感じた優人は体の内側からじわじわと湧き上がってくる負の感情を無理やり押し戻し、強敵と対峙するのだった。
いかにも怪しい者との修行、優人はやっていけるのか……?
次回投稿は4/14(金)13:00予定です




