13話
「しゃ、喋った………」
「いや違う!脳に直接話しかけてきてるんだっ」
『ほぅ小僧、中々やるな。
それにこの気、お主この世の者ではないな?』
「なっ、どうしてわかる?」
『何、お主ら人類種よりも長く生きておるのだ、それしきの事気付くなど造作もない。
っとお喋りが過ぎたの、して何故ここに来た?』
「別に何か用があってここに来たわけじゃない、鉱石の採掘で洞窟を歩いていたらたまたま着いたってだけだ」
「そ、そうだよっ何も悪いことしてないからねっ!?」
『………どうやら嘘ではなさそうじゃの。
───ん?そこの森精の子、どうかしたか』
脳内に直接だが言葉を話す龍に驚きながらも対話を試みる優人とナナ。
そんな中で一人口を開かなかったイリスに龍が問いかける。
「っぁ、ヘ、ヘルフレイム、ドラゴン………」
『何じゃ小娘、この姿の名を知っておったのか』
「イリス、知ってるのか?」
「う、うん、お伽話に出てくる、最強の、龍。
で、でもあれは、伝説上の、生き物のはず」
『別に伝説じゃろうがなかろうが、今こうして目の前にいるではないか。
まぁ、そんなことはよい、このまま返すのも少々味気ないからのぅ………』
右前脚を器用に顎まで運び、無い髭をさすって考え込む。
そして何か思いついたのか、『おおそうじゃ』と3人の脳内に響かせる。
『丁度わしの体も鈍っておってな、お主らわしと一戦交えぬか?』
「………な、じょ、冗談だよね?」
『冗談など言うか。
ほれ一戦交えぬと言うのであれば、お主らをここから生かしては返さぬぞ?』
「そんな………勝てっこないよ」
『これ、始まる前からそんなのでどうする。
殺しはせん、ただの戯れじゃ』
目の前の龍がナナを諭す、が流石にその程度では恐怖を紛らわすことは出来ず、ナナは自分の肩を抱いて怯える一方。
イリスも伝説上の龍と戦うなど予想もしてなかった様で完全にすくみ上っている。
流石にこれはまずいと思ったのか過保護なのか、2人を見た優人が声を上げる。
「悪いけど戦うのは俺一人だけにしてくれ」
「なっ!?ユート!?」
『お主一人でわしと戦おうと申すのか?』
「ああ、問題ないだろ?」
『………興醒めじゃの』
「何?」
思いの外心外な事を言われ、目を細める。
『興醒めだと言っておるのじゃ。
異世界人よ、確かにお主は強い。恐らくはこの世の人類種の誰よりもの。
しかしそれだけじゃ、所詮は強いだけの男』
「な、何を言ってるんだよ………」
(俺が強いだけの男?
そんなわけないだろ、俺は、俺はっ──!?)
『ふん、その程度の男か。
そこの小娘たちよ、こんな男に付き従うのか?』
一人葛藤する優人を横目に、龍はナナ達に問いかける。
「………ユートは強いよ」
「ナナ……」
『ああ、強いよ。じゃがそれまで─────』
「それだけじゃないよ!!
ユートはナナが困ったら絶対に助けてくれるし、ちょっと過保護だけどナナの事を大事にしてくれるよ!!
ナナだけじゃない、イリスちゃんやリアさん、ニレちゃんやソフィアちゃんにもだよ!!
そんなユートを、ユートをばかにするなぁっ!!」
『………美しいな、小娘。少し気が変わった』
そう言葉にした龍は口から熱光線を放ち、優人と2人を分断する。
立て続けに優人に向け高火力のブレスを浴びせる。
「なっ、ブリザードウォール!!!」
咄嗟に水と氷の合成魔法・ブリザードウォールを発動し、ブレスがナナ達に当たらないよう右に反らす。
ブレスは狙い通り優人の右側に反れていくが、ブレスは一向に止まる気配がしない。
『この程度はさすがに防がれるか。ならば』
龍はブレスの威力をさらに上げる。
優人はそれに必死に耐えるが魔力がかなり減ったのだろう、額からは汗が止まらず苦虫を嚙み潰したような苦悶の表情を見せる。
(くそっ、底が見えない………
かといって他の魔法を使う余裕もない、手詰まりかよっ)
しばらくその光景が続き、龍のブレスは勢いが弱まっていく。
『ふっ、これまでか』
その龍の言葉と同時に水氷の壁は崩れ落ち、優人も糸が切れたように倒れ込む。
「ユート!!」
「師匠!」
すぐさまナナとイリスが駆け寄ろうとする。────しかし
『行かせんよ、小娘達』
龍の右前脚がそれを阻止する。
「通して!!ユートが!!」
『案ずるな。ただの魔力切れじゃのうて。
しばしこの異世界人を借りていくぞ』
そう言葉にした龍は優人の近くまで顔を運び───飲み込んだ。
『じゃあの、狐の小娘と森精の小娘よ。
3月もあれば返せるじゃろうから』
「待って─────きゃぁっ!!?」
「くっ………今のは」
龍は突然眩い光に包まれたかと思うと、その場から完全に姿を消す。
取り残された2人はただ茫然とするしかなかったのだった。
連れ去られた優人の運命は……?
次回投稿は4/12(水)13:00予定です




