8話
※お詫びと訂正
3章2話において優人の特性・錬金術が抜けていましたので修正させてもらいました。
その他多くの誤字、脱字のご指摘を受けました事をお詫び申し上げるとともに、この様なミスを無くしていく為より一層努力したいと思います。
これからも本作品を楽しんで頂けましたら幸いです。
買い物を一通り終えた優人達は一度部屋に戻ることにした。
途中で従業者に夕食について聞くと、準備が終わり次第部屋に連絡を入れるからそれまで待っていてほしいとのことだった。
「晩ご飯どんなのだろうね?楽しみだな~」
「魚、あるといいね、師匠」
「まあ、俺の予想通りなら多分あると思うけどな」
──────夕食の準備が整いました。一階大広間にお集まりください。
そんな事を言いながらしばらくくつろいでいると、どこからともなくそんな声が聞こえてくる。
「だってさ。大広間に行こうか」
「うん!!ナナもうおなかペコペコだよ~」
「私も、お腹空いた」
この時優人はまだ思いもしなかっただろう。
大広間で待ち受ける修羅場という修羅場の事など…………
───────────────────────────
「おお、広すぎるだろ………」
一階奥、連絡通路を渡った先の別館にある大広間は、言わば巨大な畳部屋だった。
客毎にテーブルが分けられているのは客同士のトラブルを避けるためだろう、その上には様々な種類の料理が盛り付けられた皿が客の人数に合わせて用意されている。
「──あっ、ユートあれ見て!!
『香の間』って書いてあるよ!!」
「ああ、きっとそこが俺らの場所なんだろ。
よく見えたな、あんな遠い所なのに」
ナナが指さしたのは、優人達のいる入口からずっと奥にあるテーブルだった。
優人の目にはテーブルの上に何かしらの文字が書かれたプレートを捉えるので精一杯だった。
「ナナ、目だけは良い」
「ちょっとイリスちゃん酷くない!?
ナナは耳もいいからね!!」
「イリス、あまりナナをからかってやるなよ?
多分分かってないから」
「知ってる。だから、やりがいがある」
「ユートもイリスちゃんもナナに意地悪してるのは分かるけど、どんな意地悪か分からないから悔しい……」
「ほら、そんなこと言ってないで早く行くぞ」
「───あっ、ちょっとユート待ってよ~!!」
必死に頭を使って考えているナナを無視して、優人とイリスは自分達のテーブルへと向かう。
テーブルに着き、腰を下ろす優人の左に座ったイリスが、目の前の料理を見て口を開く。
「師匠、私の魚、いる?」
「気持ちは嬉しいけどいいよ、自分ので十分満足だから」
「………むぅ」
自分の魚が受け取って貰えなかったのが残念だったのか、イリスが可愛らしい膨れっ面を見せる。
優人の右側に座っていたナナがその光景をチャンスと思ったのか、スプーンで豆腐(?)の様な白い料理をすくい、優人に向ける。
「はい、ユートあーん」
「…………は?」
「ほら、あーん」
「い、いや自分で食べ──」
「あーん」
「……………」
「あーん。あーん。あーん。───」
「分かったよ!!食べればいいんだろ!?」
パクッ。
差し出されたスプーンを優人はやけくそながらに口に含む。
すると口内にチーズの様な滑らかな乳製品の味がぶわっと広がる。
───────美味い。
「美味いな、これ!!」
「でしょ?これはチューロスって言う料理なんだよ!!
かなり高級な料理だから、こういう所じゃないと食べられないんだよ」
「へぇ、ナナはよく知ってたな」
「昔ね、お父さんがこの料理をたくさん持って帰ってきてくれた時があったんだー。
すごい美味しかったから今でもしっかり覚えてるんだ!!」
「まあ、確かにこれだけ美味いと忘れられないよな」
「うんうん!!それでね?この横にあるソースをね───」
「…………むぅ」
チューロスについて語る2人にのけ者にされて、イリスは更に頬を膨らませる。
そして何かを思いついたのか、パンを齧りながら優人の服の裾をくいくいっと引っ張る。
「どうした?───って顔にパンくずついてるぞ?」
「どこ?とって」
優人が口元に付いたパンくずを取ったその瞬間、イリスがとったその指ごと───食べた。
「なっ!?い、イリス!?」
───んむっ、ぐちゅっ、ぢゅっ。
「っぁ、ご馳走様」
じっくりと堪能したのか、指を解放したイリスが舌で唇を舐める。
そして、ナナに向かって「どやぁ」と言わんばかりの表情を浮かべる。
「………イリスちゃん?自分で取れたよね?」
「何の、話?」
「くっ────いいよ、イリスちゃんがその気ならナナだって!!」
そう言うとすぐにスプーンを持ち、チューロスをすくい────
「はいユートあーん!!」
「んむぐっ!?」
無理やり半開きの優人の口に突っ込んだ。
それを見ていた近くのテーブルの人達がナナの笑顔に恐怖するほど、その光景は強烈すぎた。
「────はぁ……。ナナ、俺を殺す気か!!」
「ユート?美味しいよね?」
「俺の話聞いてたか?」
「美味しかったよね?」
「あの、ナナさんや?聞こえて───」
「ね?」
「──はい、美味しかったです………」
(何これナナ怖い………)
今にも襲い掛かりそうな勢いのナナに圧倒され、思わず肯定してしまう優人。
そんな優人に、さらなる追い打ちがかかる。
「師匠、チューロス付いてる」
ぺろっ。
「なっ」
イリスが優人の口元に付いていたチューロスを取ったのだ。
それも、舌で。
「い、イリスお前何やって」
「ユートー?何してるのかなぁ?」
「あ、いやナナさんや?見てたよね?俺された側だよね?」
「避けれたよね?なんで避けなかったの?」
「いや、あれはイリスが悪いって言うか、その」
「言い訳するんだ?全部イリスちゃんのせい?」
「あ、いや、その………。
イリス、お前もフォローしてくれよ!?」
「師匠、がんば」
「慰めいらねえっ!?」
「ユート、またナナを無視してイリスちゃんと仲良くするんだ?」
ナナの顔を見まいとイリスのほうを向いていた優人だったが、恐る恐る声のする方を見上げる。
するとそこにあったのは、笑顔を張り付けたようなナナの顔だった。
そのうえ、優人にはナナの周囲に高温すぎて青くなってしまった炎がメラメラと燃え上がっているように見えていた。
「ユート?
食事はこれぐらいにして行こうか?」
「い、いやまだ全然食べてないし、それに行くって言ったってどこに」
「そんなの決まってるよ?」
そうナナが答えるとほとんど同じタイミングで、優人の襟首をガッとつかむ。
「────ナナ達の部屋にね!!」
「ちょ、お前何でそんなに力あるんだよっ!?
ていうかイリス!?見てないで助けてくれよ!?」
「ナナお姉さん、怒らせたら、ダメだよ?」
「こんな時に可愛い子ぶってんじゃねぇぇぇぇぇっ!!?」
今にも「ふぇぇ」と泣き出しそうな表情を浮かべながら、イリスはもはやバーサーカー化したナナに引きずられる優人を見送った。
いや、想像以上に怒ると怖かったナナをイリスは見送る事しか出来なかったのだ。
その後、香の間から聞こえてくる悲鳴や衝撃音に他の客は怯えさせられ、事前に念のためとお金を持たされていたイリスの買ってきたお土産菓子でナナの機嫌が直るまでには2時間近くがかかったのだった。
次回投稿は4/2(日)13:00予定です




