5話
「ナナ、感動的な話に水を差すようで悪いんだけどさ」
静かにナナの話を聞いていたリアが言葉を発する。
「そのユートと気まずい雰囲気作っちゃったわけだけど、この後どうするつもりなの?」
「そ、そうなんだよね…………。
ね、ねぇこの後ナナはどうしたらいい!?」
今にも泣きそうな表情でリアに縋りつこうとするナナ、だが湯船の中なので動きは遅く、リアにあっさりと躱されて豪快に水飛沫を上げてしまう。
「そんな事は私に聞かれてもね」
「うう〜そんなぁ」
「普通に謝ればいいんじゃないですか?」
「いや、まあそうなんだけどね……」
あはは、と少し顔を引きつらせてナナが答える。
元はイリスに対しての嫉妬が原因で頭を叩いているため、何と言って謝ればいいのか見当もつかないのだ。
「ナナ、とりあえず師匠には、謝るべき。
それに、ナナの気持ちにも、そろそろケリをつける」
「え、ええっ!?急すぎない!?
──本当にいいの?」
それは恐らく色々な意味が込められているのだろう、ナナがイリス達の顔色を伺うように周囲を見回す。
「私はユートさんのメイドになってから日が浅いですし、それ程の感情は持ってないですから」
「私もユート様のメイドだし、何より奴隷だからね。
奴隷とのお付き合いや結婚なんて普通有り得ないから」
「私は、師匠の弟子だから、持つべき感情は、『尊敬』ただ一つだけ」
3人がナナに向けて自分の気持ちを口にする。
それらが背中を押してくれたのか、ナナの目の色が変わる。
「みんなありがとう!!
口に出して言うのは恥ずかしいし、すぐには無理かもしれないけど、ナナ、ちゃんとユートに伝える事にするよ!!」
ナナの口からその言葉が聞けて、3人は安堵の笑みを浮かべる。
「ただ先にちゃんと謝ってからですね」
「そ、そうだね………はぁ……」
「(これで、好きって言うの、2人目)」
「っ!?……(イリス!?今それを言わないで!!)」
「?
2人で何こそこそ話してるのかなぁー?」
「な、ナナ別に何も無いよ?」
「本当かなぁー?
これはお仕置き必要かなぁー?」
「ニレ、今のうちに退避する」
「え?あ、うん」
「ちょっとイリス!?逃げないで助けてよ!?
──ってナナその手つきは止めて!!」
結局その後数分間は、浴室に「ぐへへー」だの「いっひっひっ」だの良くあるおじさんの鳴き声のようなモノが響き渡ることになった。
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「その、昨日はごめんなさい!!」
結局、ナナと優人が言い争った日の夜はお互いに顔を合わせることはなく、次の日の朝を迎えた。
優人は2階の洗面台に立った後、朝食を取るためにリビングに向かった所、ナナが1人だけテーブルに腰掛けていた。
階段を降りていくとナナが優人に気付き、近付いて謝ってきた、というのが今の状況である。
「あー、その。
昨日のは俺も悪かった、ごめん」
「本当だよー!!
ナナだって女の子なんだからもっと優しくしてよね!」
「人の頭叩いておいてそれはないだろ……。
お互い様だって」
「むー…………まあ、お互い様だね!!」
「ああ、お互い様だ。
それより朝飯食べよう。お腹すいてるんだよ」
「うん!!
待ってて、すぐに用意するから!!」
たたたっ、と台所に急いで向かうナナを優人は目で追った後、自分の席に座って朝食を待つのだった。
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「──様、そろそろお時間ですが」
「まだいいだろ?」
「いえ、しかしですねぇ」
「見て分からないのか、私は今忙しいのだぞ?」
「はぁ……本当に貴方様はモノを弄るのが好きですね」
「ま、そういう事だ。
──ところでだが、メロウから連絡は?」
「いえ、今のところは特に何も」
「そうか、あいつもゆったりやってる様だな」
「全くです。
もう少し事を重大に考えてください」
「そう畏まるなよ、パイモン。
お前にはやる事を伝えてたはずだろ?」
「いつの話をしてるんですか?
もう終わりましたよ」
「なっ、昨日頼んだんだぞ?
──ったく、出来の良い部下を持つ上司の気持ちにもなってくれよ」
「出来の悪い上司を持つ部下の気持ちにもなってください」
「はいはい、出来の悪い上司で悪かったな。
──仕方ない、動くか」
2つの声が消えると同時に、その場には女性の死体がまた1つ増えるのだった。
次回投稿は3/27(月)13:00予定です




