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ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈3章 アドゴーン山編〉
88/180

4話




その日の夕食は、珍しく全員で食べる事にならなかった。ナナが優人に会いたがらなかったのだ。




「どうしよう、完全に嫌われてる………」




黒いシャツに下はパジャマ、首から半濡れのタオルという完全に風呂上がりスタイルの優人が頭を抱え机に向かっていた。




「ユートさん、お水です」


「あ、ああ、ニレありがとう……」


「師匠、落ち着いて」


「…………だめだ、落ち着けない!」




優人は傍に置かれたコップを思いっきり呷る。




「えっと、私達は風呂行ってきますね」


「ナナも、誘う」


「そうね、じゃあ私が呼んでくるから先に行ってて」




ニレとイリスは脇に置いてあった自分の衣類を抱え、浴室に向かって歩いていく。




「ユート様」




2人を見送った後で、リアが声をかけてくる。




「本当は気付いてるんじゃないんですか?

ナナの気持ちに」


「…………………………」


「……ちゃんと、答えてあげてくださいね」




それだけを言い残し、リアもその場を離れる。

ただ1人だけが残っている空間はなんとも言えない空気で満たされていた。


















──────────────────────





「はぁー、気持ちいいねー」


「うん、気持ちいい」




浴槽縁で三角座りをするニレと倒れるようにもたれかかるイリス。

2人共体を隠すために長めのバスタオルを巻いているのだが、体勢のせいでずれてしまい見る人が見れば鼻血どころか悩殺されてしまう程だろう。


イリスとニレは年齢が同じだという事ですぐに親しくなり、今では毎日一緒に風呂に入るぐらいになっていた。




「ねぇイリスちゃん。

イリスちゃんはユートさんとナナさんと一番長く一緒にいるんだよね?

2人ってよく喧嘩するの?」


「今日ほど激しいのは、今まで無い」


「そ、そうなんだ……。大丈夫かな?」


「ん、師匠次第」


「……そっか。

あの2人が早く仲直りしてくれたらいいね」




────ガチャッ。




「ほら、ナナも早く入って」


「あっ、ちょっリアさん待ってっ!?

そんなに強く引っ張ったらこけちゃうって!!」




風呂場の扉が開く音と同時に、リアとナナの声が浴場に響き渡る。




「じゃあ自分で歩きなさいよ。

……ったく、先に入るからね」


「ま、待ってって───きゃあっ!!!?」




自分を置いて入浴しようとするリアを追いかけようとしたナナだったが、思いっきり足を滑らせて尻餅をつくという何ともベタな展開になってしまい、纏っていたタオルもはだけて何とも大胆な姿になってしまう。




「ナナ?大丈夫?」


「あ、うん大丈夫、ありがと……」




駆けつけたリアに差し出された手をとり、恥ずかしい思いをしながらもとりあえず浴槽に浸かるナナ。


そんなナナに、イリスからさらに追い打ちがかかる。




「ナナ、相変わらずドジ」


「うっ………、イリスちゃんはストレートに言い過ぎだよ………」


「ま、まあ無事で良かったですよナナさん」


「ニレちゃんは本当にいい子だねー!!

イリスちゃんももっとデレてくれていいのになぁー!!」




1人でぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるナナを見て、イリスとリアは無意識のうちに笑顔になっていた。


それを見たナナが不思議そうに首を傾げる。



「何で2人共笑ってるの?

……あっ!!ナナの事ばかにしてるんだー!!」


「違う違う。ナナが元気になって良かったなーって、ね?イリス」


「うん。それだけ騒げるなら、大丈夫」


「えっ……………そっか。

ごめんね、心配かけて」




自分の事で心配させたのが申し訳なく思ったようで、先程の騒がしい雰囲気から一転してナナはシュンと項垂れてしまう。




「ううん、ナナの気持ちは知ってるし」


「今回は、師匠も悪い」


「……だよね!ユートも悪いよね!!」




イリスとリアに同情されたナナはそれに乗っかる。

すると1人完全に仲間外れになっていたニレがナナに尋ねる。




「ナナさんってユートさんの事好きなんですか?」


「うっ……ずいぶんストレートに聞いてくるね?」


「見てたらそんな気がしたものですから」


「まあ、ナナはわかりやすいからねー」


「うん、わかりやすい」


「さっきから2人共酷くない!?

──っと話がそれちゃいそうだね。

ニレちゃんの言う通り、ナナはユートの事が好きだよ」




照れ隠しもせずにそうハッキリと答えるナナを見て、ニレは質問をした側なのに何故か恥ずかしく思ってしまう。




「そうやって堂々と言えるのって良いですね」


「そうかな?

まあ、ナナだけじゃないみたいだけどね?

ユートの事を好きなのは」


「「………………」」




そう言ってナナはイリスとリアを交互に見る。

2人共自分に話が振られると思っていなかった様で、すぐには思考がまとまらずフリーズしてしまう。




「ユートさんはナナさんの気持に気付いてるんですか?」


「…………本当の所を言うとね、ユートは多分気付いてると思うんだよね。

でもいつも通り接してくれてるのは、きっと今のままの関係でいるのがいいと思ってるからだと思うんだ。


……ユートはナナ達には分からないようなスゴい辛い思いをしてきてるみたいだし、せめてナナ達といる時ぐらいは何というか、その──」


「心が、安らぐ?」


「そうそう!!

ナナ達といる時は気を張らなくて済むように、

『あー落ち着く、ゆったりと出来るなー』って思って貰えるようにしたいんだ」




イリスからフォローをもらいつつ、自分の伝えたい気持ちを言葉に紡いでいくナナ。


そんなナナの言葉を聞いて、ニレは心からこう感じた。

──ああ、幸せなんだな。と。


そしてそんな幸せな空間に自分も入っていくんだと思い、その言葉は兄を失ってぽっかり空いた穴を埋めていってくれている様にも感じた。






次回投稿は3/25(土)13:00予定です

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