3話
ナナ達に依頼の件を説明し終えた優人は、スイレン石の取れるスイレン山の周辺地理や出現モンスターなどの情報を集めるために家にあった書物やニレの家から持ってきてもらった書物などを読み漁った。
「…………ああ、マジか」
優人が今手にしている本は「火山モンスターの生態」というタイトルのものであり、アドゴーン山全域のモンスターが詳細に記載されていた。
「ん?ユートどうかしたの?」
隣で一緒に本を読んでいたナナが優人の呟き声に反応し、顔を覗き込んでくる。
優人はそれに応えるかのように開いていたページをナナに見せる、とすぐにナナ顔から血の気が引く。
「レッド………オーガ………」
無意識に震えている自分の体を手で締め付けるように抱き締めながらも、そのページからは決して目を離そうとはしなかった。
(戦ってるんだろうな…………。でも)
優人はパンッと本を勢いよく閉じ、ナナの方へ向く。
「ナナ、やっぱり今回の依頼にお前は連れていけない」
「…………やっぱり、ユートならそう言うんだろうなって思ってたよ。
でもナナも行きたい」
「ナナ………」
今にも泣きそうな表情のまま、ナナは優人をしっかりと見つめる。
(確かにここで連れて行ってオーガの恐怖を乗り越えれるなら、ナナは冒険者として成長できるだろう。
しかしそれにしてはリスクが高すぎる。いや、でもなぁ………)
1人渋い顔をして黙り込む優人の片側─ナナの反対側にイリスが座り、膝にそっと手を置いて語りかけてくる。
「師匠、大丈夫。信用してあげて?
それに何かあれば、師匠が何とかする、でしょ?」
「……ま、それもそうだな。ありがとな、イリス」
「…………ん。撫でて」
言われた通りに頭を撫でてやると、イリスは気持ち良さそうに目を細め体をこちらに預けてくる。
何という激カワ小動物。
イリスたんマジエンジェル、マイエンジェル。
「…………あの、これ完全に私達は蚊帳の外になっちゃってますよね」
「まあ、イリスが出て来た辺りからそんな感じはしてたけどね」
「リアさん、その慣れはどうかと思いますよ………」
目の前で桃色空間を作り出している優人とイリスを対面のソファからジト目で見るリアと戸惑うニレ。
「…………むー!!
ちょっとナナを無視するなぁー!!」
前の2人が中々止まりそうに無かったのでリアが溜め息をつきながら止めようとすると、どうやら自分だけ仲間外れにされていたのが悔しかったようで、恐怖心などそっちのけでナナが優人の腕に抱きつく。
「うぉっ!?
ナナ、焦るからやめろって、あと近いから!!」
「何で!?イリスちゃんと同じ事やってるのにナナはダメなの!?
差別じゃん!!」
優人はいつものように距離感が近過ぎるナナに少し離れるように言う。
いつもならここで不満を垂れながらも引き下がるナナだが、今日は先程の事もあってか少し気が立ってるようで更に食ってかかってきた。
「イリスはいいんだよ、イリスだから」
「意味わかんない!!
もーいい!!ユートのばかぁっ!!」
──バチンッ!!
「ってぇ…………ちょっと冷たくし過ぎたかな……」
ナナに全力で叩かれた頭を擦りながら、走っていった階段の方へ優人は目をやる。
「師匠、抱きつくぐらい、許してあげるべきだった」
「そうですよ、もうちょっとナナを甘やかしてもいいと思いますよ?」
「そう言われてもなぁ。
抱きつくのはイリスがまだ子供だからいいものの、ナナってなるとな」
優人は照れているせいか無意識に頬を掻いてしまう。
「その、さ、恥ずかしいし意識しちゃうんだよ。
俺だってナナを冷たくするつもりは無いんだぞ?
でも、でもなぁ…………」
「「「はぁ……」」」
まるで小・中学生の初恋のようなウブさを見せつける優人に、イリス達3人は思わずため息がこぼれてしまう。
そしてリアが貼り付けたような笑顔で優人に迫る。
「な、なんだよ」
「ユート様はとりあえずちゃんとナナに謝ってくださいね。
ナナはああ見えてかなり繊細な子なんですから、ね?」
「わ、分かってるよ、分かったからそんな顔でこっちを見ないでくれっ!!」
「師匠、ヘタレ」
「や、やめてくれぇぇぇ!!」
あああああっと言う悲鳴を残して、優人も自分の部屋に戻っていった。
次回投稿3/23(木)13:00予定です




