1話
「…………ふぅ。こんな所かな」
手に持っていた本をテーブルに置き、ソファに深くもたれかかる。
(龍人族か、自宅警備メイドとして1人か2人欲しいかもしれないな。──男がいいな、うちの家どう考えても男女比おかしいだろ?
……それはそれとして、この本の著者って多分、そういう事だよなぁ)
はぁ、とため息をつく優人は左手の親指にはめられた淡い青色の石──中心にSの文字が埋め込まれている──が使われた指輪を天にかざしてみる。
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名称:Sのリング
レア度:???
説明:所有者の運を1.5倍にする
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以前港町ナルズのすぐ近くの草原で繰り広げられた対怪物戦。
戦闘後その土地の周辺を調査・探索していたセシリア達に拾われたのがこの指輪である。
セシリア曰く「この指輪は優人が貰うべきだろう。優人が今回の戦闘において最大の功績者だからな」との事らしいので、有難く頂いていたのだ。
(しかし、俺もこの生活にかなり慣れてしまったなぁ。
ネット環境も無いし食文化も違う、極めつけには女の子4人と同棲だぞ!?
今まで何事も無く過ごせてるのが奇跡な気がする………)
そんな事を考えてしまい、優人の口からさらに深いため息がこぼれてしまう。
────コンコンッ。
「優人いるか?セシリアだ」
「セシリアさん?こんな朝早くから何の用事だろう……」
突然の訪問を不思議に思いながらも、とりあえず家の中へと案内する。
「済まないな、こんな朝早くに」
「まあ、大丈夫ですよ」
「そうかそうか。
ところでだが、他の者の姿が見えないようだが?」
ソファに腰を掛けるなり首を回し、優人以外誰も居ないことを確認したのかセシリアが疑問をぶつけてくる。
「精霊達は会議があるとか何とかで昨日出て行きましたよ。
何でも三ヶ月程は帰ってこれないとか。
他のやつはニレ──あー、新しく雇ったメイドの荷物をここの家に運び入れる手伝いをするために出払ってますよ」
「ほぉ、優人はまたメイドを雇ったのか」
そうかそうか、とセシリアが笑みを浮かべながら意味深げに首を縦に振る。
言いたいことは大体察しがついていた為、優人は恥ずかしさを隠す様に俯いてしまう。
「…………そろそろ本題に入ってくれませんか」
「っと悪い悪い、つい優人の反応が面白くてな。
──で、ここからは真面目な話なんだが君達に1つ依頼をしようと思ってな」
「依頼、ですか」
セシリアが話し始めた依頼の内容は、簡単に言ってしまえばただの鉱石採掘である。
詳しく言うとアドゴーン山を構成している山の1つ、スイレン山の洞窟の中で採掘すると手に入るスイレン石を出来るだけ多く手に入れて来る、という内容だ。
「───という事なんだが、頼めるか?」
「断る。…………って言えたらいいんですけどね」
「ん?そう言えばいいんじゃないか?」
「……本当にいい性格してますよね」
ニヤニヤするセシリアを見て、優人の気分はさらに落ち込む。
優人がセシリアに逆らえずにいるのは、ガランの一件を上手く処理してもらった恩があるためである。
ギルドマスターであるガランは自分の脳に過大な負荷がかかり数ヶ月自宅療養を医師に命じられたらしく、冒険者ギルドが一時騒然となっていた所で駆け付けたセシリアがその場を鎮めたらしい。
ちなみにだがあの2つの木箱は火葬したらしく、それらを見た一部の者達の間での秘密事、という感じで話がまとめられたそうだ。
「で、頼めるってことでいいんだな?」
「まあ、それぐらいならいいんですけど、何でその依頼をわざわざ俺に頼むんですか?
冒険者ギルドで頼んだ方が早いと思うんですけど……」
「簡単な理由だよ。アドゴーン山に生息するモンスターはどれもAランク級の強敵揃い、だから冒険者ギルドに行っても受けれる奴は指で数える程度なんだ。
それに恥ずかしい話だがうちの騎士隊員でもかなり苦戦を強いる事になる」
「だから行けそうな自分に白羽の矢が立った、という訳ですか」
頷く女騎士の前で、如何にも面倒事だと言う表情を見せる優人。
「………採掘なら別に時間もかからないだろうし、今からちゃっちゃと行ってきますよ」
彼女達に書き置きしておかないとなぁ、と呟きながら紙とペンを収納から取り出そうとすると、セシリアが思いもよらない一言を発する。
「それは許可出来ないな」
次回投稿3/19(日)13:00予定です




