婚約!?(中編)
「…………は?」
フーガの発言に、優人は目を丸くしてしまう。
突然『嫁に貰ってくれ』など言われて、
即座に肯定できる人などどこにいようか。
イリスがそっと、優人の服の袖を握る。
その気持ちを汲んでなのか、優人は冷静に、
かつ真剣にその理由を尋ねる。
「フーガ、悪いけどちゃんとその理由を説明してくれ」
「話せば長くなるんだけどな。
まず、そろそろいい歳だからカノンの嫁ぎ先を
幼い頃からの知り合いとしてあれこれ
考えていたんだが、この村の男は皆既に結婚していてな。
完全に婚期を逃してるんだよ。
それで、俺の知っている中で唯一結婚していないのが
村長だけだったんだよ」
「あー大体わかった。
カノンって言ったっけ、お前はそれでいいのか?」
「………だって、結婚出来ないって嫌じゃないですか。
私だって女です、素敵な旦那さんと暮らしたいんですよ」
「いや、結婚願望を聞いてるんじゃなくてな………。
全くもって赤の他人で、素性も知れない男と
急に結婚出来るのか?」
「…………人によりますけどね」
(人によってはOKなんだ!?
何女子ってこんなもんなの!?)
カノンから出た言葉に、優人はさらに驚愕してしまう。
その後少しの沈黙が続き、場の空気が少し重たくなる。
イリスは未だに袖を離さない。
その沈黙を破ったのは、フーガだった。
「頼む、カノンを貰ってくれ」
「私からもお願いします」
フーガが頭を下げる。続いてカノンも。
優人はカノンの容姿を無意識の内に思い起こす。
背はそこまで高くなく、
スタイルも出るところは出ると言った感じ、
ストレートに下ろされた茶髪にこれといって
特徴のない顔立。
まあ、良くも悪くも普通なのだ。
(―――って何冷静に分析してんだよ……)
軽く頭を振り、優人はそんな雑念を振り払う。
「あー、その、申し訳ないんだけど
結婚とかはちょっと…………」
「…………そうか。いや済まないな、
無理な相談を持ちかけてしまって。
この話は忘れてくれ」
「本当に悪いと思ってる、ごめんなカノン」
「いえ、仕方ないですよ」
「………もう俺は用無しだな。
ここらで帰らせてもらうな?」
言葉とは裏腹に表情で悲しさを隠しきれていない
カノンを見て、つい優人も自虐的な発言になってしまう。
「…………師匠、帰ろ」
「ああ、じゃあなフーガ、カノン。
また何かあったら呼びに来てくれ」
優人はいつの間にか裾を離していたイリスを連れ、
フーガ宅を後にする。
ただその時に聞こえたすすり泣きは、
優人の何かを刺激したのだった。
―――――――――――――――――――――――
「…………やっぱりここにいるんだな」
「英雄様、どうしてここに?」
優人はカウンターの端に座っていた猫人・マールの
横に腰を下ろし、近寄ってきた店員にアスタルジュース
とビールを注文する。
「いや、お前ならここにいてるだろうって思ってな」
「俺だってそんなにヒマじゃないですよ?」
「何言ってるんですか、マールさん。
あなたここの所毎日来てるじゃないですか?」
「っ…………たまたま、暇を貰っているだけです」
と、注文した飲み物を2つ持ってきた店員が
そんなことを口にする。
隣のマールはどうやら痛い所を突かれたらしく、
苦笑いしてしまっている。
優人はそっと、ビールをマールの方に流す。
「…………たまたまですよ?」
「別に、そこにとやかく言うつもりは無いよ。
俺だって好きな店は毎日行きたくなる」
「そうですか。
…………で、今日はどんなご用ですか?」
「単刀直入に言うけど、お前まだ結婚してないよな?」
「っ!?い、いきなり何ですか?」
いきなりの質問に、たじろぐマール。
わかりやすくていい。
「ま、その反応で全部わかったからいいけど、
もういい歳なんじゃないのか?
結婚とかは考えないのか?」
「…………正直、家庭が欲しいとは思いますね。
ただまあ、自分の仕事上中々そういう機会も無くて」
まあそうだろう、と優人はアスタルジュースを
口に付ける。シャリシャリした食感が口の中に
広がる感覚が意外とクセになる。
「結婚相手に求める事は?」
「いきなりですね…………。
とりあえず、自分の事を考えるとある程度
忍耐力というか、強い女性が良いですね」
優人はその事がカノンに当てはまるか考えてみる。
………うん、意外といけるんじゃないか?
「……で、いきなり何でこんな話を?」
「あーすまない、いきなり過ぎたな。
実は俺の知り合いの中で結婚相手を探している奴が
いて、そいつにお前を紹介しようかなと思っているんだ」
「はぁ、そういう事ですか。
お見合い話とかなら歓迎ですよ、そういう機会が
本当にない自分にはありがたい話ですから」
そう言い、マールはため息を軽くつく。
………王国騎士隊ってそんなに忙しいのか、ドンマイ。
「ちなみになんですけど、どんな方なんですか?」
「まあ、個人的な意見だけで言うなら、
良くも悪くも普通な子だけど、いい子だと思うよ」
「そうですか。
…………あ、もしかしてその人人間ですか?」
「ん?ああ、そうだけど?」
優人がそう答えた途端、マールの表情が
僅かに固くなる。
「あー、なら厳しいかもしれませんね」
「………何がまずい事があるのか?」
「種族が違うじゃないですか。
俺はそういうの気にしないんですけど、
人間って割とそういうの気にする人多いですから」
……ああ、そういう事か。
優人は顎に手を当て、どうしたものかと考える。
そして、フーガに連絡を入れることにした。
『フーガ、俺だ、御影優人だ』
『村長?こんな夜遅くにどうしたんだ?』
『カノンの結婚相手なんだが、
人間じゃなくてもいいのか?』
『……どうだろう、カノンの事だからなぁ。
とりあえず、一度会わせてみたらいいんじゃないか?』
『ああ、そうしよう。
とりあえず日時と場所なんだが―――』
フーガと日時、場所等の打ち合わせを軽く終え、
マールに向き直る。
「とりあえず、お見合いのセッティングだけ
しておくから、その日に会ってみてくれ」
「ええ、分かりました」
マールに場所と日時だけ告げ、
優人はその場を後にする。
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「……………って会計俺持ちなんですか…………」
猫人のため息は誰にも届かなかったのだった。
カノンのお見合い相手に選んだのは、
まさかのマール!?
お見合いは果たして上手くいくのか?
次回投稿12/31(土)13:00予定です




