25話
「ただいま私の家ーーー!!!」
「ナナ、私『達』」
「あーゴメンゴメン、私達の家だね!!」
「うん…………ただいま」
イリスがナナとキャッキャッはしゃぎながら
家の中に入っていく。
怪物達との戦いを終えた後、優人達は
1週間近くセイルペイスに滞在し、思いっきり
余暇を楽しんでから自宅に帰ってきていた。
「ユート〜?入らないの〜?」
「リアを待ってるんだよ、先に入ってていいぞ?」
「ううん、アタシも待ってる事にするよ〜」
何とも間の抜けた声を出して肩に乗ってくる
ソフィアを見て、優人は思わず微笑してしまう。
そんな所に、ちーちゃんを小舎に連れて行っていた
リアが戻ってくる。
「待って頂いていたんですね、
わざわざありがとうございます」
「ま、久々に家に帰ってきたんだし。
お前だけ置いて家に入るのも何だと思ってな」
「本当に、変に優しいんですよねユート様は」
「一言余計だから、ほら入るぞ」
「そ〜そ〜!こんな所で突っ立ってないで早く
入ろ〜よ〜。ねぇリア〜」
「ちょ、もうソフィアは急なんだからー」
「はぁ…………俺はもう入るからな」
ソフィアが優人の肩からリアの肩に飛び移る。
相変わらず仲良いですよね、お2人さん。
犬人と精霊の百合百合(?)した光景を尻目に、
優人は家の中に入っていく。
リビングでは既にナナがソファでごろごろしていた。
上着や靴、靴下を適当に脱ぎ散らかしてだらける
その姿は、昔の自分の姿と少し重なり何とも言えな
かった。
リアがだらけているナナを他所にテキパキと上着と
靴下を手に取り、2階に上がっていく。
「アタシもう寝るね〜?」
「ああ、好きにしたらいいよ」
「ん〜」
リアの後を追うようにして、ソフィアも2階に上がる。
1人、見当たらないなと思い優人はナナに聞く。
「ナナ、イリスは?」
「んー?何かやりたい事があるからって
自分の部屋に先に戻ったよ?」
「ふーん、ま、いいか」
イリスの事だし、と1人納得する優人。
と、ナナが体を起こし、横に座れと言わんばかりに
バンバンとソファを手で叩く。
特にすることも思い浮かばなかったので、
とりあえずナナの隣に腰を下ろす。
するとすぐにぴったりと横に寄り添い、
肩に頭を乗せてくる。
「…………どうかしたのか?」
「ううん、こうしてユートとゆっくり出来るのも
久々だからね。
…………ダメ?」
不安そうな表情を浮かべ、上目遣いで聞いてくるナナ。
美少女にうっすらと涙を浮かべられて話しかけられて、
ドキッとしない男はいないだろう、もちろん優人も
例外ではない。
「…………好きにしたらいいんじゃないか」
「うん、好きにするよ」
しばしの間、静寂が2人きりの空間を包み込む。
ただ、居心地が悪くなることは無い。
目を瞑って優人に身を預けていたナナが
不意に言葉を発する。
「年を越す前に帰って来れてよかった……」
「ん?」
「あ、いや。
ほら、後1週間もすれば今年も終わるから。
………新年はみんなとこの家で迎えたかったから」
聞き取りにくいよう小声で、そう呟く。
この世界の暦は1年10ヶ月、1月は28日の
年280日で構成されている。
1〜3月、4〜5月、6〜8月、9〜10月が
順に冬、春、夏、秋となっているらしい。
今日は10月19日。年末まであと9日。
今までの人生、物心ついてから誰かと年を越すのは
指で数えられるほどだった優人にとって、
身内以外と年を越した記憶は微塵もない。
そのため、ナナの気持ちを分かる気がしているのだ。
「ああ、俺もナナ達とここで年を越したいと
思っているよ」
「…………そっか、優人もそうなんだね」
また小声で呟く、がその声から安堵がうかがえる。
「来年も、再来年も、その先もずっとずっと……
ずっと、優人と年を越したいな」
「………………」
目を閉じたままナナがそう呟く。
心から思っているからか、その言葉はどこか
重みがあり、そのため優人は言葉が詰まってしまう。
(そうだよな、もしあの神の願いを叶えたとして、
その時俺は元の世界に戻されるのかもしれない。
異世界系のラノベとかだと、大体元の世界に
戻ってきてるもんな…………。
俺は、元の世界に戻りたいのか?)
そんな事を考えていると、急に肩が軽くなる。
どうして頭を、と思っていたが階段を降りる音が
聞こえてきたため、その疑問はすぐに消える。
「あら、2人で何をしていたんですか?」
「リアさん、ナナ達は別に何もしてないよ?」
「…………まあ、そういう事にしておこうかな」
不満があるのか、リアがふくれっ面で近付いてくる。
優人のそばまで来た所で、真面目な表情に戻り
口を開く。
「そういえばユート様。
向こうを出る前に何かしてませんでしたか?」
「あー、ガランに報告書出してたんだよ。
わざわざ行くのもしんどいしな」
「確かにそうですけど、
そういう物って直接行くのが礼儀ではないですか」
「いや、まあ…………会いに行きづらいし」
「?」
「何でもない、気にするな。
ただの気まぐれだと思ってそこはスルーしていてくれ」
「はぁ、分かりました」
隣で終始ハテナマークを頭に浮かべるナナと、
煮えきらないのか微妙な表情をするリアに
挟まれながら、優人は窓の外にパラパラと降り出した
雪を眺めるのだった。
―――――――――――――――――――――――
「ギルドマスター、貴方宛てに荷物が届いていますよ」
「おうそうか、ここに持ってきてくれ」
「分かりました」
ガランの指示に沿い、イルミが重みのある、
少し大きめの木箱2つを荷台で運んでくる。
一つずつテーブルの上に乗せ、
片方の木箱についていた手紙をガランに渡す。
「―――――おお、あのガキからか。
何何…………
『依頼が終わったのでお土産と共にこうして
手紙で連絡させてもらう』か。
はっ、土産あるなら直接渡しに来いよ。
それとも前のアレで怒ったのか?
肝の小さい野郎だな」
「ギルドマスター、言葉遣いが」
「うるせえよ、まだいたのかイルミ」
「………………」
最もな事を口にしてガランに怒られたため、
イルミは不服そうに顔をしかめ、俯く。
「さて、お土産はなんだろうなぁ。
服か?珍しい装飾品か?
―――――――――――――――っ。」
「??
どうかしましたか?ギルドマスター」
2つの木箱を同時に開けたまま顔を真っ青にして
立ち尽くすガランに、先程まで俯いていたイルミは
不審がって声を掛ける。
ただ、その返事は返ってこない。
聞こえていないのか、目線を木箱の中に向けた
まま固まっている。
「ギルドマスター?……ガランさん?
何か変な物でも―――――きゃぁぁぁぁっ!!!!!」
ガランに近付き、木箱を覗いたイルミは
その中に入っていたモノを目にした途端
悲鳴を上げ、腰を抜かして尻餅をついてしまう。
「な……な……なま……生、首…………
あ、あああああっ!!!」
イルミの悲鳴を聞きつけ、扉の方から何名か
冒険者ギルドの職員が駆け付けてくる。
が、その誰もが木箱の中身を見た途端悲鳴を上げた。
イルミ達が見たモノとは
―――ハォの村で優人が殺した偽村長、
そしてグラシア首だった。
「…………………………………………ぁぁ。」
ガランは誰にも聞こえない程の声で呻き、
無抵抗のまま後ろに倒れ込んだ。
少し落ち着きを取り戻した職員がガランの
元に駆け寄ると、ガランは見事な迄に意識を
失っていた。
そのガランの手に握られていた手紙がはらり、
地面に落ちていく。
手紙は半回転して裏を見せる。
そこには赤い色で文字がこう書かれていた。
『親子揃って人を裏切るアンタらに最高の
贈り物だろう、ありがたく受け取ってくれよ?
―――――――――――――by 御影優人』
ここで2章完結いたしました!!
まだ多くの謎を残したまま引き継ぐ3章では、
さらに深い所を攻めていきたいと思います!!
ここから少しの間は閑章をお楽しみくださいm(_ _)m
次回投稿12/27(火)13:00予定です




