22話
港町ナルズから北東にすぐある草原に現れた
その怪物達は、まるで鍛え上げられた兵隊の
ように列を組んで並んでいた。
人の何倍もある、紫がかった肉体を震わせて
佇むそれらは人の顔とのギャップがあまりに
酷く、こちら側の恐怖を煽ってくる。
「本気で気持ち悪いな、あれ……」
優人はため息をつきながら、
並んだまま動かないそれらを眺めていく。
そんな中、端の方で人影が動いた気配がする。
「来ると思ってたわよ、御影優人?」
「………グラシアさん?何で―――――」
その続きを言おうとした時にした、服の袖が掴まれる
感覚が優人の口を止める。
振り返るとそこに居たのは、涙目で訴えてくる
リアだった。
「…………どうした?リア」
「………あの人、前の―――――」
「あら、見覚えのある顔だと思えばリアじゃないの。
アハハッ、元気にしてた?」
「……………………」
リアは視線を優人からグラシアに移し、
キッと目元を鋭くする。
「………ユート様。あのお方はユート様の前の、
私の主人です」
「前のって、確か…………」
(…………マジかよ!?
あの変態野郎がグラシアって、どういう事だよ……)
リアの変態元主人がグラシアだと知った優人。
そんな優人に、更に追い打ちをかけるように
グラシアが言葉を発する。
「さて、お喋りはここまでにしておきましょう。
―――と、その前に私のお気に入りをお見せ
しようかしらね?」
グラシアがパチン、と指を鳴らす。
すると怪物達の中からすこし小柄なのが出てくる。
「………………えっ、嘘だろ……?」
「どう?この子可愛いでしょ?」
優人の目に移ったのは――――――
あのセトの村で出会った少年、ルティだった。
「な、何でそいつの顔がそこにあるんだよ!?」
「あら、知り合いだったの。
この子ね、小さいのにこの軍団の中じゃ
一番強いのよ、凄いでしょ?」
「そういう事を聞いてるんじゃ―――」
「ゆ、ユート!!どうするの!?」
ナナの声にはっとし、後ろを振り向く。
するとナナ達は各々武器を手に取り、
臨戦態勢に入っていた。
「お前らあれと戦うつもりなのか?」
「あ、当たり前だよ!!
あんなのに町を襲われたくないもん!!」
「ユート様、私はいつでも戦えます」
「ゆ、ユート〜、アタシもやるからね〜!」
「師匠、指示を」
どうやら4人とも戦うつもりな様で、
闘士をアピールするかのように声を上げていく。
しかし、相手が相手なため、そんな事は許せない。
「…………ナナ達は町の冒険者ギルドに
言って住民の避難をするよう言ってくれ」
「ちょ、ユート!?ナナ達も戦―――」
「ナナ」
「!!っ…………」
優人の判断に文句を言おうとしたナナだったが、
優人が出す雰囲気に圧倒され、息を呑む。
そんなナナに変わって、イリスが前に出る。
「師匠」
「何だ?イリス」
「……私達じゃ、まだダメ?」
「……………………………………ごめん」
「…………そっか。
わかった。ナナ、リア、ソフィア、行こう」
イリスが3人を連れ、町に向かって走っていく。
ただ、その背中には寂しさを漂わせていた。
「…………随分と余裕があるんだな。
別に襲ってきても良かったんだぞ?」
思ったままのことを口にする。
グラシアは面白いものを見ていたかのように
笑みを浮かべ、喋り出す。
「それはこちらのセリフよ。
この数相手に、まさか一人で戦うつもりなの?」
「仕方ないだろ?
誰かが町にこの事を伝えなきゃいけないんだし、
必然的に俺だけ残る事になるじゃねーか」
「あら、頼もしいのね。
―――そんな優しさに、何の意味があるのやら」
「……………そろそろ、始めようぜ?」
「ええ、あなたが望むのなら」
優人は『無名』を片手にし、構えをとる。
草原に並んでいた怪物達の1列目だけ前進し始め、
一瞬にして優人の目の前まで辿り着く。
「何で1人1人人間の顔が――――――は?」
優人に襲い来る怪物達の人の顔を見て、
優人の思考が一瞬止まる。
怪物達の一体の顔が――――――
グラシアの屋敷にいた老女メイドのそれだったのだ。
―――――――――――――――――――――――
「隊長、報告があります」
「マールか。セイルペイスにいるはずのお前が
ここに顔を出すってことは、そういうことだろ?
どうした?」
「港町ナルズの北東の草原に、
謎の怪物の集団が出現しました。
こちらに来る前に御影優人の姿を見かけたので、
既に対峙しているものかと」
「わかった、すぐに第三騎士隊総出で
救援に向かう。来てすぐで悪いがお前も
急いで準備に取り掛かれ」
「了解しました」
マールと呼ばれた猫人は部屋を急いで出る。
一人残された書斎で、女は少し不安げな表情を見せる。
「無事だろうな、優人………」
―――――――――――――――――――――――
「メロウ様」
広く冷たい空間に、足音と渋い声が響く。
「セバス、どうかしたの?」
「なぜ荷物をまとめているのですか?」
「あら、言わなかったかしら。
あの女が出ていった時点で、ここの場所がバレる
のも時間の問題、だから今の内に別の拠点に映るのよ」
「左様でございますか。してその場所の目星は」
「もちろんついているわ。
…………東の山を越えるけど」
「では私もここを発つ準備を始めさせていただきます」
「ええ、なるべく早くお願いね?」
「承知いたしました」
その場から、1人の気配が消え去る。
「御影優人、まさかすぐやられたりはしないわよね?」
メロウは妖艶な笑みを、誰も居なくなった空間に
向けるのだった。
怪物達を束ねるのはグラシアだった。
予測出来ない事態の連続に、優人は対処しきれるのか?
次回投稿12/22(木)13:00予定です




