6話
ギルドでの騒動のあと、優人は一度宿屋に戻ることにした。
「―――で、何でお前まで付いてくんの?」
「いや、たまたま同じ方向に宿取ってるだけだから!」
少し頬を赤らめて、ナナが言う。
「それに、こんな可愛い子と一緒に歩けてるんだよ!!
もう少し喜んだらどうなの?」
隣で自慢げにそう言うナナに訝しげな目を向けつつ、優人は彼女の全体を眺める。
確かに顔立ちは可愛い部類に入るだろう、更に服の上からでも胸の大きいのがわかる。客観的に見て好ましいスタイルではある。
(しかしアホの子だもんなぁ………)
ふと気になって、真理眼の効果を使ってステータスを確認してみることにした。
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名前:ナナ・フォードレス
種族:獣人族(狐人)
性別:女(B:89、W:60、H:77)
年齢:15歳
職業:冒険者
職種:剣士、妖術士
LV:7
HP:184/184
MP:226/226
腕力:216
脚力:216
頑丈:158
知力:88
運:106
特性:言語理解、九尾化
スキル:剣術Lv3、妖術Lv3、火魔法Lv2、
生活魔法Lv3
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(はぁ、まさかスリーサイズまで見れるとは)
ナナのステータスを確認した優人は、一つの疑問を口にしてみる。
「そういえば、魔法ってどうやって覚えるんだ?」
「えっと、実際に使っている所を見せてもらって、後はイメトレかな?」
「ふーん、ちなみにレベルが上がると使える技も増える、で合ってるのか?」
「うん、それで合ってると思う。
ていうか、急にどうしたの?」
と、ナナが首をかしげる。
「いや、特に意味は無い。
そうだな、ちょっと生活魔法を使ってみてくれ」
「ええっ、ここで?
んー、ちょっと待って」
そう言って、ナナは収納から薬草とタオルを出し、薬草の汁をタオルにかけ始めた。
「ん、そんなことしていいのか?」
「まあまあ、見てたらわかるから。
……こんなもんかな、『クリアー』」
ナナは汁まみれのタオルに手をかざし、何か呟いた。すると、タオルにかかっていた汁が全て地面に落ち、タオルが新品並に綺麗になる。
『スキル:生活魔法を習得しました。スキルレベルが最大になりました。』
そうして久々のアナウンス音が彼の脳内に響く。
「へぇ、便利な魔法だな。
この魔法の場合も、レベル上がると技の種類が増えたりするわけ?」
「確か、一度にたくさんの物をキレイにしたり、飲み水を出したりも出来るようになったはずだよ」
「結構便利だな、生活魔法」
そんなこんなで、二人は宿屋まで帰って来る。
「まさかだけど、お前もここか?」
「えっ、ユートさんもここなの?
奇遇だね! じゃあお昼一緒に食べようか!!」
「断る」
「即答!?」
(いや、たとえナナがアホ女でも一応は女の子だし?
俺女の子とご飯とか一緒に食べたことないし?
そんな事出来る訳無いし?)
など言い訳をあれこれ考えつつも、宿に入る。
「あ、おかえりなさーい!!
ナナちゃん、この人と知りあいだったんだ!」
「いや、こいつが一方的に絡んでくるんだよ」
「ちょっとユートさん!
そこは嘘でも「仲良しなんだ」とか言うところですよ!」
(いやいや、嘘でいいのかよ。……)
「あ、ユートさんって言うんですね!
私はフィーナって言います、よろしくお願いしますね!」
「ああ、よろしく」
「あー!何かナナの時と反応違うんだけど!」
「そりゃ、フィーナに失礼だからな」
「酷い!?酷いよ!?」
「まあまあ」とナナを慰めるフィーナに後を任せて、優人はとりあえず部屋に戻る事にした。
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(はぁ、次からギルドに行きづらいなぁ)
ギルドでの一件を悔やむ優人は、部屋のベッドに腰掛けため息をこぼしていた。
(それに、何であのタイミングで昔の事を思い出したんだろ、しかもあんな嫌な思い出を……)
タイミング悪く思い起こされた過去に憂鬱になっていると、ドアがノックされる。
「ユートさーん、ご飯食べに行きましょー!」
(おい、何で俺の部屋を知ってんだよ………)
ここ数日で一番耳にした声に驚く彼だったが、食事する気分では無かったため
「悪い、今気分悪いんだ。ほっといてくれ」
と言っておく。
するとしばらくしてから、
「…………わかった、ゆっくり休んでね」
と呟き、ナナの足音が遠ざかっていくのが分かった。
(とりあえず、一度寝てスッキリするか)
そう思い、優人はゆっくり目を閉じていった。
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(………ん、結構寝てしまったかな)
優人はベッドから体を起こし窓の方を向く。良かった、赤くない。
ただ、結構な時間寝てしまったようで、窓の外からは月の明かりが差し込んでくる。
(お腹空いたな、食堂にでも行ってみるか)
汗ばんでいた体に生活魔法をかけ、部屋を出る。
……うん、生活魔法便利だわ。
食堂は結構空いていた。そのせいで、嫌なものまで目に付いてしまう。
「―――でね、ユートさんナナにだけ厳しいんだよ!?
ひどくない? ねぇ、ひどいとおもうよね!?
それにさぁ―――」
(あぁ、見なかった事にしよう。俺は何も見ていない、見ていない……よし)
「あ、ユートさん」
「っ!!」
見たくなかったモノを見てしまい、邪念を払っていると突然背後から声を掛けられる。
そう言う行為に慣れていない優人は咄嗟に振り返りバックステップを踏む。
「あ……驚かせてすいません」
そう言って、フィーナは頭を下げる。
「あ、いや、すまん。癖なんだ」
「いえ、悪いのは私ですから。ところで、お食事ですか?」
頭を上げ、フィーナが尋ねてくる。
「ああ、腹が減ったからな。あっちの方に座ってもいいか?」
と、優人はナナがいるカウンターとは真反対の所にあるテーブルを指差す。
「ええ、もちろん。
ナナちゃんの所にはいかないのですか?」
「あそこにはさすがに行きたくないだろ?」
「ふふっ、そうですね。
メニューを持ってきますんで、座って待っていてください」
とりあえず席に着いて周囲を眺めていると、誰かが近づいてくる気配がした。
「あら、ユートさん。ご一緒してもいいですか?」
視線を向けるとそこには、受付嬢のイルミが立っていた。
「あ、ああ」
「ありがとうございます」
そう言ってイルミは微笑み、向かいの席に座る。流石の優人でも、愛らしく微笑まれると断れないらしい。
「受付は?」
「ちょうど終わったのでここに飲みに来たんですよ。
ユートさん、よろしければ今晩は付き合ってもらえますか?」
「まあ、軽くなら」
「それは良かったです」
優人の返答に、イルミは優しく微笑み返してくる。どうやら彼女、優人が女性の笑顔に弱いという事を分かっていてやっているらしい。何とも恐ろしいものである。
イルミの対応に困り果てていると、フィーナが水とメニュー表を持ってくる。
「あれ、イルミさんいらしてたんですね」
「あら、こんばんはフィーナさん。ええ、彼と飲もうと思ってね」
「そうですか!
ならお水もう一つ持ってきますね!」
そう言って、小走りで来た道を戻っていく。
「さて、とりあえず何か頼みながらお話しましょうか。
そうね、出来れば私の愚痴とかも聞いてもらえると嬉しいですね」
(あ、これ絶対帰れないやつだ………)
優人は完全に諦めモードに突入し、メニュー表に目を落とすのであった。
次の日、優人は完全な二日酔いに陥った。
6話終わりました!
まさかのナイスバディです、ナナちゃん!
さて、飲みに飲まされグロッキーな優人に待ち受けるのは………?
次回投稿10/29(土)0:00予定です