18話
ニレの家を去った後、次に向かったのは
都市にある酒場の1つであった。
「あ、英雄様!
ご気分の方は良くなられたんですか?」
「ん?……まあまあ、かな」
酒場に入ると、壁側のカウンターであの猫人が
1人で飲んでいた。
その隣に、優人は腰を下ろす。
「そうですか!」
「なあ、1つ頼んでいいか?」
「もちろん、英雄様の頼みなら何でも!」
「人探し、なんだけどな。
ここ最近で仕事場をクビになった、もしくは
殺された弓使いの人間の情報が欲しい。
頼める、よな?」
「…………もちろんですよ、英雄様」
優人の含みのある問いかけに、
猫人は表情を一変させ、真剣に対応し始める。
「そうだな、何日あれば集めれる?」
「1日もかかりませんよ、そのぐらいなら」
「じゃあ、明日の朝、この時間にここにまた来るから」
「わかりました、頑張らせてもらいます!
アンザスさん、お会計お願いしまーす!」
そう言ってお会計をさっと済まし、
酒場を後にする。
「………これで、俺の罪滅ぼしになればいいんだけど」
周囲のざわめきにかき消される程の弱々しい声で、
優人はそう呟くのだった。
―――――――――――――――――――――――
――――――ガチャッ。
「……ただいま」
優人はタワーに戻ってきていた。
リビングでは皆が昼食の準備をするため、
いそいそと動き回っていた。
「あっ、ユートおかえり!!」
「師匠、おかえり」
「ユート様、おかえりなさい」
「ユート〜、帰ってくるの遅いって〜」
皆、言いたい事があるはずなのに、何も言わずに
出迎えてくれる。
そんな優しさが、優人は嬉しかった。
「リア、今日の昼飯は何だ?」
「今日は――――――」
優人は何事も無かったかのように、
いつもの日常へと戻っていった。
―――――――――――――――――――――――
「……ふぅ、ごちそうさま」
「あ、お皿台所に持っていくから置いといて?」
「おお、ありがと」
席を立とうとした優人を制止して、
ナナが手際よく皿を重ね台所に運ぶ。
「師匠」
と、膝の上にイリスが乗ってくる。
こういう時はいつも何かお願いしてくると
優人は経験から予測し、それは見事に的中する。
「ちょっと、欲しい物、ある」
「イリスが欲しい物なら何でも買ってやるぞ?
何が欲しい?家か?土地か?」
「どこの富豪ですか、ユート様………」
テーブルの向かい側でリアがため息をつく。
何ですか、文句あるんですか。
「ううん、服が、欲しい」
「服か?」
言われて優人は少し思考を巡らせる。
――確かに、最近あんまり服買う機会無かったかな。
「よし、じゃあ買いに出掛けようか。
リア、準備してきてくれ。
おーいナナ、出掛けるから準備しろー!」
はーい、と台所の方から聞こえる。
「よし、じゃあ俺も準備しよ――――――」
「師匠の鈍感」
「痛っ………な、何で!?」
「いい、準備、してくる」
イリスがムスッとした顔で優人の太ももをつねり、
そのままスタスタと寝室に向かった。
(………あー、2人っきりが良かったのか)
イリスが去った後で彼女の行動の意を悟ってしまい、
優人は何だか申し訳ない気分になるのだった。
―――――――――――――――――――――――
イリスに引っ張られて優人達が向かったのは、
タワーと前回行ったカジノドームとを結ぶ道の
途中にある、そこそこ大きな洋服店だった。
どうやらこの都市に来た時に目をつけていたらしく、
イリスはものすごく上機嫌で服を選んでいく。
「これも、これも可愛い」
「イリスちゃん、すごく機嫌いいね………」
「ナナだって、楽しんでる」
「そ、そりゃこんなに可愛い服多かったら
楽しいに決まってるじゃん!!」
「何だろ、あれ見てると和むよな……」
「確かに、そうですね」
「ナナもイリスもはしゃいじゃって、
可愛いんだから〜」
店の服を片手にキャッキャッはしゃぐ2人の
少女に、優人達3人は暖かい視線を向けていた。
「リアも、ずっとメイド服だろ?
何か欲しい服とかあるなら言えよ?」
「いえ、私はメイドですから……」
「命令だ。欲しい服を選んでこい」
「…………相変わらずずるいですね、ユート様は」
「何とでも言え」
「はぁ、わかりました。ソフィア、行こう」
「うんわかった〜」
リアは軽く息を吐き、ソフィアを連れて
大人服のコーナーの方へ歩いていく。
さすがに男1人で女性服売り場にいるのは
まずいと思ったのか、優人は無言で男性服売り場の
方に向かう。
悲惨な出来事の後の優しい1日、
たまにはこういう日もあってもいいよね?
次回投稿12/17(土)13:00予定です




