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ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈2章 海上都市セイルペイス編〉
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17話



「ユート、大丈夫かなぁ 」




タワーを降りて近くの食料店に入ったナナは、

ぼそっと独り言のように不安をつぶやく。




「イリスが何とかするって言ってたから、

今はそれを信じよう」




隣で目の前に並べられている商品とにらめっこを

していたリアが、ナナの方を向くこと無くそう言う。




「あれ?英雄様のお連れじゃないですか!」


「え?」




いきなり声を掛けられた事に驚いたナナとリアは、

声のした後ろに振り返る。

そこには猫人男性が1人立っていた。



「お買い物ですかい?」


「ええ、そうですけど、どこかで会いましたか?」


「あーいや、お嬢さん方には会った事は無いけど、

英雄様ならこないだ出会いましたよ」


「あ、そういえばユートが前にそんな事言ってた!!」


「そうでしたか」




猫人の少し砕けた感じの話し方に、リアが

丁寧に対応していく。




「そういえばあの時は別のメイドの子と一緒に

いたっけな。

…………で、今日は英雄様と一緒じゃ無いんですか?」


「そ、それは…………」


「ナナ。…………ユート様は少し気分がよろしくない

ようなので」


「リアさん……」


「そうなんですか?

英雄様でもそういう事あるんですね〜」


「ええ、ユート様も人間ですから」


「まあ、それはそうですね!

何かあったら言ってください、王国の人間なら

誰でも協力してくれると思いますから!

それでは!」


「ありがとうございます」



じゃあ、と猫人は手を上げ、

頭を下げるリアに軽く挨拶をして去っていく。




「ナナ、買い物を続けよう」


「うん。でも……」


「ナナ、どうかした?」


「リアさん、涙拭かないと」


「えっ」



ナナの発言に驚いて、リアが自分の目元に手を当てる。


…………あ、確かに濡れてる。


そこでようやく自分が泣いていた事に気が付いた。




「嘘、私、何で……」


「リアさん、我慢してたんだね」


「………私、いつから泣いてたの?」


「あの猫人の方が帰る辺りからかな?」


「な、そんな前からとは……恥ずかしい……」


「ま、仕方ないよ!!

それより早く買って帰ろうよ!!」


「そうだね、急ごうか」


「うん!!お昼はね―――」



ナナが昼食のレシピについて元気に語り出す。

その優しさに、また泣きそうになるリアだった。













―――――――――――――――――――――――





「…………………………」


――――――ガサッ。



イリスが部屋を出た数時間後も、寝室を静寂が

包んでいた。


だが、それを破るように小さな物音がする。




「…………約束、したもんな」




――――――ガチャ。




リビングの明かりは完全に消えていたが、

目が暗闇に慣れてしまっているためどこに何があるのか

すぐに分かってしまう。




「…………ん?」




ソファからはみ出したナナの足を避けながら、

テーブルに置かれた見慣れない物を手に取る。




「………………これは」




しばらくその物を眺めたあと、収納にしまう。




「…………急ごう」




優人は音を立てないよう注意を払い、

書き置きを机に置いて玄関に向かう。














―――――――――――――――――――――――






――――――コンコンッ。



「はーい、どなたですか?」




ガチャ、と中から1人の少女が出てくる。



「ちょっと、大事な話があるんだけど

中に入れてもらってもいいかな?」


「えっと、どちら様ですか?」


「トリノの知り合い、かな」


「え、お兄ちゃんの?どうぞどうぞ!」




トリノの名前を出すと、少女は何故か嬉しそうに

優人を中に招待する。




リビングは家具を一式取り揃えてはあるが、

どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。



少女に手招きされ、ソファに座る。




「飲み物入れてきますね」


「ああ、別にいい。

ちょっとそこに座ってほしいんだけど」


「えっと、わかりました」




テーブルを挟んで向かい側の小さなソファに、

少女はちょこんと座る。

いきなり現れた兄を知る人に驚いているのだろう、

どこか落ち着かない様子なのが見て伝わる。




「今は、薬で病気を抑えているのか?」


「えっ…………。

お兄ちゃんが、話したんですか?」


「まあな」


「そうですか。

…………お兄ちゃんは、元気にしてますか?」


「…………………………」




少女の質問に、優人は沈黙する。




「えっと、お兄ちゃんは」


「これを」




少女の声を声で遮り、

収納から取り出した物を突き出す。




「えっ、これは………」


「それは、君のお兄さん、トリノが持っていた

ペンダントだよ」




そう、優人が少女に差し出したのは

リビングに置いてあったペンダントだった。

なぜトリノの物だと分かったのかと言うと、



――――――カチッ。カパッ。



「…………確かに、お兄ちゃんの物ですね」



それはロケットペンダントの様になっていて、

中には幼き日のトリノと少女の写真があったからだ。




「君の質問の答えがそれだ」


「…………え、それってつまり」


「…………すまない」




少女が言葉を言い切る前に、

優人は立ち上がって頭を深く下げる。




「君のお兄さんを、守れなかった」


「…………お兄ちゃんが、死んだ?

え、嘘、何で?何でお兄ちゃんが?

ねえ、何で?何でお兄ちゃんが死ななきゃいけないの?

ねえ何でってば!!」



ゴトッと勢いよくソファを蹴りだし、

優人の胸ぐらに殴りかかる。




「……………………」



ただ、小さな拳をひたすら叩きつけてくる少女を

優人は無言で、自身の身をもって受け止めていく。







しばらくすると少女は殴り疲れたのか、

ピタリと動きを止め、俯く。



「…………1つ、聞いてもいいですか」


「何でも」


「お兄ちゃんは、優しい人です。

病気で街にさえ出掛けられない私を1人で

見捨てずに育ててくれました」


「ああ、知ってる」


「優しすぎて、騙されやすいのが残念な所ですけど、

それでも他人に恨まれたりする様な人じゃありません」


「ああ」


「お兄ちゃんは、誰にやられたんですか?

どうしても、恨みを持たれる相手がいるとは

思えないんです。

あなたなら、知っているんじゃないですか?」




そう問う少女の目は真っ直ぐ優人を見つめ、

どこか強い意志を感じさせた。

そんな少女の気持ちに応えようと、

優人もはっきりと、目を見つめ返し答える。




「心当たり、と言うのには少し弱いけど

俺に少し思いつく所がある。

もし、そいつが犯人だとしたら、君はどうする?

君が望むのなら、俺はそいつを殺そうと思っている」


「いえ、そんな事をしてもお兄ちゃんは喜ばないし、

誰も得しないです。

だから、もし犯人にあったらこう告げてください。

『2度と、同じ過ちを繰り返さないで欲しい』と」




少女の返事に、優人は目を見開いて驚く。




「君は、強いんだな」


「強くなんてないですよ。

本当はもっと泣きたいです。

でも、お兄ちゃんがいつも言ってました。


『泣いている時間の分、笑っていた方がきっと

いい事がある。だから泣く暇があったら笑おう』


って。だから、私はこれ以上泣きません。

泣いたらお兄ちゃんに怒られちゃいますからね?」



少女はそう言って笑顔になる。

少しぎこちないがそこには、彼女の思いが全てこもっている、そんな感じがした。




「君にそう言ってもらえると、

ほんの少しだけ心が救われるよ。

じゃあ、俺は犯人を探しに出るから」


「あの、わざわざお兄ちゃんの為に

ここまで来て頂いてありがとうございます。

お兄ちゃん、あなたの事は本当に信じていた

みたいですね」


「ああ、俺もトリノの事は心から信じれると思った。

君も、何かあったら俺の事を頼ってくれ」


「名前、聞いてもいいですか?」


「御影優人だ、君の名前は?」


「ニレです」


「そうか。じゃあニレ、また後日改めて来るから」


「わかりました。犯人探し、頑張ってください」


「任せてくれ。………………それと」


「何ですか?」


「――――――『フルデトス』」




優人の手から放たれたそれは、少女・ニレを

優しく包み込んでいく。

完全に包みきってから数分もたたないうちに、

それはゆっくりと薄くなり、消えていってしまう。



「…………どうだ?」


「すごい、体が楽になった。

何だか病気が治ったみたいな気がする…………」


「…………約束は、これでしっかり果たしたからな」


「え?」




少女の疑問に答えることなく、優人はその家を

出て行くのだった。









トリノの妹・ニレと会った優人。

犯人探しの結末は……?

次回投稿12/16(金)13:00予定です

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