15話
「そういえばさ」
「何ですか?」
タワーを降りてすぐ、優人はトリノに話を切り出す。
「その、妹の様子を見に帰らなくてもいいのか?
重病なんだろ?お兄ちゃんが近くにいないと」
「その事なら大丈夫です。
元々店で安く買った薬で、ある程度まで症状を
抑えられているんですよ。
それに、食料も買い込んでおいてますので、
当分は1人で暮らせるとおもいますよ?
お気遣いありがとうございます」
「そうなのか。でもまあ、近々1度帰っておけよ。
妹もあんまり帰ってくるの遅くなると心配するだろ?」
「そうなんですけどね、家を出てくる時に妹に
『万能薬を買ってくるまで帰らないつもりだから』
と宣言しちゃってるんですよ……」
(しちゃったのかー。こいつ中々大胆な事をするよな)
隣で頬を掻きながら恥ずかしがるトリノの話を聞き、
優人は内心でため息をつく。
「なあトリノ、その症状って万能薬じゃないと
絶対に治せないのか?」
「いえ、治す方法は他にもあるんですけど、
高レベルの回復魔法によるものなので
一番実現しやすいのが万能薬なんですよ」
「ちなみに、回復魔法だと何を使うんだ?」
「確か、レベル8で覚える『フルデトス』っていう
状態異常を完治させるスキルだったと思います」
(なるほど、確かレベル8だとこの世界の住人では
到達しにくいんだったな。じゃあ俺が―――)
「―――トリノ、なら俺が妹を治してやるよ」
「え、ええっ!?
いきなり何言ってるんですか!?
あっ、お金なら借りませんよ!?
タダでさえ借金で金貨60枚あるんですから!!」
どうやらトリノは優人が以前の勝負でチャラにした
60枚を借金だと思い込んでいるらしく、
さらには万能薬を買うお金を渡してくれると
勘違いしているらしい。
そういう所はナナに似てるし、
ナナよりほんの少し賢いけど、やっぱりダメなやつだ。
「落ち着け。
………ここだけの話、俺は回復魔法極めてるんだ」
「そ、その話本当ですか!?」
「ああ、周りには内緒だからな?
それで、お前の妹の病気も治してやれるかもしれないんだけど、どうする?
トリノさえよければすぐ向かうけど」
「いいんですか!?
……じゃ、じゃあ明後日にでも……」
「ああ、わかった。みんなで行こうな」
「ありがとうございます!!」
トリノはぱあっと顔を明るくする。
素直に感謝されたのが照れ臭かったのか、
優人は少し歩くペースが早くなる。
そんな優人の気持ちにも気付かず、トリノは
話を続けていく。
「主人様は何でも出来るんですね!
本当に、何者なんですか?」
「んー、その話は外ではしにくいな。
部屋に帰った時でいいだろ?」
「はい。………ナナさん達は知ってるんですか?」
「アタシもだけど皆知ってるよ〜?」
「あ、そういえばソフィアいたっけ」
「ちょっと〜!?
ユートがついて来いっていったんじゃん!!」
「いや、大人しかったからどこかで寝てるのかと」
「あ〜そういう事言うんだ〜?
拗ねちゃうよ〜?拗ねちゃうからね〜?」
「どんだけめんどくさいんだよ…………。
悪かったから拗ねるなって」
「ふふっ」
お約束のように言い合いを始める2人を見て、
トリノは思わず笑い声が漏れてしまう。
「悪いなトリノ。こんなくだらない事に付き合わせて」
「いえ。……ただ、そういうのいいなって」
「ん?どういう事だ?」
「いえ、僕はそんなに言い合える友達がいないので
そういうのはどうしても羨ましく思えてしまって……」
「そうか、でもまあもうそんな事ないだろ。
何かあったらうちの奴らに言えばいい」
「っ、はい!!ありがとうございます!!」
「ま、ナナとかは喋るの大好きだし、トリノも
仲良くなれるだろう」
「ありがとうございます!!」
トリノは嬉しそうに何度も感謝を述べ、
頭を下げる。
「はっ、感謝してばっかりだな」
「ホントにね〜?ユートになんか感謝したら
後で何されるか分かんないよ〜?」
「それはソフィアだけだからな……」
「僕、主人様の元で働けて嬉しいです!!
早く、妹にも紹介したいですよ!」
「そうか」
精一杯の感謝を込めて言葉を発するトリノに、
優人はさらに照れてしまい雑な返事をしてしまう。
人の影すら見えない裏道に差し掛かった辺りで、
優人はトリノに話し掛ける。
「なあ――――――」
――――――トッ。トトッ。
――――――バタッ。
「――――――え?」
優人の視界から突然、トリノが消える。
トリノのいた場所には、生えるように矢が立っていた。
「ちょ、ユート!?しっかりしなよ〜!」
ソフィアに揺すられ、優人は視線を落とす。
そこには頭、喉、胸に矢が刺さったトリノが倒れていた。
矢の先端は深く刺さり、そこから流れる血は地面を
赤黒く染めていく。
「と、トリノ!!」
優人は慌てて駆け寄り、回復魔法をかける。
だか、もう間にあわない。血は止まらない。
「あ、ああっ…………」
「ちょ、ユート!!泣いてる暇あったら犯人
探さないと〜!!」
「は、はははははハハハハハっ」
「ユート!!ねぇ!!ユートってば!!」
ソフィアが体を揺するが、優人は上の空である。
「もうっ!!」
ソフィアは何かを決めたように、さっとその場から飛び立つ。
その後しばらくの間、優人の乾いた笑い声が響き続けた。
―――――――――――――――――――――――
「お嬢様、ご報告申し上げます。
弓兵の話だと御影優人の連れの方を間違えて殺してしまったとのことです」
「はぁ、それで御影優人は仕留めたの?」
「いえ、どうやら弓矢を3本しか持っていなかったらしく、すごすごと引き返してきたようです」
「ちっ、使えないわね!
せっかくいいチャンスだったのに!!
そいつは処分しておきなさい!!」
「かしこまりました。
して、御影優人なのですが―――」
男は女性に優人の様子を伝える。
「―――なるほど、そんな様子なら2度と立ち直れなさそうね。
分かったわ、全員を1度引き上げてちょうだい」
「かしこまりました」
男はさっと部屋を出ていく。
「御影優人が壊れた、か。
何だかあっけない。面白くないわね」
女性は椅子に深く腰掛け、
何とも残念そうな顔をするのだった。
トリノの死に壊れる優人。
今後の展開は……?
次回投稿12/13(火)13:00予定です




