5話
部屋であれこれ考えた結果、色々と情報が足りていないという結論に達した。そこで、情報を得ることの出来る場所がないか、受付の子に聞いてみる。
「んー、それなら冒険者ギルドに行ってみてはどうですかね?
というか、あれだけの算術を持っているのに商業ギルドに入ってなかったんですか!?」
……そこに驚かれても、俺は何も悪くない。
内心苦笑いを浮かべつつも優人は受付の子に冒険者ギルドの場所を聞き、とりあえず向かってみることにする。
「しかしこれはまたでかいなぁ」
聞いた情報を頼りに目的の冒険者ギルドのある場所にやって来ると、彼の目の前に日本ではまず見られない様な巨大な建築物が現れた。その存在感に圧倒されながらも、取り敢えず中に入ってみることにする。
中は広々とした空間があり、右側にカウンター、真ん中奥の壁には紙が大量に貼り付けられ、左側には机や椅子がいくつか並べられていて階段もあった。
「見ない顔ですね、ギルド加入のものですか?」
カウンターの奥に座る女性が話しかけてくる。
「ああ、田舎者だから色々と教えてもらうと助かるんだけど」
「分かりました、とりあえずこちらにお座り下さい」
女性は優人を近くの椅子に座らせるとカウンターの奥へ向かい、何やら数多くの資料を手に戻って来る。
「そうですね、まずは先に冒険者ギルドの登録から始めましょうか。
この用紙の空欄を埋められるところだけ埋めてください。
書けない所は開けてもらっていいですけど、名前と年齢だけは書いておいて下さい」
渡されたペンで言われた通りに書き込んでいくが、出身地や誕生日などは当然空欄のままである。
ある程度埋めた事を確認し、用紙とペンを返す。
「………はい、問題ないですね。
次に、このプレートに一滴血を垂らしてください」
そう言われ金属片と針を渡されると、人差し指をそれで刺し血の滴を垂らす。
すると、金属片が血を吸収し光を放つ―――が、一瞬で収まり、気付けば金属片の表面に文字が浮かび上がっていた。
――――――――――――――――――――――――
ミカゲ ユウト : F ランク
討伐モンスター数:0
クエストクリア数:0
――――――――――――――――――――――――
「―――はい、これで冒険者登録は完了ですね。
改めて自己紹介させてもらいますね。私はイルミ、ここのギルドの受付をしています。
クエストの受注や素材の売却などは基本ここで行うと思ってください。
ギルドの受付員なら誰でも良いんですけど、せっかくの縁ですから出来れば私の所に来てくださいね?」
と、その女性―――イルミは笑顔でそう口にした。
よく見るとイルミは耳が鋭く尖り肌も白く何より顔立ちが整っている、つまりは美人だった。
「イルミさんは、エルフなのか?」
「イルミでいいですよ。
ええ、エルフですよ。惚れちゃいましたか?」
優人の疑問に対し、彼女は冗談を軽く混ぜながらもそれに答えた。
(いや、確かに惚れそうなぐらいの美人だけど、絶対この人何かあるんだよな……)
そう思いつつも、優人はイルミに向き直る。
「冒険者について聞きたいことがあれば何でもお申し付けください。また、冒険者以外の事でもある程度は情報がありますから、何でもお気軽にどうぞ」
「じゃあ早速一つ、ランクは何段階ある?」
「Fランクから始まってE、D、C、B、A、Sの七段階ですね。
Sランクで実績を上げると、ランクとは別に『称号』というものが与えられ、それによってさらに知名度が変わります」
「なるほど、あとは―――ああ、ここから王国までどれぐらいかかる?」
「何で移動するかによりますけど、歩けば四日程ですね」
「そうか。じゃあ、とりあえず何かクエストを受けてみようかな。何かオススメとかあるか?」
ええっと、と頬に手を当てながらイルミの視線は上を向いた。
「そうですね、簡単なのは薬草採取とか店の手伝いとかですね。
討伐系となれば、ゴブリンとかライノホグとかブルーファングの討伐ですね」
(ライノホグはあの猪だろう、ゴブリンとはまだ遭遇していないな)
「なら、ライノホグとブルーファングの討伐で頼む」
「分かりました。ちなみに同伴者の人は?」
「ん? クエスト受けるのに同伴者が必要なのか?」
「いえ、さすがにFランクの冒険者がクエストを二つ同時に受ける程の実力を有している訳ないので、同伴者が普通は存在しているのですが」
「ああ、そういう事なら問題ない。俺一人だ」
優人のその言葉を受け、イルミは驚きのあまり目を大きくした。
「え、無茶ですよ!?
Fランク冒険者一人でこの二種を五匹ずつ討伐するなんて、数日かかっても厳しいですからね!?」
「まあ、そこはほら、運任せというか」
「いや、そんな適当な! 許可できません!!」
(うっ、困ったな、嘘でも同伴者がいることにしておけば良かった。
まさかこんな所で躓くとは……)
「そこを何とか出来ないか?」
「いやですね、でもしかし……」と、イルミは腕組みをして唸る。
「分かりました。ではこうしましょう。
討伐の時間帯は日が昇ってから落ちるまでの間で、毎晩報告に来てください。
必ず1体1で戦うこと、数が増えたら撤退すること。
……これらを約束してくれるなら、仕方なく!! 討伐を許可します」
(うっわ、結構な過保護で……)
正直めんどくさいと感じる優人だが、仕方なくイルミに合わせておく。
「分かった。なら早速行ってくる」
そう言って足早に立ち去ろうとするが、
「あー待ってください、まずはクエストの依頼書にサインをお願いします」
どうやら、彼の予想以上に事はスムーズには運ばないらしい。
――――――――――――――――――――――――
「ブモォォォォォォォッ!!?」
「これで最後……っと」
街から出て草原に向かうと、早速ブルーファングの群れに囲まれた。が、そこはチート剣でほぼ瞬殺し、優人はゆるりとライノホグを討伐している所だった。
「しかしまあ、倒しても倒しても沸いてくるんだよな、コイツら。
どういう原理で発生してるのやら」
と世界の理の様な事を考えていると、例のあの女が彼に気が付き手を振って駆け寄って来る。
「あ、お兄さんお兄さん!!!」
(えーと、名前なんだったかな……バカ子?)
「またブルーファングに囲まれてたのか?」
「いや違うから!?
そんなに頻繁に絡まれてたらナナだってさすがにヤバイから!?」
ああ、思い出した、ナナとかいう名前だったな。
「んじゃあ、何してたんだよ」
「そりゃあもちろんクエストだよ! こう見えて私も冒険者なんだから!!」
えっへん、とナナは優人に向けて豊満なその胸を張る。
だが、優人はそれがバカっぽい行動なんだと言いたくなった。……結局言わなかったが。
「お兄さんこそ、こんな所で何してるの?」
「俺もクエストだよ、今終わったから帰るところだ」
「あ、そうなんだ!
ナナもちょうど今終わった所だし、一緒にギルドに戻ろうよ!」
(マジか、このアホ女と帰るのかよ……)
「………やっぱもうちょっ「さあ帰ろー!」」
断ろうとした雰囲気を察したのか、ナナは無理やり優人を引っ張っていく。
「おいやめろ、街中のバカップルみたいに引っ張るんじゃない。
……てかお前も自己中かよっ……」
――――――――――――――――――――――――
「そういえば、自己紹介まだだったね。ナナの名前はナナって言うんだよ!
お兄さんの名前は?」
(何このバカ丸出しの自己紹介、幼稚園児かよ)
「俺は優人でいい」
前をずんずん歩き進めるナナの後ろからそう答える。
「そっか! じゃあユートさんだね!
ユートさんは冒険者だよね、受付担当はイルミさんで良いのかな?」
「ああ、お前もか?」
「うん!イルミさん美人だよねー!!
それでさ―――」
などと、他愛も無い会話をし、ギルドに辿り着く。
「あら、ナナちゃんおかえりなさい。
―――と、ユートさんも?」
「イルミさんただいまです!!」
ギルドに入ると、イルミが笑顔で迎えてくれる。が、優人が帰ってきた事が意外だったのか、優人に対しては不思議そうな顔をする。
「ところで、どんなご要件でしょうか?」
「これ! クエストのやつ!」
イルミの定型文にナナはそう言うと、収納から薬草やら木の実やら色々と取り出してカウンターに置く。
「―――はい、ちょうどですね。
クエストお疲れ様でした。これが報酬ですね」
ナナの前に銅貨一枚程が積まれていく。
因みにだが、一銅貨=一マドカであり、一銀貨=百銅貨のように、貨幣の質が上がれば金額が百倍になっているらしい。貨幣の種類は、銅、銀、金、白金の四種類ある。
「こうやって見てると、何だがお金持ちになった気分だねぇ」
この子はアホの子を通り越してもはや病気なのでは、と彼は思ったが流石にそれは失礼なので考えを止めた。
「さて、ナナちゃんはこれでいいとして、ユートさんはどんなご要件でしょうか?」
「ああ、俺もクエストのやつだ」
そう言って優人はブルーファングの牙とライノホグの肉を取り出す。
「……え? えええぇぇぇぇぇぇ!!?」
そんなに驚く事なのか、悲鳴に近い声を上げるイルミに対してそんな感想を抱いていると、周りの人間が何事なのかと彼を窺い始めていた。
「ちょ、イルミ、落ち着けって」
「落ち着けませんって!!
今日冒険者登録した人が一人でブルーファングとライノホグの討伐を達成するとか、どんだけ大業を成し遂げたと思っているんですか!!
こんな所、このギルド始まって以来の異常事態ですよ!?」
と、独りでに騒ぎ立てるイルミ。
そんな彼女を宥めていると、優人に一人の男性が近寄って来る。
「君、良かったら僕のパーティーに入らないかい?」
「あ!? セイン抜け駆けはずるいぞ!!」
「そうだぞ! 爽やかに言えば何でも上手くいくと思うなよ!」
「このタラシスト!!!」
と、セインと呼ばれた爽やか系の好青年に向けて大量の野次が飛ばされる。
(どの世界でも爽やか人間は敵に回るんだな、本当にご愁傷さまで………)
なんて心の中で思いつつ、優人はセインに対し
「すまない、誰とも組む気は無いんだ」
と自分の意志を口にした。
しかし、セインはそれが気に食わなかったらしい。
「そうか、しかし君程の実力者が1人で行動するなんて勿体ないよ?
僕のパーティーに入れば、優秀な仲間とクエストに行けるんだよ?
考え直してみてくれないかな?」
セインが必死に説得しようとしてるその時、優人は唐突に過去の記憶が一瞬フラッシュバックした。
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"お前みたいな奴、仲間なワケ無いだろ?"
うるさい、黙れよ、お前らが悪いんだろうが。
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「――――――ッ!?」
「ゆ、ユートさん?」
フラッシュバックから何とか意識をこちらに戻した彼は、声のしたイルミの方に向く。
「イルミ、どうかしたか?」
「いえ、その今一瞬だけユートさんから変な気を感じたと言いますか……大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ちょっと昔の事を思い出しただけ、大丈夫だ」
そう言って、いつの間にか大人しくなっていたセインに「すまない、やはり一人がいい」とだけ伝えると、苦笑いを浮かべるセインが少し遅れて口を開いた。
「そ、そうか。それなら仕方ないな」
そう言って、セインは仲間の元に早歩きで戻っていった。
「ええっと、とりあえずこちらが報酬になります」
イルミさんは少し落ち着かない様子で、優人の前に銀貨一枚と銅貨二十枚を置く。
そう言えば、と思い横に座っているナナを見ると、少し涙目になってこちらを見ていた。
「ナナ、どうした?」
「その、さっきのユートさん、少し恐かったです」
そう言って、ナナは俯く。
「そうか、それは悪かったな」
「いえ、良いんです。今はいつものユートさんですから!」
「いや、いつものって昨日今日で知り合ったばっかりだろ……
何でそんな前から知り合いみたいな雰囲気出すんだよ」
「細かいことはきにしないの!!」
どこの芸人のマネだよ、と思いながらも、変な感じだった雰囲気を変えてくれるこの明るさに少しだけ感謝をした。
しかし、彼女の見せる笑顔はどこかぎこちなかった。
初クエストは一瞬でしたね!
次話では、優人が………?
次回投稿10/28(金)20:00予定
※打ちミス、矛盾点がありましたら教えていただけると幸いですm(_ _)m