9話
「さて、この後どうしようか?」
昼食を終え、備え付けのソファでくつろぐ優人は他のみんなに声を掛ける。
「この都市を歩いて回ってみてはどうですか?
都市の構造を知っておいて損は無いですし、依頼についての情報が何か手に入るかも知れません」
昼飯の片付けをしていたリアがそんな提案を出してくる。確かに何の情報も得られていない今、とりあえず都市を歩き回ってみるのは得策だろう。
「てかユート、同時に依頼進めるの?
一個ずつやっていった方がいいんじゃない?」
と、リアの手伝いをしているナナ。彼女にしては偉くまともな意見だが、優人はその事を既に思慮していた。
「いや、それも考えたんだがな。両方とも分かっているのは名前ぐらいだろ?
こんな広い都市で、誰が人の名前とか騎士隊とかちゃんと把握してるんだよ」
現に優人達が都市に入った時にも、騎士の様な姿をしていた者は沢山いた。そんな状況で騎士隊を探すのは雲を掴み取ろうとするようなもの。まず不可能である。
「ま、どちらにせよ外に出ない事には始まらないか。出掛けるけどナナ達はどうする?」
「ナナは片付けあるし、お風呂もゆっくり入りたいからパスかなー」
「私も片付けがありますので、申し訳ありません」
ナナとリアは片付けがあるとの事でパスらしい。イリスとソフィアの方に向く。
「私も、パス。人混み、疲れる」
「じゃあアタシも――――」
「じゃあ、俺とソフィアで行くか」
「ちょっと!? アタシの意見は!?」
「どうせ寝るだけだろ? そんな時間あるならついてこい」
「あ~あ~、人使い荒いんだから~」
「人じゃないから使いが荒くても文句言うな」
「うっわ屁理屈じゃん~!! 大人げないな~~~っ!!」
「はいはい。いいから行くぞ」
「……ちぇっ」
「じゃ、いってくるから。もし出かけるなら書き置き頼むな」
収納から取り出した紙とペンをソファに置き、ぶつくさと文句を言い続けるソフィアを連れて都市街に繰り出すのだった。
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街の三分の一ほどを歩いて見て、優人はこの都市の凡そを理解した。
マップにあった巨大な3つの円はそれぞれカジノ施設を示していたこと、都市の端の壁側には等間隔に装置が設置されていること、街を歩く人の多くが高価そうな衣服や宝石等で着飾っていることなどである。
どうやらソフィアでもセイルペイスの構造を全く知らなかったようで、初めは嫌々ついてきていた割には途中から優人よりも前を飛んでいた。
「ユート、この後どうする~?」
「そうだな、カジノ行ってみるか」
「ナナ達は置いていくの?」
「ああ、あんなむさくるしい所に未成年を連れていったら教育に悪いだろ」
「ユートパパはしっかりしてるんだね~」
おい誰がパパだよ、と優人が口にするよりも先に目的のカジノドームに到着してしまう。不服そうな表情のまま、彼は前を飛ぶソフィアに魔法を使わせた。
「ソフィア、『反照』使っておけ」
「りょ~かい」
「カジノか、こういうのは初めてだけど行くしかないよなぁ……」
初めての場所に対する不安を誰にも聞こえないように呟き、優人はカジノドームに足を踏み入れていく。
入口から左回りの通路を抜けた先に大きなドアがあり、その向こう側にカジノ場はあった。
「すげぇ、これがカジノ場……」
「(アタシもこの規模のは初めて見るわ~)」
想像以上の広さに優人達はつい驚愕の声を漏らしてしまう。それを聞いたのか近くを通った人間の男性達が声をかけてくる。
「兄ちゃんはここ来るの初めてかい?」
「……ああ、初めてだ」
「なら右側の初心者用のゲームで慣れる事をオススメするぞ、何せ左側のゲームは難しいからな」
「そうか、わざわざありがとう」
「いやいや、同じ人間同士楽しむ時間は共有しようじゃないか。なあ皆!!」
話しかけてきた男の声に応じて、他の男が声を上げる。カジノ、というよりは賭博場らしいそのやり取りに、優人は無意識に苦笑いしていた。
「じゃあな兄ちゃん。せいぜい頑張れよっ」
「痛っ」
男は優人の背中を力強く叩き、仲間を連れて左側に歩いていった。
「……やるな、さすが人間」
「(ユート、背中が汚れてるよ~?)」
「わかってる」
優人はさっき男に叩かれた部分に手を伸ばし、『クリア』をかけて汚れを落とす。
「あれは初心者狩りだろうな。俺の世界でもよくある手法だ」
「(ユート、相変わらずそういうのに敏感だよね~)」
「慣れてるからな」
突然のアクシデントを軽く回避して、優人は右側の方に歩いて行く。
右側にはスロット系とルーレット系、テーブル系と三種類のゲームが用意されていた。
丁度テーブル系のゲームが空いていたので、優人はそこにある椅子に腰を下ろす。
「お客様、本日はどのゲームにいたしますか?」
「悪いが初めてで勝手が分からない。とりあえず何をしたらいいか教えてくれ」
「承知いたしました。
ではまずここのカジノ場で使われるのは基本銀貨以上です。ディーラーのいるルーレットとカードは、そのディーラーの指示に従ってゲームを進めてください。
次にここでのゲームは『ストップ』というゲームです。このゲームの説明は必要ですか?」
「ああ、頼む」
「『ストップ』というのは、それぞれ1から9までの数字が書かれたカードを4枚ずつ、計36枚のカードを使って行われます。この36枚は数字の見えない裏面を上にしてシャッフルし、ディーラーとお客様の間に置き『山札』として扱います。
まずどちらかが10以上の数字を言い、その後交互に山札からカードを引いていきます。欲しい枚数まで引いたら『ストップ』と言い、お互いに欲しい枚数引き終わった所で引いたカードを全て裏返し、書かれている数字を合計します。この時最初に言った数字により近い方が勝ちです。
これを1ゲームとし5ゲーム行い、先に3勝した方の勝ちとなります。また、1ゲーム目に数字を言うのはどちらでも構いませんが、次のゲームは違う人が数字を言わないといけません。
ここまでで何か質問はありますか?」
「そうだな、山札はゲーム事に36枚なのか?」
「いいえ、基本的には持ち越しとなります。ゲーム中に引いたカードは表向きのまま山札の上に積んでいき、山札が無くなったらそれを裏返してシャッフルし、山札として扱います」
「ゲーム内の不正とかについてはどうなっている?」
「このゲームに関して言えば不正する事はまず難しいのですが、ゲーム中の不正はバレた時点で即失格、賠償金を請求されますね」
「なるほど、最後にこのゲームの倍率を教えてくれ」
「勝てば賭け金が2倍になり、負ければ賭け金の半分をディーラーに取られます。万が一引き分けた際のみ4倍となります」
(まあ、引き分けの可能性はかなり低いだろうからな。4倍狙うぐらいなら堅実に2倍を重ねる方が賢いか)
「とりあえず練習として1回やってみてもいいか?」
「ええ、もちろんですよ」
ディーラーが早速山札を用意する。目の前でシャッフルされていくカードを目にしながら、優人はこのゲームについて色々と策を巡らせていく。
少しして準備が終わったらしく、ディーラーが彼に目を向ける。
「では、練習ですので賭け金は無しでいきましょう。数字も選んでもらって構いませんよ」
「ありがとう。じゃあとりあえず20かな」
「20ですね。では先にカードを」
「ああ」
優人は山札からカードを一枚引く。それに合わせてディーラーもカードを一枚引く。
「…………ん、ストップ」
四枚引いた所で優人はストップを宣言する。
「では私は5枚目でストップですかね」
ディーラーが五枚引いたところで手を止め、順番にカードをめくっていく。優人も四枚のカードをめくっていき、現れた数字を確認する。
「1、8、4、5…………18か」
「私は7、5、2、6、1ですから21ですね。ということは今回私の勝ち、となりますね」
(なるほど、割と単純だな。初心者向けというのも頷ける、という訳か)
「大体ルールは分かった。じゃあ本番始めようかな」
「(ユート勝てるの?)」
これといった策を思いついた様子を見せない優人に不安を感じたのか、先程まで大人しかったソフィアが耳元で囁く。
「分からん、とりあえずやってみる」
「(あっそ。じゃあアタシ適当に周り見てくるね~)」
「お客様? どうかなされましたか?」
「ああいや何でもない、始めよう」
「かしこまりました、では賭け金の方を────」
遠くにふらふらと飛んでいくソフィアを見送った優人は、目の前のディーラーとの勝負に意識を集中させていくのだった。
カジノで優人はどれだけ奮闘出来るのか?
次回投稿12/4(日)13:00予定です




