8話
「最上階ですと、1週間で1500マドカですね」
(銀貨15枚か、確かに高めだな。
でもまあ最上階だし、問題ないか)
優人達はナナとリアが聞いて来てくれた情報を頼りに、都市に一つしかない不動産屋に辿り着いていた。
「じゃあ、とりあえず1週間で」
「はい。ではこちらが鍵になります。
ルームサービスとして、部屋に生活用品は1式揃っていますので、不備などありましたらお手数ですが1階の受付に申し付けてください」
「はい、ありがとうございます」
「延長する際はここにまたいらしてください」
職員に軽く挨拶をし、不動産屋を出る。
「しかし驚いた。不動産屋でタワーの一室を借りれるとはな」
「どうやらこの都市は他と少し異なる様ですね。
タワーの一室は宿屋に比べて金銭的に高いですから、不動産でしっかり管理したいのでしょう」
「なるほど、それでタワーも一緒に不動産屋で扱われていたのか」
優人は手にある鍵に目を落としながら、借りたタワーの一室に向かうのだった。
―――――――――――――――――――――――
「わぁー!! すごい!! 広い!!
すごいよユート!!」
「ああ、これはすごいな……」
「広い。下手したら、家のリビングより」
「普通の家より広いなんて……」
都市の北西部にそびえ立つタワーの最上階の一室、その玄関を開けた先には信じられないほどの空間が広がっていた。
「と、とりあえず入ろう。リアとナナは昼飯の準備をしてくれ」
「かしこまりました。ナナ、準備始めよう」
「うんわかった!! 台所どこかなー」
「イリス、ソフィア。
俺たちは他の部屋を見て回ろう」
「うんりょ〜かい〜」
「わかった」
3人は玄関から一番近い部屋から順に見て回る事にした。
―――――――――――――――――――――――
「飲み物持ってきたよー!!」
「お、ありがとう」
ナナ達2人の昼飯の用意が終わる前に一通り部屋を見て回った優人達3人は、リビングに食事が並ぶのを待っていた。
テーブルに次々と見たことのない色鮮やかな料理が並べられ、最後に運ばれてきたのが飲み物だった。
「あーでもね、4人分はグルーパジュースが買えたんだけど、一つだけアスタルジュースなんだ……」
グルーパジュースはナナが大好きな赤色の飲み物で、バニラアイスの様なマイルドな甘さに口当たりの良い酸味が広がるという、何とも不思議な味がする。
逆にアスタルジュースは蜜柑の酸味を中心とし、スイカの様なシャリシャリした食感を楽しめるという、こちらも不思議な味のする飲み物だった。
因みにナナはアスタルジュースがあまり好きではなかったりする。
「えっと、どうやって分けようか?」
「公平にジャンケンでもしたらどうだ?」
(てか、ジャンケンはこの世界あるのか?)
「ジャンケン? まあそれでいいっかな。みんなもそれでいい?」
「アタシはいいよ〜」
「同じく」
「私も大丈夫だよ」
ナナの問いかけに3人が肯定する。ジャンケンがあることに、優人は思わずほっと溜息をついてしまう。
「よし、ジャンケンする前に宣言しよう。俺は絶対にパーを出す」
「「「「えっ!?」」」」
突然の宣言に、4人が勢い良く優人の方に振り向く。
「ちょユート!? ジャンケンなんだよ!?
そんなこと言っちゃっていいの?」
「ナナ、これはジュースをかけた真剣勝負だぞ?
ちょっとは本気で頭使えよ?」
「わ、わかってるよ……………あっ、よし!!」
どうやら優人の出す手に気付いたのか、ナナが思いっきり笑顔に変わる。
「ね〜イリス、ユートってバカだよね〜?」
「変わった、愛情表現」
「ユート様らしいよね」
どうやら他の3人は優人の真意に気付いているらしく、2人のやり取りを見て微笑んでいる。優人としては恥ずかしいのを我慢するので必死だった。
「よし、ジャンケンするぞー?
ジャーンケーン――――――」
――――――ポン。
「―――――――――えっ!?」
優人が出した手を見て、ナナが驚愕の表情を浮かべる。
イリス、リア、ソフィアの3人はチョキを出し、ナナと優人はパーを出していた。
「何で!? ユートはグーを出すんじゃなかったの?」
「言っただろ? 俺はパーを出すって」
「確かにそうだけと…………」
納得がいかないのか、ナナが頬を膨らませる。
(可愛いけど、可愛いけども!!)
「ほら、早くジャンケンするぞ。
次はグーを出すからな。よーく考えろよ?」
「ええっと…………うん!!
じゃあいくね!! ジャーンケーン――――」
――――――ポン。
ナナはパーを出したのに対し、
優人が出したのは――――――グーだった。
「――――――やった!! 勝った!!」
「あー負けたか、まあ仕方ないな。勝負だし」
「じゃあナナがグルーパジュースだね!!
はいユートがアスタルジュース!!」
ナナは満面の笑みを浮かべ、アスタルジュースを手渡してくる。本当にアスタルジュースは苦手なようだ。
と、2人のやりとりを見届けていた3人が微笑みながら近寄ってくる。いや違う、3人はニヤニヤしながら彼に近づいてきていた。
「ま、まあ飲み物も決まったし、早く食べよう」
「ふふっ。師匠、照れてる」
「ユート様は本当に優しいからね」
「てかさ〜、最初からユートがそれ飲めば良かったんじゃないの〜?」
「ユート様はそれを含めて優しいんだよ、ソフィア」
「…………」
ニヤニヤする3人と心から笑顔を咲かせる1人に囲まれながら、優人は何とも気恥しい昼飯を食べる羽目になってしまうのだった。
ひねくれるのも、時には人を幸せにするもの…
優人らしい優しさですね〜
次回投稿12/3(土)13:00予定です




