7話
ドームの中にあったのは、一つの街だった。しかし、建築のレベルが王国とは比べ物にならない程に進歩していた。
街道に沿って一軒家やタワーが建ち並び、その間に飲食店や宿屋、宝石店などが点在している。王国では見られない物ばかりに、優人達は目を見開いていた。
「初めてセイルペイスにお越しになられた方はこちらのマップを受け取ってから入って下さいねー」
「ん、マップか。みんな貰いに行っておこう」
と、門を入ってすぐ右手の所で海棲族の女性がマップを配っている声が聞こえてきたため、優人達はとりあえずそれを貰いに行く。
「すいません。初めて来たんですけど、このマップは人数分貰えますか?」
「ええ、どうぞ。因みに初めての方にオススメしてるんですけど、街を観光するならガイドを雇うのが良いですよ?」
(ガイドか。観光にガイドがつきものなのはどこの世界でも共通ってわけか)
「なるほど、ありがとうございます」
「いえいえ。
セイルペイスをじっくり楽しんでいってくださいね」
マップを受け取った優人達は人の邪魔にならないように脇道に移動し、マップを眺め始めた。
「ねえユート、今回の目的って第二騎士隊を探す事と『グラシア』って人を探す事だったよね?」
ナナが何か思ったのか、疑問を問いかけてくる。
「ああ、そうだけどそれがどうかしたか?」
「こんなに広い所で人探しってなるとまず一日じゃ見つかりそうに無いよね?
先に宿泊する所探さない?」
「言われてみればそうだな、とりあえずそうしようか。
ナナにしては良い判断だな」
「はぁ、素直に褒めてくれたらいいのに……」
「師匠、照れ屋さん」
「イリス、そのやりとりまたやるのか?」
「何度でも」
「くっ、名曲のタイトルで切り返すとは……」
「名曲?」
「……あー悪い、こっちの話だ」
優人の発言にイリスが首を傾げる。そこに割って入るように、リアが意見を口に出す。
「ユート様、今回の宿屋選びは割と慎重にした方がよろしいかと思われます」
「まあ、だろうな」
初めての土地なので、何が起こるかわからない。安全面を最優先にするべきなのは当然として、宿泊先の従業員に足元を見られる訳にもいかない。
最初から分かっていたかのような態度をとる優人に対し、リアが更に言葉を足した。
「では、何か考えがあるのですか?」
「まずはどの宿屋が安全なのかを調べた方が良さそうだな。
リア、ナナを連れてあの雑貨屋で買い物ついでに聞いてみてくれないか?」
「かしこまりました。ナナ」
「うん!! じゃあとりあえず昼ご飯になりそうな物と飲み物買ってくる!!」
リアに金貨数枚を渡してナナと近くの雑貨屋に向かわせ、優人はイリスとソフィアを連れてベンチに腰掛ける。
「師匠、思い出した事、ある」
「それ、何の話?」
「セイルペイスの事。昔、お爺ちゃんが言ってた。
確か──────」
イリスの話によると、セイルペイスはかなり最近出来た都市で、歓楽街を中心に造られたらしい。雑貨屋や飲食店、カジノの景品など、様々な品物が必要になった事が理由から貿易が発達したらしい。
「しかしまあ、よくそんなものを造ろうとしたよな。発案者誰だよ」
「わからない。でも凄い人なのは、確か」
「ああ、確かにそれはそうだな。
この規模を計画出来る奴は早々いないだろ」
「ね~ユート、その人の名前ならアタシ知ってるよ?」
「あっ、そう言えばソフィアに聞けば良かったな」
(こんな奴でも一応、『知』を司る精霊だもんな……)
「あっ今絶対失礼なコト考えたでしょ~!!」
ソフィアが肩でジタバタする。そんなに力が強くないので、まるで弱めのマッサージ機が肩を叩いている様な感覚になる優人は、言い返す事をせずにその気持ち良さを堪能する。
少しして暴れ疲れたのか、ソフィアが呼吸を整えてから話しかけてくる。
「ったく、最近アタシの扱い酷いんだから~」
「悪い悪い。で、その発案者の名前は?」
「確かガドモンドって言ったかな。土精族の中で随一の鍛治師だったっぽいね。建築に関してはプロ中のプロって噂されてたらしいし」
土精族。ファンタジー系のゲームや童話では有名な種族の名前に、優人は少し驚く。
「伝説上の種族だと思ってたけど、まさか実在しているとはなぁ……」
「ん? ユートの世界では伝説なの?」
「小柄なのに勇敢だって事でな」
「それはそうかもね~。後は毛深いとか、皆鍛冶ギルドに所属するとかかな~」
「鍛冶ギルドか、まあ俺には関係ないかな」
錬金術の特性のおかげで、素材さえあればいつでも武器や防具を作ることが出来る。そのため優人は鍛冶ギルドに対してはあまり関心が無かった。
「あ、そういえば」
「ユートどうかした~?」
「イリスに渡そうと思ってたものがあったんだ。今いい機会だし、渡しておく」
「ん、何?」
収納から取り出しイリスに渡したのは、先日セシリアから貰った大きめの指輪だった。
「……結婚、する?」
「いや違うからな?
さすがに未成年と結婚するなんて危ない事しないからな?」
「大丈夫。結婚は、何歳からでも」
「んなっ!? ソフィア、そうなのか!?」
「結婚? まあ、両者の同意の元なら何歳からでもオッケーって感じだよ~?」
「ま、マジですか……」
衝撃の事実に、優人は全身に電流が走った感覚に襲われる。この世界の幼女好き達はさぞ幸せなんだろうな……
「ちなみに、結婚は何人でも」
さらに電流が走る。
(日本じゃ有り得なさすぎる……この世界じゃ不倫騒動とか無いのか?
日本のマスコミ達のネタ元が無くなるぞ?)
普段こそ気にも留めない職業の人たちの心配をしていると、買い物を終えたリア達が帰ってくる。
「ただいま戻りました」
「ただいまー!!」
「おかえり。で、どうだった?」
「はい。聞いたところによると、タワーの上層階が良いとの事です」
「でもやっぱり賃金が高くなるらしいんだよねー」
ナナとリアが交互に説明してくれる。そんな中ナナがイリスの持っている指輪に気付いたらしく、一瞬に顔色が青くなっていく。
「い、イリスちゃん!? その指輪どうしたの!?」
「ユートが、くれた」
「なっ!? ゆ、ユートどういう事!?
まさかぷ、プロポー──むぐっ!?」
「(ナナ黙れって!! そんな大声で叫ぶな!! 別にイリスにプロポーズした訳じゃないから!!)」
「んむー!! んむー!!」
通行人の多い中でナナが爆弾発言をしそうになるので優人は咄嗟に口を塞ぐ。何か言おうと口を必死に開こうとするナナだが、優人によって完全に阻まれてしまう。
その後も二人の攻防が数分繰り広げられ、ナナが疲れて抵抗しなくなったことで終わりを迎えた。
「……俺の話聞いてたか?」
「はぁ、はぁ、はぁ……本当に? プロポーズじゃない?」
「俺がナナに嘘をつくと思うか?」
「……わかった、信じる」
何とか落ち着きを取り戻したナナと入れ替わるように、イリスがバツの悪そうな顔をして近付いてくる。
「ごめん、ナナ。誤解させるような、言い方で」
「ううん、ナナの方こそ勝手に暴走しちゃってごめん。
……じゃあ、それは何なの?」
「師匠、これは?」
「ああ、それは所有者の使う魔法の威力が上がる効果があるんだ。イリスにピッタリだと思ってな」
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名称:Rのリング
レア度:???
説明:所有者の魔法の威力を1.5倍する。
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セシリアから貰ったのはいいものの、そもそも魔法の威力が桁違いな優人は必要になる機会が余り無かった。そのためイリスに渡そうと考えていたのだ。
「何だ!! それなら早く言ってよー!!」
「勝手に暴れたのナナだろうが……」
ついにセイルペイス内に入りましたよ!
さて、今回はどんな騒動に巻き込まれるのやら……?
次回投稿12/1(木)13:00予定です
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