6話
「ふぁぁぁぁ〜…………」
(朝か。しかし良く寝れたなぁ)
ナナ達と別れて部屋に入った後、優人は晩飯も食べずにすぐ寝てしまっていた。そのため十分な睡眠を取れたのだが、どうにも腹が減って仕方ない。
(とりあえず、ナナ達の部屋に声掛けてみるかな)
優人は洗面台に向かい、身支度をパパッと済ませ隣の部屋の前に立つ。
「おーい、誰か起きてるかー?」
コンコンッ、と二度扉を叩くが、いくら待てども返事は返ってこない。
(先に出掛けたのか?
まあ、ソプラさんに聞いたら分かるか)
そう思った優人は、階段の方に歩いて行った。
「――――――――でね? この間なんてさ―――」
階段を降りて受付の方に近付くにつれ、いつもの明るい声が優人の耳まで届いてきた。
「―――――朝から、元気すぎ」
「うおっ!?」
またナナが騒いでいるな、と思っていた矢先、背後から掛けられた声に驚いた優人は危うく階段を踏み外しそうになってしまう。
振り返るとそこにはイリスが布のローブを纏って立っていた。
「イリスか、脅かすなよ」
「師匠、呼びに来た時、風呂入ってた」
「ああ、なるほどな」
それでその格好か、と一人納得した優人はイリスを連れて受付の方に歩いて行く。
「こんな所にいたのか。ナナ、朝から元気だな」
「あっユートおはよー!!
イリスちゃんもおはよー!!」
「おはよう、ナナ。リアも」
「リアもこんな所にいたんだな」
「おはようございます、ユート様、イリス。
ナナがソプラさんと話がしたいと言うので」
「そうか」
簡単に朝のあいさつを済まし、ソプラの方に向く。
「おはようございます、ソプラさん。
朝からナナがうるさくしてすいません」
「ちょっユート!! 別にうるさくしてないから!!」
「ふふっ、大丈夫ですよユートさん。
ナナちゃんから面白い話も色々聞かせてもらったので、むしろ感謝してますから」
「あ、俺の名前……」
「あ、突然すいません。
ナナちゃんがユートさんの話ばっかりするものですから、覚えてしまって……ダメでしたか?」
「あ……えっと……」
(その上目遣いは反則だろ!?
この人かなり美人だし、ヤバイなこれは……)
「あー!!
ユートったらソプラさんが美人だから見とれてたでしょー!!」
「いや、そんなことは……」
「あーあ、ユートがそんな節操なしだと思わなかったなぁー」
「な、ナナ? 俺はそんな奴じゃ……」
「ナナ、師匠いじめるの、良くない」
「い、イリス〜」
助け舟を差し出したイリスに優人は泣きすがりつくような仕草をする。イリスマジ天使。もっと優しくして。
「ふふっ、仲が良いのですね」
「毎日こんなのですから」
「それはそれで楽しいんじゃないですか?」
「ええ、そうですね」
ソプラとリアが受付のカウンター越しに微笑みあっている。いつの間にか仲良くなっていた二人に、優人はジト目を送るしか出来なかった。
「とりあえず、飯食べてセイルペイスへの手続きしに行こう」
「うん!! じゃあ支度してくるよ!!」
「私も、着替えてくる」
「では私はソフィアを起こしてきますね」
「(ソフィアまだ寝てたのかよ……)ああ、俺はここに居るから終わったら降りてこい」
優人に言われ、三人はすぐに階段を駆け上がっていく。
「あんなに可愛い人達に囲まれて、ユートさんはモテモテですね?」
「あんまりからかわないでくださいよ」
「否定しないんですね」
「まあ、あいつらは可愛いと思いますからね。
………あ、そうだ。手続きの場所と美味しい食事処を教えて貰ってもいいですか?」
「手続きは橋のすぐ側なので、多分一目で分かりますよ。
オススメの食事処は―――――」
そう言ってマップを取り出し場所を教えようとするソプラの顔は、やはりフィーナとそっくりだった。
―――――――――――――――――――――――
「――――――はい。これで手続き完了です。
都市を出てまた入る時は、この紙を私か他の従業員に見せて下さい」
「ありがとうございます」
ソプラに教えて貰った食事処で朝食を食べた後、予定通り連絡橋の傍の手続き所に足を運んでいた。
「あっ!! 昨日の人……」
「ん? ……ああ、昨日はどうも」
「いえ、お役に立てて良かったです。お兄さんもセイルペイスに?」
「そうだけど、お前もなのか?」
「はい。カジノがあるのでそこで気分転換でも、と」
「へぇ、カジノなんてあるのか」
「もしかして、セイルペイスは初めてですか?」
「まあな」
「なら――――――」
昨日会った少年が話している途中で、「トリノさーん」と人を呼ぶ声が聞こえて来る。
「あ、僕の番みたいですね」
「おうそうか、じゃあな」
「ええ、またどこかで」
互いに別れの挨拶を交わして、少年はその場を立ち去った。
「ね~ユート~、早く行こうよ~」
「お、おい!! 引っぱるなって!!」
痺れを切らしてソフィアが優人の腕を掴み、橋の方に引っ張る。
(あの少年、何か感じるんだよな………)
ソフィアに引っ張られながら少年を見ていた優人は、ふとそんな事を思ってしまうのだった。
―――――――――――――――――――――――
「な、何だよこれ………」
「ほらユート!!
そんな所で立ってないで早く入ろ?」
「ナナ、ずるい。私も」
衝撃的な光景を目の前にして棒立ちする優人にナナが声を掛け、右腕に絡んでくる。それを見たイリスは左腕に絡む。
両手に花な優人が見ていた光景は、海上都市セイルペイス――――――その外形だった。
連絡橋を渡った先にあったのは、一言で言ってしまえば巨大なドームだった。ドームと言っても、白いコンクリートの様な物質で作られた半球状の物体で、そのドームに大きな扉が一つ付いてるだけだった。
(ダメだ、全く理解出来ねぇ。どういう構造してんだ、コレ………)
自分の常識が覆されるような物を前にパンクしそうな頭を抱える優人は、仲間を連れてその未知の中に入っていくのだった。
次回投稿11/30(水)13:00予定です




