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ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈2章 海上都市セイルペイス編〉
53/180

5話






「ユート、全部倒せたよー!!」


「師匠、終わった」


「よし、素材持って戻ってこい」




 セイルペイスに行くために港町を目指す優人達は、ちーちゃんに乗りながら移動していた。そして、モンスターが目の前に現れると、ナナとイリスのペアを降ろして戦わせていた。これも特訓の一つなのである。

 最初はまごついていたものの、二人の連携は時間が経つごとに洗練されていき、いつの間にか敵を手玉に取れるほどに成長していた。

 そんなベストマッチな二人をちーちゃんに乗せると、優人が声をかける。




「しかしまあ、かなり強くなったんじゃないか?」


「いやー、まだまだだよ?

ユートには追い付かなさそうだし」


「ナナ、師匠には追い付けない。追い付けないから、師匠」


「お、おう……」




 ナナ相手に力説するイリスを見て、優人は思わず苦笑する。その真っ直ぐな尊敬の眼差しのせいか、彼の心は恥ずかしさに蝕まれてしまう。




「(ユートってそういうの優しいよね〜?)」


「(うるせえお前黙ってろよ?)」


「(はいは〜い)」


「?」


「あー気にすんな、何でもない」




 ソフィアが耳元でこそこそと喋るのを気にしてか、ナナが首を傾げてこちらを見てくる。

 普段の過保護気味の彼ならこうして二人だけで戦わせる、などという事は避ける筈なのだが、今回はそうしなかった。その理由としては、以下の特性を手に入れたからである。







―――――――――――――――――――――――



名称:主の器


効果:特性所有者が仲間だと認める者の全能力を

1.5倍にする。効果適用範囲は所有者を中心として

半径200メートルほど。



―――――――――――――――――――――――





(言えないよなぁ……

こいつらが強くなったのはこの特性のお陰だなんて)



 少しバツの悪そうな顔をする優人に対し、ナナはやはり強くなれたのが嬉しいのかこんな事を口にしてしまう。




「いやーでもこんなに強くなれるなんてね?

何か全体的に五割増しぐらい強くなった気がするよー!!」


「………………」




(何でだよ!? 何でそんな的確な数字叩き出せるの!?

お前ナナだろ!?)




「師匠、どうかした? 変な顔、してる」


「あー、別に何でもないぞ?」




 どうやら変に顔を引きつらせていたらしく、イリスが不思議そうに顔を覗き込んでくる。



(可愛い。超可愛い。超絶可愛い。世界一可―――)



「―――ってユートとイリスちゃん見つめ合いすぎ!!」


「何だよナナ邪魔するなよ。良い所だったのに」


「何その意味不明な理由!? 何が良い所なの!?」


「ナナも、一緒に見つめる?」


「ううっ…………」




 イリスの不意打ち見つめる攻撃により、興奮気味だったナナの精神は一気に鎮火してしまう。少し見つめるだけでこうして彼女を大人しくしてしまうのだから、イリスはある意味強者なのかもしれない。




「ユート様、そろそろ日が暮れそうです。急いで街に向かった方がよろしいのでは?」


「おっと、悪いなリア。ちーちゃん、もう少し早く出来るか」


「がうっ!!」




 隣に座っていたリアが声を掛けてくれたおかげで日が落ちかけていた事に気がついた優人は、ちーちゃんに速度を上げさせ目に見えている港町へと急ぐのだった。



















―――――――――――――――――――――――






 港町ナルズ。

セイルペイスと大陸を繋ぐ連絡橋を中心にして半円を描いて繁栄しているその町は、大きさで言えばそこまでなのだが港町というだけあって異常なまでに活気に溢れかえっていた。昼夜を問わず明るく騒がしい町の影響か、24時間営業の酒場が数多くあるというのもこの町の特徴である。

 そんな港町で優人達は―――――迷子になっていた。




「マジでどこか分からん………」


「ユート!! 多分あっちだよ!!」


「ナナ、その道、また元に戻る」


「ユート様、ここは誰かに聞くべきでは?」


「ユート〜、アタシ疲れたお腹空いた〜!!」


「あーもうお前らちょい黙れって!!」




 周りで騒ぐ女性陣を大人しくさせ、優人はきょろきょろと辺りを見回す。




「とりあえず、道なりに真っ直ぐ進んでみよう」




 優人達は、日が落ちる手前で何とか港町にたどり着いていた。そこでちーちゃんを預けておく所を探すも場所が全く分からず、目の前を行く馬車に着いて行ったところ、その馬車が酒場の裏手で止まったせいで完全に迷子になってしまっていたのだ。




「お、お兄さんひょっとして迷子なんですか?」




 と、右側から声が聞こえて来る。そちらを向くと一人の少年が立っていた。




「ああ、地竜の預かり所を探してるんだけど、何処にあるか教えて貰えないか?」


「預かり所ですね。このまま道を真っ直ぐ進んでもらって、突き当たりを右手に曲がればすぐですよ」


「そうか、わざわざありがとうな」


「い、いえどういたしまして」




 おずおずとした態度をとる少年に感謝を告げると、優人達はさっさとちーちゃんを預けに向かった。

 その途中で、気になったことをソフィアに尋ねる。




「なあソフィア、さっきの子供何だけど、あれって種族何?」


「んー、海棲族だよ〜?

あの頬の鱗と手足に付いているヒレが特徴かな〜」




 海棲族。優人はその言葉を初めて聞いた。さっきの少年の頬にあった鱗も種族の特徴だと聞かされ、自身の中に会った違和感の正体に納得する。




(あれ、あまり驚かなくなってる……俺、この世界に慣れすぎじゃないか?

もしかしたら、ナナ達のお陰かもな)




 そもそも種族という概念すら無かった地球出身の優人が、ここまでこの世界に慣れつつあるのも普段から獣人族と森精族、さらに精霊族に囲まれ生活しているからなのだろう。




「ユート様、預かり所に着きましたよ?」


「ん、もう着いたのか」




 自身の周囲の環境について考えているうちに預かり所に着いていたらしく、彼は考えるのを止めちーちゃんからささっと降りる事にした。


















―――――――――――――――――――――――








「いらっしゃいませー! 宿泊ですか?」




 ちーちゃんを預けた頃にはもう辺りは真っ暗になっていた為、優人達はとりあえず宿屋で一泊する事にした。預かり所を探している時に宿屋の看板は見つけていたので、そこは迷わずに済んだのが幸いだった。




「ああ、四人で一泊をお願――――――えっ!?」


「嘘!?」


「ユート、ナナ、どうかした?」

「ユート様? ナナ?」




 受付の女性を見たまま固まる優人とナナに、イリスとリアが声を掛ける。

 二人が固まったのは、受付の女性がラルの街の、あのフィーナ(・・・・)そっくりだったのだ。




「な、何でここにフィーナさんが……?」


「そうだよ!! フィーナさんはラルの街に―――」


「あーあー待ってください!! 私はフィーナじゃないですよ?」


「「え!?」」




 フィーナだと思ってた人からの違う宣言によって、二人は同時に情けない声を出してしまう。




「よく言われるんですよ、フィーナとそっくりだって。

でも違いますよ? 私はフィーナの親戚のソプラです」


「ソプラさん?」


「はい、ソプラです」


「そ、そうだったんだ……

フィーナさんとソプラさん似すぎだよ……」




 ナナが思った事を全て口にするお陰で、彼の内心が全て代弁されてしまう。しかし、二人がこうしてやや大げさ気味に驚く程に、ソプラはフィーナに酷似していたのだ。




「えっと、取り乱してすいません。一泊でお願いします。出来れば二部屋で」


「はい、二部屋ですね? 連部屋にしておきますか?」


「あ、お願いします」




 フィーナとソプラを間違えた罪悪感からか、優人は無意識に敬語で会話していた。




「何かユート変なの〜」


「うるさいソフィア消すぞ」


「や〜怖い〜リア助けて〜」


「ちょっソフィア? あっ服の中入らないで!」


「おいソフィア、頼むからそういうのは部屋に入ってからしてくれ恥ずかしい」


「連部屋の準備できましたので案内してもいいですか?」


「あーすいません、お願いします」




 後ろの方で騒がしくするソフィアとリアを置いて、優人はソプラの後に付いて行く。










「はい、ここがお部屋になります。一泊ですので二部屋で三十マドカになりますね」


「わかりました」




 そう言って優人はソプラの差し出した袋に銅貨三十枚を入れていく。




「私は基本受付の所にいてますので、何かありましたらお申し付け下さい。では」


「ああ、ありがとうございます」




 ソプラが上がってきた階段の方に歩き出し、それと入れ替わるようにしてソフィア達が帰ってくる。




「ちょっと〜置いていかなくてもいいじゃない〜」


「知らん。

……とりあえず、ナナとイリス、リアはそっちの大きめの部屋で、俺とソフィアはこっちな」




 それだけを皆に伝え、優人は宿泊部屋に入っていった。





久々のフィーナさんかと思えば

まさかのそっくりさん!お約束ですね〜

次回投稿11/28(月) 13:00予定です

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