4話
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ミカゲ ユウト : A ランク
討伐モンスター数:15933
クエストクリア数:12
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(おっ、一気にAランクか)
セシリアに引き連れられて来たギルド職員によって、優人とナナ、イリスはプレートの更新を行っていた。
「ユート!! 見てみてー!!」
自分のランクアップにほんの僅かに喜んでいると、ナナが無邪気な笑顔と一緒にプレートを見せてくる。
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ナナ フォードレス : B ランク
討伐モンスター数:119
クエストクリア数:20
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(ナナの方が何気にクエストクリア数多いんだよな……っと、こんな事考えるのは良くないな)
目の前の無垢な少女に対して嫌味を思ってしまう自分を叱咤し、優人は声をかける。
「おう良かったな」
「うん!! それでね―――――」
「ナナ、邪魔」
手でナナを横に押し出し、イリスが目の前に立つ。
「ちょ、イリスちゃん!!」
「師匠、私も、更新した」
隣から聞こえてくる喚き声を無視して、イリスも愛らしい笑顔でプレートを見せてくる。
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アイリス ミィス : C ランク
討伐モンスター数:67
クエストクリア数:10
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(イリスはCランクか。と言うより何あの笑顔!? どこの天使!?)
普段以上の明るい笑顔を見せるイリスに、優人はプレートよりも意識を持っていかれていた。
「……師匠?」
「おっとすまんすまん。イリスも良かったな」
「……ふふっ。師匠」
先程の天使のような笑顔から、今度はいじらしい少女の笑顔に変わる。
ふと、リアの事が気になった彼は辺りを見回す。すると物珍しい事に、リアがソフィアと二人で会話をしていて、何とも楽しそうな雰囲気を醸し出していたのを発見する。
そっとしておこう。そう思い視線をイリスに戻すと何か不満気な顔になっていた。今日の彼女はよく表情が変わるものである。
「ど、どうしたイリス?」
「……師匠、浮気」
「なっ!? 浮気!?」
「ちょっとイリスちゃん!? 浮気ってどういうこと!?」
「ナナ落ち着け。
………イリス、そもそも俺らそんな関係だったか?」
「師匠も、落ち着く。ちょっと、からかっただけ」
(もうやだこの子、超小悪魔。可愛くなかったらただの悪魔だよ? 大魔王級だよ?)
そんな事を思っているとセシリアが近づいてくる。
「全員終わったみたいだな」
「はい。わざわざありがとうございます」
「何、依頼を受けてもらうんだ。これぐらいの事はさせてもらうよ」
「そうですね、しっかりこき使われてやりますよ」
「ゆ、ユート!! セシリアさんごめんなさい!!」
優人の発言を失礼だと思ったのか、ナナが慌てて代わりに謝ってしまう。
「おいナナ、何でお前が謝ってるんだよ」
「あ、あたりまえだよ!? 相手は騎士隊長で、皇女様なんだよ!?」
「まあまあ落ち着いてくれ。優人、まだ説明して無かったんだな」
「?」
意外そうな面持ちで、セシリアがそう言う。それを聞いてナナが首を傾げる。
「ああ、忘れてた。ナナ、今から今回の件についてわかりやすく説明してやるから、聞き逃すなよ?」
「う、うん」
「よし。じゃあまず――――――」
突然の真剣な話に顔を強ばらせるナナに、優人はセシリアの頼み事の本当の目的を語り始める。
ざっくり言ってしまえば、セシリアは優人の『英雄』という肩書きを利用して、王族の地位を高めようとしていたのだ。表向きは内密な第二騎士隊の異変の調査をするだけに見えるようにする。内密なのは、王国にいる人間が『英雄』不在だと知れば、騒ぎの火種になりかねないと考えたから。
ただ、本当は隠す必要は無い。堂々と『英雄に仕事を任せているので、しばらく不在だ』と告げればいいだけの話だからだ。
なら何故こんなことをしたのか。答えは――――――
「―――英雄が王族のバックにいてる事を、じんわりと国民に知らしめる為だ」
「え? どういう事?」
「今回の依頼を内密に成功させたとしよう。王族の人は国民のほんの一部にその事を話す。そうしたらどうなる?」
「んー、やっぱユート凄い!! ってなる?」
「……相変わらずだな」
「それバカにしてるよね!?」
「イリス、答えを」
「王族、英雄を好きに使える。恐ろしい」
「そう。国を救った英雄を秘密裏に動かしていた王族の存在が国民の目には恐ろしく映るだろ?」
「た、確かに……」
「だが実際、この巨大な王国を統治しているんだ。その恐ろしさは次第に安心感へと変わる。つまり、確実に国民の支持を得れるわけだ」
「それに、人は皆、喋りたがり。情報や安心感は、すぐに広まる」
「なるほど!! だからユートはあんな言い方をしたんだ」
優人の説明にイリスがフォローを入れるという絶妙な組み合わせによって、ナナも理解出来たようだ。
「ってもしかしてユートとセシリアさん、昨日からこの事を考えていたの!?」
「ん? そうだぞ?」
「す、凄い……」
いかにも当たり前であるかのように返事をするセシリアに、ナナは驚愕してしまっていた。
そんなナナを横目に、優人はセシリアに質問する
「考えたんだが、港町でも物は買えるんだろ?」
「ああ、もちろんだ」
「なら特に準備は必要ないか。明日からでも出発しようかな」
「そうか。よろしく頼む」
「とりあえず依頼はやりますけど、その後の事は丸投げさせてくださいよ?」
「任せておけ。お父さんと私が上手くやるさ」
「期待してますよ」
返事の代わりに軽く手を挙げる仕草をし、セシリアはギルド職員を連れて家を後にした。
その様子を見たのか、リアとソフィアが近づいてくる。
「ユート様、この後はどうなされますか?」
「そうだな、いつも通り昼飯の準備を頼む。三人で特訓してるから、何かあったら言ってくれ」
「かしこまりました」
「ね〜ユート〜。アタシは何してたらいいの〜?」
「ソフィアは好きにしたらいいぞ?」
「え〜、何かアタシだけ雑じゃない?
じゃあ、リアといることにするわ〜」
「そうしろ。あんまりリアに迷惑かけるなよ?」
「わかってるってば〜」
「ユート様、ソフィアは料理の知識が凄いので私、いつもお世話になっているんですよ?」
「そうだったのか、それは意外だな。
……その、お前のプレート更新出来なくてごめんな?
どうも商人のプレートの更新期間は決まってるみたいで」
一人だけプレート更新を行えなかったリアを心配してか、優人はそんな言葉をかける。
「いえ、大丈夫ですよ。私はメイドですから、ユート様の仰る通りに動きますので。それに…………」
「それに?」
聞き返す優人のそばにリアがさっと近寄り、ぼそっと耳元で囁く。
「ユート様のそういう優しい所、私は大好きですから」
「―――っ!!」
大人びていて尚且艶のある声に、優人は思わずドキドキしてしまう。更に、遠ざかるリアが顔を少し赤らめているのを見て自分の顔も赤らめてしまう。
(反則だズルいズル過ぎる!!
あんな声であんな反応されたら、悶え死ぬわ!!)
心の中でツッコミを入れる優人は、自分の身の回りの女性陣の恐ろしさに頭を悩ませるのだった。
最近のリアはちょっと積極的?
次回投稿11/27(日)13:00予定です




