4話
村を出てから1日ほど経って、優人は新たな発見をいくつかしていた。
まずセシリアが渡したこの靴を使っていると、いつも以上に歩くのが楽に感じる。
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名称:騎士の革靴
レア度:SR
説明:王国の騎士が愛用している革靴。使用者の脚力を少し上昇させる。
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(多分これかなりイイ物だよな、セシリアさんには申し訳ないな本当に)
次に、収納スキルを使っていると頭の中に
『所持金:1010101マドカ』
というのが浮かんでくる。
この『マドカ』なるものがこの世界での通貨なのだろう、と予測を立てた。
最後に、ここら辺では青色の狼や変にいかつく大きめの猪などが、自分を見つける度に襲いかかってくる。だがあの緑の怪物とは一度たりとも遭遇しない。
(俺がこんなの考えても意味無いのだろうけど、やっぱりあれは異常事態だったんだろうな)
辺りがひどく暗くなるが、寝床がある訳でもないので歩き続けるしかない。
街も中々見当たらないし、まさかだが………
「これ、道に迷ったんじゃないのか………」
————ああ、異世界2日目にして人生終了の予感がする。ほんと人生ってのは厳しく作られているよな、もう少し甘やかしてくれていいんだぞ?
など下らないことを考えていると、目の前に草原が広がっていた。
満点の夜空の下に広がるそれは星々の光によって照らし出され、何とも言えない魅力的な雰囲気を演出している。
そんな所に──彼女はいた。
「無理っ!!!やだ来ないで!!!」
街道からそれた所で、青色の狼の群れに囲まれている女の子が一人、騒ぎ立てている。
それを聞きつけて、狼がさらに増える。
(あんなに騒いでたら余計敵増やすだろ、バカなの、ねぇバカなの?)
優人は心の中で小馬鹿にして、様子を見る。すると、向こうがこちらに気づいたのか、
「ちょっとそこの人ー!!!
お願いします!どうかお助けをー!!!!」
(おいやめろ、やめてくれ、そんな事したらほら
──狼こっちに向いてんじゃん!?)
はぁ、とため息をこぼしながらも、優人は手に持つ反則武器で目の前に迫る狼共を一掃する。
あらかた倒し終えると、残っていた2、3匹を自力で倒し終えたらしく女の子が近づいてくる。
「お兄さんありがとうございます!!!
もう少し遅かったら、間違いなくブルーファングの胃の中でしたね!!」
泥や擦り傷で塗れた笑顔でそんな事を言う。
(ヤバイ、バカで楽天的だ、こいつ今まで良く生きてこれたな……)
しかし優人にとっての問題はそこではない。とりあえず、街がどこにあるか尋ねてみる。
「ラルの街ならその道を真っ直ぐ行けばもうすぐですよ!
そこの丘越えてすぐなんで!!」
「ん、ありがと。それじゃ生き残ってたらまたな」
「いや死なないよ!?
そんなに簡単にナナは死なないからね!?」
(ナナって言うのか、まあどうでもいい情報だけど)
優人はとりあえず目の前のアホ女に別れを告げて、街の方へと歩き出す。後ろで何か悲鳴が聞こえていたが、そんなものは無意識の内にかき消していた。
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丘を越えるとそこには大きい街が確かにあった。
(でかいな、これだけでかいと安心して休めそうだな)
特に何の検問もなく、街にはすんなり入ることが出来た。
街は多くの人で賑わっていた。何より一番驚いたのは、人間以外の種族──異世界モノのラノベとかでよく言うケモミミ族や、エルフ族、ドワーフ族らしき者が普通に存在していることである。
(これをみると、異世界だって確信できるな)
ただ、優人は何かに少し違和感を感じていたが、その正体は掴めなかった。
とりあえず、道行く人に宿の場所を聞き、宿に向かう。
「あ、いらっしゃい!」
宿に入ると、受付の人らしき女の子が声をかけてくる。
「とりあえずは、1人で何日か宿泊したいんだが」
「お1人様ですね、朝食付きで1泊15マドカですよ。
何泊しますか?」
優人は少し考え、
「とりあえず1週間で、延長したかったら後で追加の分を払うって形でもいいか?」
と、何とか妥当な返答をしていた。
「はい、もちろんです!では1週間で、ええっと………」
「105マドカだな、ちょっと待ってくれ」
優人は収納を使い、105マドカと念じて取り出す。
「お兄さんすごい!!
もしかして算術のプロの方ですか?」
驚声を上げる受付にどういう事なのか尋ねると、この世界では数学と言うのはなく、代わりに算術というものだけが存在しているようだ。
(俺の高校時代の数学の時間を返せ、コノヤロウ……)
それと、レベルの高い算術は商業ギルドという所に所属していないと覚えられないらしい。つまり大概の人間は計算があまり得意でない、というわけである。
「ま、まあ、とりあえず部屋に案内してもらえるか?」
「はーい!では私についてきてくださいね!」
部屋に案内されるとそこは、良くも悪くも普通だった。しかし案外こういう空間が落ち着くもので、何だか全身から力が抜けてしまう。
「では、何かあったら受付までお申し付け下さい!
あ、食堂は一階の奥の方にあります、朝食は無料ですけど、昼食、夕食を食べたい時はお金がかかりますので注意してくださいね!」
そう言って受付の子は部屋を後にする。
(さて、この後はどうするべきなのかな…
あ、そう言えば……)
ベッドでくつろぎながら考えていると、例の自称:神からの手紙の続きが気になった。
手紙を収納を使って取り出し、二枚目から目を通し始めていく。
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「ここまででステータスの説明は終わりです。
さて、そろそろ本題に入ります。
とりあえず、この世界の成り立ちから――」
……長い長い。そしてどうでもいい。
そう思った優人は、長々と綴られているこの世界の歴史の所を飛ばす、飛ばす、飛ば………
「何で三枚分も書かれているんだよ……
しかも両面書きだし、実は時間あったんじゃねーのか、これ?」
と、五枚目に差し掛かった時に、気になる一文を発見する。
「──そして、人間は獣人に王国を乗っ取られ散り散りになり、各地で街や村を作って生活を成し、──」
(あぁ、そうか、街に入って感じた違和感はこれなんだ)
この世界ではどうやら人間というのは他の種族と異なり何の特徴も持たない、普通の生物と思われているようだ。
確かにこの街では人間の割合が低い。色んな種族がいるが、その点を除いても少ない。
(まあでも、特に迫害されているとかそう言うのでは無さそうだし、この件は深く考えなくていいか)
そう思い、優人は最後の一枚に差し掛かる。
「―――。ですので、何とか各種族の権力者と上手くやって、仲を取り持ってくれれば、争いも減っていくと思うのです。
期限はありません、どれだけかかっても問題ないです。
大変難しいのは分かっています、どうかお願いしますね」
(……結局丸投げじゃねーか、こいつ本当に神かよ)
「最後に、こちらでも何とかあなたに干渉する方法を探してみます。
次会う時があればもう少し、手助けになる事が出来るかも知れません。
それでは、お気を付けて。
ウルシアより」
(何だろう、また新しい超どチート特性でも貰えるのかな。だとしたらありがたい、今以上に生存確率が上がる。
……はぁ、まあ気長にやっていいらしいから、とりあえず色々と試してみるか)
部屋の窓に身を乗り出し、高く登る太陽に照らされる街を眺め、優人は今後の予定を考えていく。
街についたところで4話終了ですね!
王国への道のりはまだまだ遠い?
今日はあと何回か投稿する予定です