1話
ドラゴン・ジェネラルとの戦闘から一月ほど経ったある日の午前中、優人達は家の庭にいた。
「イリス、ナナに向けてアクアボールを」
「了解、師匠」
「ナナは回避しつつ、剣で斬れ」
「うん!!」
イリスは持っていた杖からアクアボールを出し、一発ずつナナに飛ばす。
「イリスちゃん甘いよっ!! ―――――あ、きゃあっ!!」
一つ一つをしっかり見切って躱せていたナナは少し調子に乗ってしまっていた。そのため一発食らって転んでしまう。
「ナナ、気を抜いたら、だめ」
「イリスの言う通りだ、ナナ。
本番の戦闘だったら間違いなく死んでるぞ?」
「ううっ、ごめんね?」
ナナは体に『クリア』をかけ、湿った服から水分を抜きながら起き上がる。
優人とナナ、イリスは一時間ほどこの訓練を繰り返していた。発端はナナが「ナナもユートと一緒に戦いたいから、毎日戦闘訓練しよう!! みんなで!!」と言い出した事から始まる。
「イリス、その杖の調子はどうだ?」
「ん、問題ない。かなり使いやすい。さすが師匠」
「そうか、それは良かった。おかしな点があったらいつでも言ってくれよ?」
「うん、でもこれ、壊れそうにない」
「そ、そんなにか?」
「本当」
「お、おう。なら当分はいけそうだな」
「いいなーイリスちゃん、専用武器作ってもらって〜」
「ナナにはその剣あげただろ?」
「む〜、そういうのじゃないんだって〜!!
分かんないかなぁ〜」
「ナナ、師匠は鈍感」
「だね!!」
「くっ、ナナに言われると腹立つ」
「何でナナだけなの!?」
と、いつもの様に三人は言い合いを始める。
優人はリアに神速の短剣、ナナに神速の剣を渡していたが、イリスには何も渡せていなかった。渡す物がなかった。
そんな時に今回手に入れた新特性『錬金術』が早速役に立ってくれたのだ。
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名称:錬金術
効果:特定の物から新しい物を作る能力。必要なものが揃っていれば、それに触れ『錬金』と念じるだけで別の物に作り替えることが出来る。質は熟練度に依存する。
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この能力を使って、イリスの持っていた杖を作ったのだ。因みに、素材にはドラゴンナイトの太い骨や鱗を適用した。
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名称:竜騎士の杖
レア度:SR
説明:ドラゴンナイトの素材をふんだんに使った、とても良質な杖。素材に使われた骨は非常に強靭なため、多少使い方が荒くても壊れる心配がほとんど無い。
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また、錬金術を使う時は何を作るか大まかなものも同時に念じる必要があった。例えば今回の杖の場合、『錬金:杖』と念じる必要があり、こうしないと錬金されないらしい。
ソフィアの話によるとこの世界での錬金術は禁術らしく、使用している事が発覚すれば即座に死刑になるらしい。その為優人が錬金術を使うのは、自室で誰も見ていないのを確認してからにしていた。確かにこんな事が理由で死んでいたらたまったものではない。
「ユート様、昼食の用意が出来ました」
「おお、そうか。ナナ、イリス、昼飯にしよう」
「うん、わかった」
「ナナお腹すいたよ〜〜」
戦闘経験が豊富なリアは訓練をする必要が無かった為、一人で昼食を作っていた。
呼びに来てくれたリアの後に続き、優人達は家の中に入っていく。
「ふぁぁ〜〜あ。ちょっとユート遅いって〜」
するとちょうど起きてきたのか、ソフィアが欠伸しながらテーブルに座っていた。
「ソフィアちゃんおはよー!!」
「ソフィア、おはよう」
「おはよ〜、二人共朝から元気だね〜」
「とりあえず、さっさと飯食べよう」
順にテーブル前の椅子に座っていく優人達は、いつもと変わらない食事の時間を過ごした。
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「すいませーん。ユートさんいてますかー?」
食事が終わったのとほぼ同じ頃、玄関のほうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「ユート様、私が」
「いや、俺が出るからいいよ」
席を立とうとするリアを制し、優人が玄関に向かって歩く。そうして扉を開けた先に居たのは、予想通りの女性だった。
「こんにちは、イルミさん。立ち話も何ですからとりあえず中に入ってください」
「ありがとうございます」
イルミは優人に手招かれる方へと足を進め、リアが用意した椅子に腰を下ろす。
「で、イルミさん。今日はどのような用件ですか?」
「ギルドマスターから『頼み事があるから来い』と伝えるよう言われて来ました」
「はぁ、そうですか…………」
(ガランとか言ったっけ……やたら高圧的だな…………)
「ユート? どうするの?」
話を聞いていたナナが、何を察したのか不安げな顔をする。
「ま、話を聞くだけ聞こうかな」
「そうですか。ではすぐに街に向かってもらえますか?」
「師匠、準備してくる」
「あー、イリスとナナとリアはここに居てくれ。行くのは俺とソフィアだけでいい」
「え〜何でアタシも―――――むぐっ」
「(いいから付いてこい。多分面倒事だ)」
文句を言おうとするソフィアを無理矢理黙らせると、優人はイルミの方へ向き直る。
「じゃあイルミさん、行きましょうか。三人は留守番頼むな?」
「わかったけど、変な事したらダメだからね?」
「わかってるよ。ナナは俺の親か………」
「ではユートさん、私の乗ってきた馬車で街に向かいますので」
「ああ」
三人を残して、イルミの馬車に乗り込んで優人はソフィアと街に向かうのだった。
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「ユートか、よく来てくれたな」
「お久しぶりです、ガランさん」
前と同じ特別来客室で、ガランは我が物顔で寛いでいたでいた。
「ギルドマスター、お仕事はどうされたのですか?」
「ああ、あの書類に印を押すだけのやつだろ?
押すだけだからすぐ終わったよ」
「押すだけって…………
ギルドマスターなんですからちゃんと仕事して下さい!」
「うるせぇな。いいだろ、ギルドマスターなんだから」
「で、ですが………」
「イルミは黙ってろ……悪いな、見苦しい所を見せて」
「い、いえ気になさらず」
(イルミさん可哀想すぎるだろ………
こいつ、どんだけ暴君気取るんだ?)
目の前で起きていた理不尽な光景に、優人は心の中でイルミに同情してしまう。
「で、頼み事って何ですか?」
「ああ、ちょっとな……」
ガランが顔をしかめる。
「ちょっと、セイルペイスに行ってきてくれないか?」
「セイルペイス、ですか?」
海上都市セイルペイス。王国の西側に位置するそこそこの大きさを有する貿易を中心とした都市で、名の通り海の上に存在する。
まだ行ったことの無い優人は、その程度の情報しか知っていなかった。
「行くのは構いませんが、そこで何をすれば?」
「俺の娘がこの前住居をそこに変えたらしくてな。様子を見てきて欲しいんだ」
「はぁ、それぐらいなら別にいいですけど。自分では行かないんですか?」
「それが出来るならお前に頼んでねえよ」
「確かに、そうですね」
(親子なのに…………仲悪いのだろうか)
「じゃ、頼んだぞ。期限は特に無いが、あんまり遅くなるのはやめてくれ」
「はい、分かりました」
ソファから立ち上がり、ドアの方に向かう優人は一つだけ、ガランに質問をする。
「どうして、俺にこの事を頼んだんです?」
「どうしてってか?」
ガランは不敵な笑みを浮かべ、言葉を口にする。
「お前に頼むのが筋だろ? 英雄サマ?」
新章の始めはガランさん!!
どんな展開が待ってるんでしょうね〜
次回投稿11/22(火)13:00予定です




