悪と悪
話は優人がセトの村を発った直後まで遡る―――
「……で、盗ってきたのはこれだけなの?」
静寂を纏って冷気を漂わせる空間で、その声だけが響く。その声の者の前に男と女が並ばされていた―――二人共一糸纏わずに。
「はい、これが全てです……」
足元に置かれた靴や盾、兜、鎧に目を向け、男がそう言う。刹那、男の顔がさあっと青ざめていき、そのまま倒れ込んでしまった。
「この私に嘘を吐くとは、大した度胸ね?
私も随分とナメられたものね」
「め、メロウ様に嘘はつけません」
メロウと呼ばれた女性は、つま先で男の顎を持ち上げる。
「では、どうして武器になる物が無いの?
装備は一式持ってくるように言ったはずよ?」
「そ、それは……」
「それは私からご説明させて頂きます」
メロウの背後に突然現れた黒霧の中から一人の老人が出てくる。
「セバス、どういうこと?」
「はっ。目覚めた時に武器まで無いとなるとさすがに怪しまれ、疑われると思いましたので、その場で指示を変えさせてもらいました。勝手な真似をして申し訳ありません」
「そ、セバスがやった事なら別にいいわ。それよりどうしてわざわざそんな事を?
こんだけ盗ったら結局怪しまれるじゃない」
「最初は防具だけを盗んで様子を見ていました。
怪しむかと思っていたんですが、別段騒ぎ立てることが無かったので武器も盗れると判断し、殺して武器も奪い去ろうとしました。
ところがその女の用意した薬の効果が薄かったようで、武器までは持ち帰れなかったのです」
「それってつまり、この女の責任よね」
メロウはそう言うと、足元の男を蹴り飛ばし地面に手をかざした。
「セバス、その男を処分しておいて。
この女はベリアル様に送るに値するかどうか私が直接審査するわ」
「仰せのままに」
メロウの言葉に頭を下げたセバスは、一瞬のうちに男の首を刎ねてしまう。その光景を見ていた女は無意識に全身を震えさせ、色々と漏らしてしまう。終いには嘔吐してしまっていた。
だがメロウはそんな女に容赦しない。かざしていた手元から黒い触手を出現させ、女の四肢を拘束する。
「あら、みっともない。さて、私の方も始めることにするわ」
不敵な笑みを浮かべるメロウは女の元に歩み寄り、震える額に艶やかな唇を押し当てる。
すると―――――
「あ、ああああっっ!!!!!!」
女は全身を激しく痙攣させ、目の焦点を合わせる事も出来なくなっていき、数分もしないうちに動かなくなってしまった。
「え、もう耐えられないの?」
「お嬢様、ベリアル様の屋敷へと向かう準備は整っておりますが、いかが致しましょう?」
少しの間姿を消していたセバスが戻ってきてすぐ、メロウに話しかける。
「予定変更よ、こんなはしたない女をベリアル様に送るなんて事は出来ないわ。
もう少し審査に耐える女を連れて行かないと、あのお方はすぐに使い潰すでしょ?」
「そうかも知れませんね。では、この女も処分しておきますか?」
「たまにはあの子達にもご褒美をあげないとね。赤蜥蜴の巣に放り込んでおいて?
あの子達、今は確か繁殖期だったと思うし」
「仰せのままに」
セバスは女を肩に担ぎ、再び黒霧の中に消え去る。
「……さて、これからが楽しみね? おチビさん」
メロウは目線の先にある鉄檻に閉じ込められた一人の男の子に微笑みかけ、そう呟くのだった。
メロウは一体何者なのか………
次回から2章に入りますよー!!
次回投稿11/21(月)13:00予定です




