表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈閑章 それぞれの日常、根源〉
46/180

村とメイドと精霊と(後編)






「絶対原因コイツだよな……」


「うん、アタシもこいつだと思う……」


「あの、ユート様達には何が見えてるんですか?」




 畑に着いた優人とソフィアが最初に目にしたのは、でっぷりと太った精霊だった。




「リア、そこで太った精霊が寝てるんだ。多分、こいつが原因と見ていいと思う」


「アタシもこいつが原因だと思うね〜」


「せ、精霊ですか……?

でも、精霊が人に危害を加えるなんてあるんですか?」


「あるぞ? そこのソフィアも前はしてたしな」


「あれはただのイタズラだって!! 騙される方が悪いのよ!!」


「ま、それもそうだな」


「ユート様!? それで納得しないで下さい!」




 三人が騒がしくしていると、耳障りだったのか太った精霊が起きて何とも怪訝そうな顔をしていた。




「何だっちゃ。うるさいっちゃよ?

――――――ってソフィアっちゃ。久しぶりっちゃ」


「ソイ、久しぶり〜。あんたこんな所で何やってんの?」


「僕はここの木の実が美味しかったから食べて暮らしていたっちゃ」




 ソイと呼ばれる精霊は、でっぷりした腹をさすりながら何とも幸福そうな笑みを浮かべる。




「で、ソイといったか?」


「えっ!? ひ、人が僕に話しかけてるっちゃ!?」


「うるさい黙れ喚くな」


「ご、ごめんなさいっちゃ」




 ただ声を掛けただけで大声を上げ騒ぐソイに優人が無意識に睨みを利かせると、雰囲気に圧されたのか、ソイは簡単に謝ってしまっていた。



(ソフィアといいソイといい、精霊ってこんなのばっかりなのか……?)



「ユートはアタシと契約している人で、何でか知らないけど精霊の事が見えるらしいよ〜

ちなみにエルフじゃなくて人間だから」


「に、人間なのに精霊が見えるっちゃ?

それはすごいっちゃ!!」


「うるさいから」


「ご、ごめんなさいっちゃ」


「あの、ユート様?」




 ソフィアしか見えないリアは、おずおずと優人に話しかける。




「ああそうか。ソイ、『反照(リフレ)』を解いてやってくれ」


「その事も知ってるっちゃね……りょーかいっちゃ」




 ソイの体が一瞬だけ光る。優人からすればもう見慣れた光景だ。




「これが、ソフィアと同じ精霊?」


「ちょっとそこの嬢ちゃん、それは失礼っちゃ!!

これでも僕は大精霊なんだっちゃ!!」


「お前も大精霊なのかよ、ソフィアと同類なのかよ……」


「ちょっユート!?

あからさまにガッカリするの止めてくれない!?」


「そんな事より、こいつがここの作物を食い荒らした、って言うのが今回の原因そうだな」


「そんな事…………」




 自身の言動にガッカリするソフィアを無視して、優人はさらに話を続ける。




「なあソイ、出来たらここの作物を食い荒らさないでくれないか?」


「どうしてだっちゃ?」


「いや、これ村の作物だし」


「えっ?」




 優人の発言があまりに不思議だったのか、ソイは首を傾げる。と、そんな時。異常な早さで立ち直ったソフィアがソイに声をかける。




「ソイ、あんた起きたのいつよ?」


「ん、確か三日ほど前っちゃ」


「寝始めたのはいつ?」


「あんまり覚えてないっちゃ。

でも、ここら辺一帯が森林だったのは覚えてるっちゃ」




 ソイの口から出た事に優人とリアは驚いてしまう。




「森林? ここがか?」


「そうだっちゃ。でも起きたら全然知らない所だったから、

とりあえず木の実が成っていたここで生活すればいいって思ったんだっちゃ」


「はぁ〜〜〜」




 ソイの話を聞いていたソフィアが、思いっきりため息を着く。




「な、何だっちゃソフィア?」


「ソイ、あんたバカなの!? そりゃ何百年も寝てたら地形だって変わるわよ!!」


「そ、それもそうだっちゃ!! じゃ、じゃあここは…………?」


「今は人の村よ!!」


「っちゃ!? ぼ、僕は村の作物を食べていたっちゃか?」


「そういう事よ、自分のした事を理解出来た?」


「ううっ、申し訳ないっちゃ…………」


「なぁリア、こんな事もあるんだな」


「ええ、正直意外です」




 うなだれるソイを叱りつけるソフィア。いつも怒られているソフィアが怒る立場にいるという、何とも奇妙な場にいた二人は思わず苦笑してしまう。




「ユート村長、歩くの速いな………って精霊が二匹!?」




 遅れて来たフーガ達村人は、ソフィアと別に現れたソイを見て露骨に慌て始める。中には精霊を二匹も同時に見れた事によっぽど感動したのか、神々しいものを見るようにうっとりしていた者もいた。




「フーガ、今回の犯人はこの精霊だ。どうやら作物を野生の木の実と間違えて食べてしまったらしい」


「そ、そうだったのか」


「ご、ごめんなさいっちゃ」


「ま、こいつも反省しているっぽいし、作物が急に荒らされるって事ももう無いだろう。

……で、こいつの処分はお前に任せるよ」


「ううっ…………だっちゃ」


「処分、と言われてもなぁ」




 優人のその発言に、フーガは渋い表情のまま固まってしまう。まさか自分が大精霊に罰を与える事になるなど思っても見なかったのだろう。

 戸惑う彼の様子を見て流石に無茶ぶりが過ぎたと感じた優人は、軽く助け舟を出す事にした。




「そういえば、ソイってどんな精霊なんだ?」


「僕は『土』を司る精霊っちゃ」


「『土』か。………ならフーガ、こいつをこき使えば?」


「えっ、精霊をこき使う?」




 優人が突然出した提案に、フーガは聞き直してしまう。




「ソイ、畑の土壌を豊かに出来るか?」


「もちろんだっちゃ。何なら土の性質も変化出来るっちゃ」


「それは便利だな、よしお前ここで働け。

みんなが安心して暮らせるぐらいの作物が出来るまで無償で働く、っていう処分にしたらどうだ?フーガ」


「ま、まあそれでいいと思うぞ。精霊を働かせるっていうのに少し抵抗はあるが……」


「よしじゃあこれで解決だな、帰るか。フーガ、畑の事はソイに相談しておけ。何かあったらまた呼びに来てくれればすぐ向かうから」


「お、おう。ありがとうな」


「ソイ、しっかり働くんだよ〜?

じゃないと精霊会議の時に今回の事報告するからね?」


「そ、それはやめてくれだっちゃ!!

一生懸命頑張るっちゃ!!」




 力こぶを作るポーズを取りやる気を必死にアピールするソイを見て、皆が皆苦笑してしまう。




「リア、ソフィア。帰るぞ」


「かしこまりました」


「ん〜、わかった〜。じゃあね〜ソイ〜」


「ソフィアばいばいだっちゃ」




 村人とソイに見送られ、優人達は村を後にするのだった。

















―――――――――――――――――――――――








「結局、私はあまりお役に立てませんでしたね」




 家までの帰り道を歩いていると、リアがそんな事を呟く。




「別にそんな事はない。たまたま原因が精霊だったからソフィアが活躍しただけだろ」


「そ〜だよリア、気にしなくていいよ〜」


「そ、それはそうなんですが……」




 仕方ないとわかっていても、やはりどこか落ち込んんでしまうリアを見て、優人は言葉をかけてやる。




「お前はお前の出来ることをやればいいし、俺を含めてお前を必要とする人は沢山いるんだ。

そいつらのために頑張る事だけ考えてればいい」


「ユート様……」


「それにな、あれ見てみろ」


「あっ………」




 優人が指さす先から、ちーちゃんに乗ったナナとイリスが近づいてくる。




「ユートー!! 迎えに来たよー!!」


「師匠、お疲れ様」




 家を出る時に書き置きして置いたのを読んだらしく、二人は家に帰ってきたらすぐにこっちに向かって来てくれたのだ。

 優人とリアはさっとちーちゃんに乗る。




「リアさん、今日は晩御飯一緒に作る日だったよね?

何作ろっか?」


「リア、晩御飯食べたら、風呂一緒に入る」


「あー!! ナナもリアさんと入るー!!」


「嫌」


「即答!? 何もしないからお願いだよイリスちゃん〜」


「ソフィア、ナナを縛り付ける魔法、ない?」


「んー? もちろんあるよ〜」


「今すぐ、教える」


「ソフィアちゃん教えなくていいから!!

リアさんも別にいいよね? ね?」


「わ、私は……」




 さっきの事もあってか、いつもの言い合いに参加出来ていないリア。そんなリアに、優人は横で囁く。




「良かったな。必要としてくれる人、いるじゃねーか」


「…………!! はい、はいっ!!」


「ちょっとリアさん!? 何ユートとイチャイチャしてるの!? 見つめるの禁止!!」


「ナナ、嫉妬、見苦しい」


「単語並べてバカにするの酷いっ!?」




 目の前でまた言い合いを繰り広げる二人を見て、リアは自然と口元を緩めていた。




「……そうですね。二人共、今日は一緒にお風呂入りましょう」




 そう言う彼女は、普段より少し明るい表情だった。




次回投稿11/20(日)13:00予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ