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ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈1章 ルークラート王国編〉
40/180

39話







「しかし本当によかったよ。優人が無事だと分かって私もやっと落ち着けるというものだ」


「そこまで言っていただけると嬉しいですね」


「何、お前はこの王国を救った英雄だぞ?

もう少し威張ってもいいと思うのだが」


「いや、あんまりそういう実感が無くてですね」


「全く謙虚な男だよ。メイドもそう思うだろ?」


「ええ、ユート様は少し謙虚過ぎますね」


「リアまでそんなこと言うなよ」




 彼のその一言で、その場に居た者がクスクスと笑い声を漏らす。

 リアとの一件の後、優人とリアは家に戻りそのまま眠りについた。そして早朝にセシリアの部下が様子を見に来たので、助けて貰ったお礼を言いに起きていたリアを連れて王城へと向かっていたのだ。




「で、結局今回の騒動は誰の仕業だったんです?」


「それが、全く手掛かりが掴めなくてな。もう少し調べてみるが、多分何の成果も上がらんだろう」


「相手はよっぽどの手練れって事ですね」


「ああ、少し面倒なことになりそうだ。今後は、リザードマン繋がりでセト村との関連も視野に入れていくつもりだ」



(やはりあの村も関連してくるのか…………

となれば、あの時出会った親子が怪しい…………くっ)



 過去の嫌な事を思い出してしまい、優人はつい顔をしかめてしまう。




「あ、優人にとってセト村の話はいいものではないか。気を使ってやれず済まない」


「いえ、大丈夫ですから気になさらず」


「ユート様、何かあったのですか?」


「ん、まあちょっと前に俺のいた村がリザードマンに襲撃されてな。行方不明を除けば生きてたのは俺だけなんだ」


「そんな事が…………」


「ま、私が救援に向かった時には既に優人がリザードマンを全滅させてたがな」


「はぁ、さすがユート様ですね」




 そう言って、リアがジト目で優人を見つめる。




「な、なんだよリア」


「ユート様は戦闘狂なのですか?」


「あー、うん、違うからな?

むしろ戦わなくていいなら一生戦いたくない」


「英雄がそんな事言ったら、国民が幻滅するぞ………」




 優人の発言に苦笑するセシリアは、緩んだ表情を引き締めて座り直した。




「さて、本題に入ろう。今日優人を呼んだのには理由があってだな。これを受け取ってもらいたい」




 優人の目の前に大きめの指輪が渡される。と、それを見たリアは見事に勘違いしたようで、驚愕の表情を浮かべて大声を出してしまう。




「ちょ、ちょっとセシリア様!?

いきなりプロポーズするとはどういう事ですか!?」


「リアと言ったか。私はそんな節操無しではないから安心しろ。そういう話ではない」


「えっ、そ、そうですか。取り乱してしまって申し訳ありません」


「ああ、別に気にしてないから大丈夫だ」


「セシリアさん、これは?」


「ルークラート王国のしきたりにな、『王国の一大事に最も貢献してくれた者に、王家からこの指輪を授けること』と言うのがあるのだよ」


「なるほど、それで俺に、って事ですか」


「そういう事だ。どうか受け取ってもらえないか?

でないと私やお父さんが先代に顔向け出来なくなる」


「はあ、分かりました。ありがたく頂戴します」




 それはズルい言い方だ、と思いながらも優人は素直にそれを受け取る。




「本当はな、優人さえ良ければ爵位と領地を与えることも出来るんだがな。そういうのは嫌いだろ?」


「あーもう分かりましたよ。この指輪で本当に良かったですよ」


「本当に素直じゃないやつだ。っと、私はこの後仕事が控えているからここまでだな」


「じゃあ、俺たちもここで。リア、ナナ達も起きてるだろうしそろそろ帰ろう」


「多分、ユート様が消えたって大騒ぎしてるでしょうね」




 ははは、ふふっと二人は少しの間笑い、その部屋を後にするのだった。






















 二人が王城を出るとそこには人だかりが出来ていた。そんな中、一人の男が声を発する。




「おいみんな!! 英雄様が出てきたぞーーーー!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」


「えっ」




 優人を見た途端に、その場にいた者達が皆一斉に駆け寄って来る。




「私は向こうで待ってますね」


「リアっ、裏切るのか!?」


「頑張ってください」


「ま、待てって自分だけズル―――――――――」




 押し寄せる人波によって優人とリアは分断されてしまう。どうやら多くの者は冒険者らしく、鎧やら剣やらがぶつかる音がよく聞こえてくる。中には小さい子供もいて、ペンとシャツをもって人波に飲み込まれないように必死に耐えていた。



(どんだけ過激な出待ちなんだよっ!?

軽く平成のアイドル達と張り合えるレベルじゃねーか!!)



「英雄様!! 今から祝杯をあげに行きましょう!!」


「それは名案だ!! お前ら!! 急いで酒場押さえてこい!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」




 いきなり宴会準備に取り掛かろうとする冒険者達を優人は何とか制止する。




「どうしたんだ英雄様? こういうのはお嫌いですかい?」


「いや、そうじゃないけど…………」


「じゃあ行きましょうよ!!」


「あ、その…………」




 あまりにグイグイ来るので、優人は尻込みしてしまう。そんな時に、ある考えが優人の頭をよぎる。




「悪い、出来たら夜にしてくれないか?」


「そりゃあ全然いいですけど、何かあるんですか英雄様?」


「ああ、大事な用事が一つ残ってるから」


「分かりました!!

じゃあ、今日の夜あの酒場に来てください!!

みんな待ってますから!!」


「おう、夜な。

――――――リア!! 帰るぞ!!」


「はい、わかりました」




 遠くに避難していたリアを呼び寄せ、人の波をかき分けながら優人は家を目指すのだった。




















―――――――――――――――――――――――









「はぁ、いざ入ろうとなると気が引けてしまうな……」


「何言ってるんですか、早く入りましょう」


「でもなぁ…………」




 王城前で人々に揉みくちゃにされた後、優人達はすぐに家まで戻った。

そしてこうして玄関まで戻ってきたのはいいものの、ナナ達に顔を合わせづらいと優人は数分間も玄関扉に手をかけれなかったのだ。




「もう、私は入りますからね?」


「ちょ、リア待てって!」




――――――――――――ガチャッ。




「ナナ、イリス、ただいまー」


「っ!! リアさん大変なの!! ユートが消え――――――」


「リア、師匠が――――――」




 リアが優人を押しのけそそくさと家の中に入っていく。すると、ナナとイリスが2階から慌てて降りてきてリアの元に駆け寄り、後ろにいた優人と目が合ってしまう。




「あ、えっとその………」


「……………………」


「…………良かった」




 情けないほどに焦る優人、俯くナナ、安堵の表情を見せるイリスと、三者三様の表情をするという何ともカオスな状況が生まれてしまう。




「ユート…………」


「な、何だナナ?」




 突然顔をあげて名前を呼んでくるナナに、優人はビクついて様子を伺ってしまう。




「とりあえず、家入って」


「は、はい」




 優人は言われた通りに家に入る。



(ナナ怒ってるのか……?

突然の一回しか目を合わせてくれないし……)



「ユート、ソファに座って」


「…………え?」


「いいから」


「あ、はい」




 ナナの雰囲気に威圧され、優人はもう言いなり状態である。




「こ、これでいいか?」


「…………」




 優人が声を掛けるも、ナナは一向に反応する気配が無い。




「な、ナナ?」




 恐る恐るナナの顔を見る優人。

すると―――――――――




「ユートのバカぁっ!!!!」


「!?」




 ナナが目の前に立ち、顔を強く抱き締める。



(む、胸が…………苦しいって)



 ちょうど優人の顔がナナの胸の高さにあり、顔がズッポリと胸の中に入ってしまう。




「良がったぁぁぁぁ生ぎてるぅぅぅぅ…………」


「………………」


「バカぁっ、ユートのバカぁっ!! もっと早く起きてよぉ!! 死んじゃったかと思うじゃんかぁ!!」




 頭の上で泣きじゃくるナナが、抱き締める力をさらに強くする。




「バカぁっ、ユートぉ…………」




 その体勢のまま、数分の時間が流れる。




「…………ぐずっ」


「…………ナナ」




 ナナの胸から顔を離し、側に立つ。そして、今度は優人の方から強く抱き締める。




「悪いな、心配掛けさせて。でも、ちゃんと帰ってきただろ?」


「……ぐずっ。そういう問題じゃないよ…………」


「分かってる。本当に悪かったと思ってるよ。俺のわがままのせいでナナやみんなに迷惑かけたし。本当にごめん」


「ユート…………」




 抱き締めていた手をゆっくりと離していく。そして、優人は腰に下げていた剣をナナに差し出す。




「ナナ、約束を果たすから受け取れ」


「――――――うん!!」




 剣を受け取るナナの表情は先程とは比べものにならない程明るく、見ているこちらまで笑顔になりそうだった。




「師匠、私も抱き締めて、欲しい」


「ああ、俺でいいなら」




 ナナとの間に割って入ってきたイリスが、優人の腰に抱き着く。優人は胸元にある小さな頭を優しく撫でて、リアとナナに目をやる。





「皆で朝ごはん食べようか。リア、ナナ、ご飯頼んだ」


「かしこまりました」


「うん!! 待っててすぐ作っちゃうから!! リアさん早く行こー!!」


「ちょっとナナ慌てたら危ないから!!」




 ナナが勢いよく走り出した後を追うようにリアも走り出す。




「師匠、嬉しそう」


「ああ、嬉しいよ。でも、あんまり上手く言葉に出来ないんだけどな」


「私、分かる。師匠は、心から幸せ、感じてる」


「そっか。俺は今幸せなんだな」


「うん。私も、ナナも、リアも、みんな幸せ」


「ああ、そうだな」




 イリスの頭を撫で、先程までいた2人の方を見続けていた優人は、イリスにも聞こえるか分からない声で呟くのだった。




「異世界に来て良かったよ」
















 様々な人に裏切られるという悲劇的な人生を送る青年が、異世界で本当に大事なものを見つける。

そんな物語はまだ始まったばかりだった―――





ここまで読んで下さってありがとうございますm(_ _)m

この後は日常編を少し挟みたいと思うので、

2章突入は少し先になりそうです。

次回投稿11/15(火)13:00予定です




※感想、意見、誤字などありましたら

何でも言って頂けると有難いですm(_ _)m




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