3話
フリスト大陸には数多くの集落、村が点在している。そのうちの一つであるセト村は、近くを流れる川の水は非常に澄んでいて、周囲を栄養価の高い木の実が手に入る森に囲まれ、さらに大きい街までもが近くにあるという、住むと最高の環境が与えられる村だった。
その村が── 一夜にして地獄と化した。
「きゃぁぁぁぁっ!?───ぁ。」
村を逃げ回っていた女性の胸から剣が生える。その剣の柄を持つのは、蜥蜴のような見た目の、蜥蜴にしては大きすぎる体を持つ緑の怪物だった。
「何でこの村に──リザードマンが現れるんだよ!!?」
そんな事を叫ぶ男性は、緑の怪物の持つ斧によって頭を潰される。
村は、ほぼ壊滅状態だった。家は余すことなく火を放たれ、逃げ惑う者は怪物によって殺され、逃げずに戦った者は村の中央にある焚き火に放り込まれて焼かれた。
「ガァァァァァァ!!!」
人影が無いことを確認し、村を襲った十数体の怪物たちは、焚き火を囲み各々の持つ武器を掲げて勝利の雄叫びを上げていた。
彼らが終わりを確信した時──異常は起きた。
「痛てぇぇぇぇぇ!!!」
「「!!?」」
この時、怪物達の運命が決まってしまった。
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(少し張り切りすぎたかな………)
家の2階の窓から勢いよく飛び出してきた青年、御影優人は体に付着した木片などを払いつつ、ステータスのHPだけを確認する。
HP:500/500 → 430/500
(確か…レベル1成人男性のHPが100だから、なるほど重傷になるわけだな)
優人はステータスを閉じ、自身のチートっぷりを実感する。と、焚き火の周りにいた緑の怪物達と目が合う。
(は、マジ?何あの化け物、あんなの──)
「ガァァァァァ!!!!!!」
目の前に急に現れた優人の事を敵と判断したのか、一番近かった怪物が襲いかかる。
咄嗟に優人は持っていたロングソードを抜刀し、不細工な格好ではあるが振り下ろされる斧を防ごうとする、がしかし。
「ガァ!?」
「………は?はぁ!?」
怪物の振り下ろした斧の方が、脆く砕け散ってしまう。
(何だよこの剣!?防ぐだけで相手の武器壊すとか……これもチートかよ!?)
優人はとりあえず、目の前の怪物に剣を振り下ろす。すると、まるでナイフでバターを切るような感触を残し、怪物を両断してしまった。
あまりの強力さに驚いた優人は、真理眼の効果を手に持つ剣に使用する。
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名称:神速の剣
レア度:MR
説明:とある女騎士が戦場で用いたと言い伝えられる剣。これで切れないものは無いとの言い伝えも。所有者の身体能力を大幅に上昇させる。
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「って思いっきりどチートじゃねーかよ!!?」
優人はさらなるチートっぷりに、思わず叫んでしまった。そんな彼の叫び声に反応した残りの怪物達が全員で襲いかかってくる。
だが、チート過ぎるその剣は、振られる度に怪物の屍を生み出していくのだった。
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『レベルが上がりました』
積み上げられていた怪物の死体の横で一休みしていた優人の脳内に、そんなアナウンス音が響く。
(そりゃ、こんだけ倒せばレベルも上がるか……)
ステータスを開けて能力に注目する。
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LV:1 → 6
HP:1000 → 2000
MP:1000 → 2000
腕力:1000 → 2000
脚力:1000 → 2000
頑丈:1000 → 2000
運:1000 → 1200
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(これは上がりすぎじゃないのか?)
火はすっかり消え、炭に変わってしまった家に囲まれ一人、また深々とため息をついていた。
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「隊長、他の生存者は確認出来ませんでした」
「うむ、ご苦労。引き続き村の調査にあたってくれ」
優人がレベルアップしてから数時間後に、大人数が馬に乗ってやってきた。
「私の名前はセシリア・バーミンガム、ルークラート王国第三騎士隊隊長だ。
この度は救援に間に合わず、申し訳なかった」
そう言ってセシリアは頭を下げる。
「頭をあげてください。隊長が頭を下げるのはあまり良くないのでは?」
周りにいた隊員が困惑しているのが目に入ったので、優人はセシリアに頭をあげさせる。
「そうか?すまないな、何せ隊長には最近着任したばかりでな、こういう事には疎いんだ。
ところで、君の名前は?」
「御影優人です。隊長さん、どうして救援が遅れたんですか?」
「セシリアでいい。
理由はいくつかあるんだが、一番の理由はここの村が王国から遠い事だろうな。
どれだけ早く来たとしても、数時間はかかってしまう。
つまり皮肉な話だが、どうやってもこの村の壊滅は免れなかったという事なんだ」
セシリアは申し訳なさげにそう言う。
「いえ、さすがにそんな状況なら責めることも出来ませんし、そんな顔しないでいいですから」
「ありがとう、そう言ってもらえると少しは気が和らぐ。
そうだ、すまないがあのリザードマンの素材をいくつか、調査のために貰って良いか?」
そう言って、セシリアはリザードマンの死体の山になっていた筈の場所を指差す。そこには死体はなく、代わりに黒光りする石や緑色の尻尾、鱗、牙なとが散乱していた。
「ああ、全部持って行ってもらって構いませんよ。あんなに持てませんから」
優人は一度、手紙と本が入っていた袋に入れようとしたが、全く入らなかったので断念していた。
「いやいや、そんなに貰う訳にはいかないんだが。
……まさかだが、優人は収納スキルを習得していないのか?」
「収納スキル?」
セシリアが初めて聞く単語を口にするので、間髪入れずに聞き返してしまう。
「その様子だと全く知らないようだな。
まあいい、収納スキルというのはな──」
と言いながらセシリアは手の平を上にする。すると突然、そこに白い包みが現れる。
「──と言うように、自分の所持しているものを自由に出し入れするスキルなのだ。
どこに仕舞われているのかは未だに謎なのだが、生きている物以外なら何でも収納出来るから、かなり便利なスキルとして扱われている」
と、淡々とスキルの説明をしていると
『スキル:収納を習得しました。スキルレベルが最大になりました』
というアナウンス音が脳内に響く。
「セシリアさん、ちなみになんですけどスキルレベルは最大いくつなんですか?」
「なんだ、そんな事も知らないのか?最大は10だ。
よっぽど簡単なスキルか、才能がなければ到達できないんだがな」
(あ、これはまた例のチート特性のお陰だろうな。スキルもレベル最大で勝手に習得するし、本当に何なんだよ……)
多分早熟か神の加護の効果だろう、と心の中で嘆き、収納の使い方を尋ねる。
「物を収納する時は、それに触れて収納と念じればいい。出す時はその物をイメージして収納と念じるんだ。
ただ、他人の所有物を収納することは出来ないからな」
そんな事したら牢屋にぶち込まれるからな、とセシリアは豪快に笑う。どうやらこの世界にも悪人を裁く法はあるらしい。
試しにリザードマンの尻尾の元まで寄り、収納と念じてみる。するとそこにあった尻尾が消えていた。
「何だ、使えるじゃないか。
とりあえずそこにある素材は全部優人のだから収納しておけよ」
すべて収納を終え、セシリアに向き直る。
「さて、私達はこの村の調査のためにここに残るのだが、優人はどうするのだ?」
優人はこれ以上ここにいては迷惑だと思い、
「どこか近くの街にでも行ってみようと思います。
ここから近い街はどう行けばいいですか?」
と聞いてみた。
「そうだな、それならラルの街に行くといい。
あそこなら街の規模も多いし、色々と手に入るし、暮らしやすいだろう。行き方は───」
そう言ってセシリアはラルの街への行き方を丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございました、ではこれで」
「あーちょっと待て。ん、ほら」
話も終わり早速街へ向かおうとした優人に、セシリアがさっき出した白い包みを投げてよこす。
「餞別だ、持っていけ。達者でな」
そう言って、セシリアは隊員の元へ歩いていった。
(ああ、俺とあの人の性別が逆なら間違いなく惚れてたわ……)
優人は包みの中にあった靴に目を落とし、そう感じるのであった。
3話終了で、いよいよ動き出しましたね!
次話では、新たなキャラも軽く登場しますよ〜
次回投稿10/28(金)12:00予定です