37話
ドラゴン・ジェネラルが現れたのと同時刻、ナナ達の方では順調に避難が進んでいた。
「はーい!! 皆さん焦らずに進んでくださーい!!」
「押さないで、ゆっくりで、いい」
「ナナ、イリス、こっちはあらかた終わったけど」
「あー、ナナももう少しだからリアさんちょっと待っててー」
「リア、私ももうすぐだから」
「うん、わかった」
「皆さんありがとうございます!!
お陰様でかなりのペースで避難が終わりそうです!!」
ナナ達三人と共に避難の誘導を行っていたギルド職員が、頭を下げて感謝を述べる。
「いいんですよ!! これも大事な仕事ですから!!」
「珍しく、ナナがまともな事、言ってる」
「ちょっとイリスちゃん!?
ナナはいつでもまともだからね!?」
「あの風呂の一件、私は忘れてませんよ?」
「リアさんそれは本当にゴメンだって………」
「ふふっ、皆さん仲がよろしいんですね」
三人のやりとりを見て、職員が心底可笑しそうに笑ってそう告げてくる。
「まっ、ユートのお陰だよね」
「師匠の、お陰」
「ユート様のお陰かな」
「まあ、その人はモテモテですねー。こんなに可愛い人達に感謝されているんですから」
「師匠、そういうの、疎い」
「だよね!! もっと積極的にいった方がいいのかなぁ」
「ナナ、それ以上はやめといた方がいいよ………」
感謝から愚痴にコロッと変わってしまった事がまた面白可笑しくて、職員はより一層笑ってしまう。
「とりあえずありがとうございました!!
残りは私達でやれるので、皆さんのお仕事はここまでで十分ですよ!!」
「わかりました!! じゃあ二人共急ごう!!」
「うん」
「わかった」
職員に挨拶し、三人は優人のいる北門へと向かって走り出した。
三人のいた南門から北門までは、どれだけ早く走り続けても五分以上はかかる距離である。その為、北門についた頃には三人共が息を切らすという状況だった。
「はっ、はっ、はっ…………ふう、何とか着いたね」
「ナナ、早く門の外に出る扉、開けて」
「うんわかった!!」
「何かしらの音や声は聞こえてくるけど、どういう状況なんだろう」
呼吸が落ち着いてきたところで、ナナを先頭にして門の外にへと足を踏み出していく。
「…………えっ」
「嘘、酷い…………」
「これは、あまりにも…………」
三人の目に映ったのは、防戦一方の冒険者と騎士隊、そして見たこともない大きさで、かつ巨大な剣を扱う赤色のリザードマンの群れだった。
冒険者も騎士隊も約三分の一程が負傷して後退する状態、それに対して相手の数はこちらの数の半分にも満たない。更には、数多くの冒険者達の死体が敵の足元に転がっていた。
そんな中で、一際目立つ女性の騎士が声を上げ続けていた。
「回復チームは前衛に回復をかけ続けろ!!
MPが尽きたら後退し、ポーションを飲んでまた元の位置に戻れ!!」
「魔法チーム、水魔法準備!!
範囲系魔法は使うな!! 味方に当たる恐れがある!!
私の指示で一斉に発動するからMPを込めて待機だ!!」
「前衛は敵の攻撃を複数人で防げ!!
敵を一匹も王国に入れるな!!」
そう、セシリアだった。彼女は一人で全員に指示を出してチームを組み、常に指示を飛ばして敵の猛攻を防いでいたのだった。
「セシリアさんすごい、カッコいいね……」
「ナナ、あれ」
「どれ? あっ――――――」
ナナは声をかけてきたイリスの指差す方を見る。そこには、セシリアの戦っている場所とかけ離れた場所で冒険者達の相手にしている奴らよりもさらに一回りほど大きいリザードマンと剣を打ち合っている優人の姿があったのだ。
「ユート様、あんな怪物と戦っているなんて……」
「リア、驚いている場合じゃない。早く手助けに、行かないと―――」
と、イリスの会話を遮るかのようにナナが何も言わず優人の方に駆け出していく。
「ちょっとナナ!?」
「ナナ、焦ったら、ダメ」
「分かってる!! 分かってるけど…………」
背後から聞こえてくる二人の叱咤にナナは返事とも言えない返事をする。
「ユート!!」
「その声、ナナか!?」
優人がドラゴン・ジェネラルと距離を取ったタイミングで、三人が一気に近づく。
「三人共来たのか、早く王国内に戻れ!!」
「ナナも戦う!!」
「馬鹿なこと言うな!!
お前らが戦って勝てる相手じゃない!!」
「分かってる!! でも戦いたいの!!」
「そんなワガママ通じるか!!
リア、命令だ!! ナナとイリスを連れて王国に戻れ!!」
「わ、わかりました」
「師匠、勝てる?」
「いや、少し怪しいかな……っ」
「そっか、なら言うこと、聞く」
「ちょっと何で二人共言うこと聞くの!?
ユートの事心配じゃないの!?」
「ナナ、良いから聞いてくれ。これは俺の戦いなんだ、一人でやらせてくれ」
「でも…………」
「俺のプライドが、かかってるから」
「………………………………」
ナナは言葉を発する事をせず、黙り込んでしまう。優人は何もしてこない敵の事を気にしつつも、ナナの言動に意識を傾ける。
「………………うん。ユート、これ」
何かを決めたのか、ナナは優人に向き直り腰に下げていた剣を差し出してくる。
「ナナ、これはお前にあげたやつだろ?」
「元々はユートのだもん、ユートが持ってて。
………………終わったら返しに来てね?」
「ああ」
(思いっきりフラグ立てるよなぁ。
何だろ、最近フラグばっかり立てられてるな……)
「ナナ、今日の晩飯はお前が作ってくれ。楽しみにしてるから」
「…………うん!! ナナも頑張るからユートも頑張ってね!!」
「ああ、任せとけ。だから二人と戻っててくれ」
何とか元気になったナナを二人が連れて戻るのを見届けた後、今の今まで黙っていた敵に目をやる。
「よう、随分大人しかったじゃねーか。
何だ? お前はご主人様の命令が無いと動けないザコだったのか?」
「グァッ!? ガァァァァァッ―――!!!」
先程まで大人しくしていたドラゴン・ジェネラルも、優人の言葉を理解したのか声を荒らげ襲い掛かってくる。
「ちょっと言い過ぎたか……これは全力でやらないとヤバイな」
久々に使う剣を鞘から抜き出し、そんなことを呟いて優人は気合いを入れ直した。
―――――――――――――――――――――――
「隊長!! 敵の攻撃の手が緩んでいます!!
今のうちに敵の数を減らしてしまいましょう!!」
「ああ、そうしよう!!」
優人がドラゴン・ジェネラルと打ち合っている時、セシリア達の防戦に大きな変化が起ころうとしていた。
「魔法チームはありったけのMPを込めて水魔法を放つ準備をしろ!!
私の合図で一斉にいくからな!!」
「前衛は魔法チームの準備が終わるまで攻撃を防げ!!
ここが踏ん張りどころだぞ!! 皆前衛の意地を見せてみろ!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!」」」
冒険者と騎士隊は、これでもかとばかりに声を張り上げていく。
そしてこの後、一人の優秀な隊長のお陰で本来勝てるはずのないS級モンスターの群れを全滅させたのだった。
―――――――――――――――――――――――
(くっ、まさかここまで強いと思っていなかった……)
ドラゴン・ジェネラルとの攻防を続けていた優人は、疲れと焦りで汗が止まらなかった。『無名』による初撃で倒せると過信していたので、ここまで長引くと予想出来なかったのだ。
それもそのはず、今の今まで優人は戦闘において労せずに勝ってきた。オーガキングの時もちょっとした機転で勝つことが出来、大量の魔法スキルと合成魔法を覚えたことによって、苦戦や接戦を強いられた事が無い。
つまり、今の状況は優人にとってピンチそのものだった。
(こんな事ならチートスキルに頼らない戦い方を習っておけばよかったな………
このまま戦い続けるとゴリ押しされて負けるっ……)
変化のない戦いを続けていると、頭上から声が聞こえてきた。
「ユート〜!! セシル達の方は勝ったよ〜〜〜!!」
ソフィアの声に、敵の動きが一瞬止まる。
「ソフィアナイスだ!!」
それを見逃さなかった優人は、ガラ空きだった敵の横腹に一閃を入れる。
「グガァァァァァァッ!!!!!!」
『無名』でも与えられなかった傷を、この剣では与えることが出来たのだ。思っていた以上に深い傷を入れたので、優人はこのまま押し切れると思い連続で斬り掛かる。
————だが、それはあまりにも慢心過ぎた。
「ユート!! 危ないっ!!」
「―――――――――――――――っ!!」
攻撃に重点を置いてしまったため、ドラゴン・ジェネラルの剣を躱しきれず―――左腕が、肩から切り落とされた。
チャンスは最大のピンチ、
優人は果たして勝つことが出来るのか…………?
次回投稿11/13(日)21:00予定です




