35話
セシリア達を向かわせて三日ほど経ち、優人達は王国の様子を見に行くことにした。
「やっぱり、まだ落ち着かなさそうだね……」
「国王が変わるの、一大事だから当たり前」
「そうだね、あの方達が上手くやって頂けるとこちらとしても有難いものだけど」
優人の前を歩く三人がそんなやり取りを行う。王国に来る前に現状を説明しておいたので、ある程度の予想はしていたらしい。出発時に爆睡だったソフィアは今も尚家で爆睡している。
「お、優人ではないか!! よく来てくれたな!!」
「え、セシリアさん? 何でこんな所に?」
王国の街中を歩いていた三人の所へ、前方から騎士姿のセシリアが歩いてくる。
「いや、この辺りの見回りに来ていたら偶然お前達を見かけてだな。今日は何か買い物か?」
「まあ、そんな所です……で、調子はどうなんですか?」
「いやー、まずまずと言ったところだな。前国王はかなりの不正を行っていたみたいで、父上も仕事に追われる日々になりそうだよ」
「それは大変ですね。なにか手伝ってあげたいんですけど、さすがに政治的な事は出来ませんからね」
気にしなくていい、と笑うセシリア。すると、周囲が少しざわつき始めた。
―――おい、あれって。
―――ああ、この前の三人組だろ? あのA級冒険者を瞬殺したっていう。
―――何でも、ラルの街にある屋敷の一つを崩壊させたらしいぞ。
―――なんだよそれ、化け物じゃねーかよ。てか、そんな奴らがセシリアさんといるって……
「どうやら、私達がこうしているのが余程不思議な光景に見えているようだな」
「そりゃあそうでしょう。俺は人前でやらかしてしまってますからね」
「そうだな……とりあえず今から王城に来ないか?」
「え、私達が行っていいんですか?」
大人しく二人の会話を聞いていたナナが割り込んでくる。
「もちろんだ。先日は良いおもてなしをしてもらったんだから、今度は私からもてなさせてくれ」
「そんな、良いおもてなしだなんて。
…………ユート、どうする?」
「ま、お言葉に甘えようか」
「やったー!! イリスちゃん、リアさん!!
王城だよ? 王城に行けるんだよ?」
「ナナ、子供みたい」
「ナナはしゃぎ過ぎ」
ナナがイリスとリアの手を取ってぴょんぴょん跳ねていると、それとは対照的に二人はかなり冷静だった。
「なら早速―――――――――」
セシリアが言葉を発しようとしたその時だった。
「非常事態発生です!! 北の方からリザードマンの群れが押し寄せてきます!!
冒険者の皆さんは北門まで集まってください!!
それ以外の人達は安全のため南門の付近まで向かってください!!
繰り返します!!――――――」
王国の各所にあるスピーカーから、緊急のアナウンスが鳴り響く。
「この声は冒険者ギルドの職員だな」
「師匠、どうする?」
「どうするってなぁ」
あまりに突然の出来事なので優人も戸惑ってしまう。
「とりあえず、私は騎士隊を連れて北に向かう為に一度王城に戻るぞ」
「わかりました、北門で出来たら合流しましょう」
セシリアは返事をせず王城に向かって走っていった。
「ユート、早く北門に向かった方がいいんじゃない?」
「ああ、そうだな。
………………いや待て」
「え、どうしたの?」
セシリアと同じように走ろうとするナナを優人は止める。
「ナナ達は三人で冒険者ギルドに向かって、国民の避難を手伝ってやってくれ」
「いや、ナナとイリスちゃんは冒険者だよ?」
「いいから、頼む」
驚くナナに、優人は真剣な眼差しを向ける。
「師匠がそう言うなら、従う」
「私も従います、ユート様のメイドですから」
イリスとリアの二人はすぐに首を縦に振った。しかしナナはやはり不満らしく、
「避難はギルドの人達がやってくれるからナナ達がやらなくても大丈夫だよ!!
ナナは北門に行くからね!!」
そう言って頑固な態度を見せる。ただ、今までの付き合いから彼女の対応方法を理解している優人は手法を変えた。
「ナナ、もしこのタイミングで南門が別のモンスターに襲われたりしてみろ。冒険者全員が北門にいたら誰が避難している国民を助けるんだ?」
「そ、それは門番の人達が…………」
「自分で無茶言ってるの分かるだろ?
頼む、国民を守るためだと思ってくれ」
「ううっ…………わかった」
どうやらナナも納得してくれたらしい。
「その代わり、避難終わったらすぐにそっちに向かうからね?」
「ああ、好きにしろ」
「よし!! 二人共急ごう!!」
「あっナナ待って!!」
「ナナ、チョロすぎ」
ギルドに向かって走っていくナナを追いかけるように二人も後について行く。ただ最後に呟いた一言から察するに、どうやらイリスは彼の考えに気付いていたようだ。
(さて、あいつらが戻ってくる前に片をつけないとな)
一人残った優人も、北門に向けて走るのだった。
―――――――――――――――――――――――
優人が三人を遠ざけたのには理由があった。
それは、かつてのセトの村の時の様な惨状になる可能性があり、それを見せたくなかったから。そして、今回のこの一件とセトの村の一件が同一犯の仕業だとしたら、これには関わって欲しくなかったからだ。
そして、そんな優人の予想は――――――的中していた。
「おいあれ……………………」
「ああ、どんな地獄絵図だよ…………」
北門に着いた優人が先に来ていた冒険者の指差す方を見ると、そこには赤色のリザードマンの大群が人間を木の槍で串刺しにし、掲げながら向かってくるという、余りにも酷すぎる光景が存在していた。
「優人!! どういう――――――っ!?」
騎士隊を引き連れて少し遅れてきたセシリアは、優人に声をかけるも目の前の状況に言葉を失う。
「セシリアさん、これって」
「ああ、多分ここに来るまでに通った村を襲撃したんだろう。そして見せしめのためにあんな事を…………くそったれが」
「セシリアさん……」
セシリアは拳を強く握りしめ、見てわかるほどに全身を怒りで震わせていた。
「優人、済まないが力を貸してくれ。あそこにいる者達のために、早くケリをつけてやりたい」
「もちろんです。あんな物を見せつけられて黙ってる事なんて、俺には到底出来ませんから」
「わかった、ありがとう」
そう言って、セシリアは冒険者が集っている場所の前に立ち、高らかに宣言する。
「皆聞いてくれ!! 私は王国第三騎士隊隊長のセシリアだ!!
今目の前の惨状に戸惑いを隠せないものも多いだろうが、私達はここで立ち止まってはいけない!
あの化け物共に殺された者達のために、私達は奴らを倒すために剣を取るんだ!!
命の保証はできない、だがそれでも私は皆と戦いたいと思う!!
そして、ここにいる皆が無事でこの戦いを終わらせたい!!
そのためには皆の力が必要だ、どうか私に力を貸してくれ!!」
最後まで言い切ったあと、深く頭を下げる。冒険者達は突然の出来事に少しの間硬直したが、どこからともなく声が上がる。
「セシリアさんの言う通りだ!!
俺たちは冒険者だ!! あんな奴らに負けてたまるか!!」
「そうだ!! 種族は違えど、奴らは同胞を殺した!!
一匹たりとも生かしてはおけない!!」
「皆!! セシリアさんのためにも、あの村人達のためにも全力で戦うぞ!!」
「「「「ゥオオォォォッ!!!!」」」」
冒険者達は士気を高揚させ、各々の武器をを空に掲げる。
「セシリアさん、名演説でしたよ」
歩いて戻ってくるセシリアに、優人が言葉をかける。
「騎士隊隊長として当然の事をしたまでだ」
少し照れくさそうに、セシリアがそう返事する。
「それと、あんなに簡単に頭下げちゃダメですよ?」
「ははっ、どうもこの癖はどうにもならんな」
軽いやりとりを終え、二人は敵の方に向く。セシリアが大きく息を吸い、声を上げる。
「この場にいる全員に告ぐ!! 敵は一匹たりとも逃すな!!
殺られている村人は門の前まで運べ!! そして、誰一人として死ぬなよ!!」
彼女のその言葉に、冒険者や騎士達の士気は更に高まっていく。そして一呼吸整えた後、彼女は再度大声を上げた。
「全員、戦闘開始だ!!!!」
お約束の大軍襲来ですな〜
そろそろ一章も終盤に近づいて来ました!
ここまで読んで下さってありがとうございますm(_ _)m
次回投稿11/12(日)17:00予定です




