34話
『国王は精霊契約を破って不正を働いたため、亡くなりました。精霊契約により、国王の座は前国王が引き継ぐ事になります。これは精霊契約の元で行われている為、異論は認められません。』
「ん、終わったみたいだな」
王城を出た後、優人はちーちゃんのいる預かり所へと急いで向かっていた。そんな時に、脳内にこのアナウンス音が鳴ったのだ。
「しっかし、さすが国王だな。俺が帰ったのを確認してから速攻で不正を働くとは」
預かり所のちーちゃんの上に乗ってソフィアの帰りを待っていると、遠くの方からソフィアが全速力でこちらに飛んでくる。
「おっまたせー!!」
「おう、お疲れ様…………元気だな?」
「そりゃあ、こんな面白いことしてたらテンション爆上がりでしょ〜〜☆」
(あ、やべぇこいつ超うぜぇ。一昔前の調子乗ってるギャルの喋り方じゃねーかよ)
内心でツッコミを入れていた優人に、ソフィアが言葉をぶつけてくる。
「てかさー、よくあんな方法思いついたね〜?
直前ギリギリで契約用紙を増やすとか、どこの悪人かと思っちゃったよ〜」
そう、今回の作戦は至ってシンプルだった。
国王の目の前で契約内容を書き、それを見せつけることで契約内容がそれだけだと思い込ませる。だが実際は、契約直前にあらかじめ作っておいた契約用紙を収納から取り出し、ソフィアに渡して素早く契約を結ばせた。
足した契約内容は以下の通りである。
『国王が契約違反した場合、不正を働いた事と国王の座を前国王が引き継ぎ、異論は認めさせない事を国内の全員の脳内にアナウンスする。さらに国王の不正に加担した部下は、国外追放を国王に命じられていた、という記憶を植え付けられる。』
「昔よく使われた手段だったからな」
「……………………」
さらっと自分の残酷な過去を暴露する優人に、ソフィアは唖然としてしまう。
(こんなずるい手段をよく使われたって、ユートはどんな経験をしてきたのよ………)
「ま、そんな事より急いで帰るぞ?
やる事はまだ残ってるからな」
「はいはーい」
「ちーちゃん頼む、全速力で家まで戻ってくれ」
「がうっ」
優人はちーちゃんに指示を出し、急いで自宅まで戻るのだった。
―――――――――――――――――――――――
優人達が家に戻る頃には、既に前国王が待っていてくれた。
「おお優人、どうなったんだ?」
「あ、そっか。えっとですね――――――」
王国外にあるこの家にいたので、セシリアはアナウンスを聞くことがなかった。なので優人は現状を説明していく。
「―――――――――――――はぁ。何とも大胆なことをしたものだな」
「とりあえず一度土台を壊した方が、組み立て直しやすいじゃないですか?」
「それはそうなんだが、話が急すぎるぞ」
「そこは、セシリアさんとお父さんの腕の見せ所ですよ。ここでうまく国民をまとめるのが、あなた達の役目です」
唸るセシリアを差し置いて、前国王が優人の前に進み出る。
「貴殿が御影優人殿で合ってますかな?」
「ええ、そうですが」
「私の名前はソルグ・ルベルト、セシルの父で元国王です。今回の件については部下から話を伺いましたが、本当になんと言っていいのやら。何から何までして頂いて感謝の限りです」
「いえいえ、まだ始まったばかりですよ?
これからソルグさんにはたっぷり働いて貰わないといけませんからね?」
「ははっ、何、元々は私の王国ですよ?
ある程度の事なら卒なく出来ますよ」
「それはありがたい。では、今後の行動についてなんですが、ざっくりまとめると今から王国に向かっていただいて、戸惑っているはずの国民の鎮静を行ってください。方法は任せます」
「ああ、わかった」
「あとの事を全て丸投げして申し訳ないんですが、頑張ってください。セシリアさんも、ソルグさんと一緒に行ってください」
「ああ………本当に色々とありがとうな。
こんな事、ただの一般人がする事では無いのだが」
「だから言ったでしょ?
俺はただ恩を返しただけですよ」
「…………ふっ、本当に変な奴だよ、優人は」
「なんか、言われ慣れましたよそれ………」
呆れたような笑みを浮かべるセシリアに、優人もまた同じようにして返す。
「では、私達は急ぎますね。セシル、行こう」
「ああ、お父さん」
親子を家の外まで見送った後、優人はリビングのソファに寝転がる。
「あーーーーーー、本当に疲れたぁ」
「別にユートは何もしてないっしょ?
アタシが一番働いたんだからね〜?」
と、先程まで『反照』で姿を消していたソフィアが優人に話しかける。
「ま、確かにそーだな。お疲れさん」
「でしょでしょ〜?
ね〜ユート、何かご褒美ちょうだいよ〜」
「はあ?」
突然何を、と思う優人の面前にソフィアが迫る。
「え〜? アタシ今回超頑張ったじゃん!!
だから、ほら!! お願い!!」
「あーもう近いうざい離れろ。
………………で、何が欲しいんだよ」
「んー、ちょっと考える〜」
「いや考えんのかよ」
ツッコミを無視して、ソフィアは考える事に集中する。
「…………うん、やっぱこれだね」
「お、決まったのか。何が―――――――――」
優人が尋ねるより先に、ソフィアの唇が優人の唇に触れる。
「ユート!! みんな帰ったのー?
―――――――――――――――あ」
と、最高にバッドタイミングでナナが二階から降りてくる。
「―――――――――っ!?
ソフィア何すんだよ!?」
「いや、ご褒美だからこれぐらいいーじゃん?」
「ちょっユート!? 何やってんの!?」
「違うんだナナ!!
これは勝手にソフィアがやった事で―――」
「え〜〜!! ユートだってOKしてくれたじゃん!!」
「ちょっとどういう事!?
ユート!! ちゃんと説明してよ!!」
「いや、だからその」
「やーいユート怒られてやんの〜」
「ソフィア本気で許さないからな」
「ひっ!? すいませんごめんなさい調子乗りました」
「ユート!! ナナの話聞いてる!? 早く説明して!!」
「………………………………何、この修羅場」
「イリス、私もう部屋戻っていいかな……」
ナナに遅れて二階から降りてきたイリスとリアは涙で濡れた顔を真っ赤にして怒るナナ、突然の事の連発に戸惑い続けている優人、その優人に怯えているソフィアという奇妙な修羅場を目にし、あっけに取られてしまうのだった。
―――――――――――――――――――――――
時同じくして、どこかの森の奥深くで複数の影が一つの場所に集まっていた。
「――――――では、準備にかかります」
「ええ、ちゃっちゃと終わらせてちょーだいね?」
「仰せのままに」
その場から影が一つ遠ざかっていく。そして、リーダーらしき女が口元を歪める。
「面白いものが見れそうね―――御影優人」
ソフィアの行動はいつでもぶっ飛んでる?(笑)
最後に出てきた者は一体…………?
次回投稿11/12(土)13:00予定です




