33話
この話から一日一回投稿になると思います。
申し訳ありませんm(_ _)m
王城の一室では、緊急事態のために幹部の招集が行われていた。
「おい!! どうしてセシリアがいないんだ!!」
「暗殺部隊によれば、部屋はもぬけの殻だったそうです」
「すぐ人員を手配して探しだせ!!」
「しかし、この時間ですと見つかる可能性が下がります。明日の朝からでよろしいのでは?」
「それでもし儂に危害が及んだら、お前は責任を取れるのか!?」
「……すいません、出過ぎた真似を。直ちに手配してまいります」
「国王様、もしかするとあの男が何か手を加えたのかも知れません」
「御影優人か、奴の居場所も探し出せ!!」
「かしこまりました」
部屋から二人が走って出ていく。と、入れ違いに一人が急いで走ってくる。
「ご報告申し上げます!!」
「どうした?」
「御影優人が、国王様に会いたいとの事です」
「なっ、奴がか!? …………客室に通せ」
「よろしいのですか!?」
「ああ。お前達、もしもの時用に部隊を傍の部屋に待機させておけ、もちろん戦闘準備をしてだ」
「はっ、かしこまりました」
周りにいた者が全員、一斉に部屋を飛び出していく。
「さて…………御影優人、どう動くか見物だな」
国王は窓に向かい、また顔を歪めるのであった。
―――――――――――――――――――――――
「こちらになります」
如何にも偉そうな狼人に案内された部屋へ、優人達は入っていく。
「(うっわ、あれが新国王? いかにも偉いですよーって雰囲気じゃん)」
肩に乗っていたソフィアが部屋のソファに座っている狼人を見て率直な感想を述べる。
ソフィアには『反照』を使わせているので、優人以外には声も聞こえないし姿も見えていない。
「(合図するまで大人しくしてろよ)」
「(りょ〜かいっ)」
国王の前のソファに向かいながら、ソフィアと聞き取れないほどの小声でやり取りをする。
「わざわざ面会して頂いてありがとうございます。
自己紹介をさせてもらいます、御影優人です。冒険者をしています。
今日はお目にかかれて光栄です」
優人は国王にそう言い、頭を下げる。
「頭を上げよ。儂が現国王のライ・ヴォルフだ。
で、此度はどのような要件でわざわざここに来たのだ?」
「はい、国王様にお願いがありまして参じました」
「ほう、お願いとな。どのような内容だ?」
優人は口を少し緩めて答える。
「契約を、結んでいただきたいと思います」
「…………契約? 儂とお前とでか?」
「はい」
「して、その内容は?」
「少々お待ち下さい」
収納から紙とペンを取り出し、優人はスラスラと何かを書き連ねていく。そして、書き終えると国王にそれを差し出す。
「この内容で宜しいでしょうか?」
国王は紙を受け取り、書かれている事に目を通していく。
「なになに…………
『国王は目の届く範囲で不正を絶対に働かないと約束する。御影優人は資源や情報を王国に優先的に流す事を約束する』か。
ほう、面白い内容だな。少し考えるから待て」
「わかりました」
国王はすぐに考え込む姿勢に入る。
(この書き方だと此奴に利益はあると思えないのだが、一体何が目的だ?
それに、儂の条件だが、こんなの『目の届かない所』で行えばいいだけの事だろう?
此奴はそんなことに気が付かないのか?
いや、しかしこれは儂にとってメリットが多すぎるし、何より此奴をこの王城に呼ぶ理由にもなる。
此奴を監視しやすくなるのは有難いな、ここは少しリスクを冒してでも契約を結ぶか………)
考えをまとめ、国王は顔をあげて優人の方へ向く。
「よしわかった、契約を結ぼう」
「本当ですか!! ありがとうございます!!
では、少しお待ちください」
満面の笑みを浮かべ、優人が席を立つ。
「ん? なぜ待つ必要がある? 契約などその紙に儂がサインすればいいではないか?」
「いえいえ、そんな訳ないじゃないですか。
――――――もういいぞ、ソフィア」
その直後、国王の目には優人の肩に突然何かが現れたように映った。
「なっ!? それは、精霊か!?」
「精霊の存在をご存知でしたか。じゃソフィア、さっさとやっちゃってくれ」
優人は手にあった紙束を二つ折りにしてソフィアに渡す。
「はいはーい…………はい、これで終わりだね」
「おい貴様!! 今何をした!!」
余りにも予想外の事態に、国王が激怒する。しかし優人は表情を変えずに答える。
「何って、契約を結んだんですよ?」
「ま、まさか精霊契約を…………?」
「察しが早くて助かります」
「おい、約束が違うぞ!?」
「いえいえ、ちゃんと『契約』と言いましたよ?
精霊契約だってちゃんとした『契約』じゃないですか」
「くっ、嵌められたのか」
「そんな、人聞きの悪い事を。では、俺はこれで。今日はありがとうございました」
優人は国王に一例をして部屋を出ていく。
(くっ、精霊を連れていたのは知っていたが、まさかここで使ってくるとは予想外だった。
しかし、よくよく考えてみれば彼奴は自分で自分の首を絞めただけだろう。
ただ、出来るだけ早いうちに危険要素は断っておいたほうがいいな。精霊契約のせいで死ぬ訳にはいかないしな)
と、一人で考えていると部下の狼人が客室に入って来る。
「国王様、御影優人を王城外まで見届けました」
「ご苦労。今すぐいつもの奴隷商人をここに呼んでくれ」
「はっ、かしこまりました。あと、寝室であの準備は整えました」
「うむ、これが終わったら楽しむとしよう。では早急に呼んできてくれ」
「はい」
狼人が駆け足で部屋を出ていく。
―――――――――数十分後。
「国王様、今日はどうされましたか?」
「いや、急な話で悪いのだがお前との関係を切ろうと思ってな」
「は、何故でしょう? 何か奴隷が粗相をしましたか?」
「いや、そういう訳では無い。ちょっとしたトラブルと言うか、面倒事が起きてな」
「それでしたら、今日の内に最後のお買い物をして頂けたら私としても諦めがつくのですが」
「そうだな、そうしようか。もちろん、代金の方は分かっておるよな?」
「はい、もちろん半額で提供させていただきます。ではすぐに奴隷を連れてまいりますね」
「ああ、よろしく頼むぞ」
奴隷商人が客室を出て国王が一人になったその時、国王の脳内でアナウンスが鳴り響く。
『ビーッ、ビーッ。契約違反です。繰り返します、契約違反です』
「なっ、契約違反だと!? どういう事だ!?」
「それはアタシが見ていたからだよ〜っ」
国王が声のする方に目をやると、そこにはソフィアがいた。
「なっ、貴様何故そこにいるのだ!?
お前は御影優人と一緒に帰ったのでは無かったのか!?」
「あんた、結構バカなの?
アタシが姿消せる事、目の前で見せてやったでしょ?」
「あっ、そ、そういう事か!! しかし、なぜ契約違反なのだ!?
儂は御影優人の目の届く所で不正は働いていないぞ!?」
「あー、契約ちゃんと読んでないの?
『御影優人の目の届かない所で』とか書いてなかったでしょー?
あんたの不正はアタシがちゃんとこの目で見てたからね。契約違反の警告、聞こえたでしょー?
あんた、もうお終いだから」
「っ!? しかし―――――――――」
必死に抵抗をする国王の目の前が急に光り輝き出し、輝きが収まると同時に、そこにはソフィアの様な外見を持った者が現れた。
「おっ、タナトシアじゃん、おっひさ〜」
「その軽い感じはソフィアね、久しぶり。よく生きていたわね」
「ちょっと〜、勝手に殺さないでよね〜。
今は契約結んだ人がいるから楽に生活出来てんのよ」
「へぇ、あのソフィアが契約結ぶなんて、相手は相当変わり者と見た」
「ま、正解かな〜っ」
「そう、だと思ったわ。
…………じゃあ、仕事始めるから」
「ん、おっけー。アタシ帰ってもいい?」
「いいけど、これ終わったら放置でいいの?」
「うんー、そういう命令だからね。じゃっ、後はよろしく〜」
ポカンとする国王を他所に二人は会話を終え、ソフィアは部屋の外へ飛んで行った。
「さて、契約違反をしたので貴方の命を貰いに来ました」
「ま、待て!! 待ってくれ!!
儂は騙されたんだ!! これは無効だ!!」
「関係ありません、契約違反は契約違反です。では、心臓を貰っていきますね」
「ま、待っ――――――――――――ガハッ」
焦燥を顔に浮かべる国王だったが、タナトシアの言葉に合わせ口から血を吐き出すとその場に崩れ落ちてしまう。
「さて、これでお仕事終了。帰ろうっと」
その精霊――タナトシアは誰もいなくなった客室で、一人そう呟いて消えるのだった。
あっけなく国王がやられちゃいましたね〜
やはり、国を任せるなら思慮深い人でないとダメですよ(笑)
次回投稿11/11(金)予定です




