32話
セシリアの部屋を出て、家に着いたのは昼を少し過ぎたぐらいの時間だった。
「はぁっ、はぁっ…………ただいまぁ」
「みんなただいまぁ〜〜〜!!」
「ユート、ソフィアちゃんおかえり〜!!
――――――ってユートどうしたの!?」
「ちーちゃん使えないの忘れてた………」
「あー………」
そう、ちーちゃんはナナ達が帰る時に使っていたので、優人の帰る手段が足しか無かったのだ。しかし、早く戻ると約束した手前、ゆっくり帰るわけにもいかないので全力疾走で帰ってきたのだ。
「ソフィアの野郎は飛べるからいいけど、俺は疲れた……………」
「仕方ないじゃーん?
アタシは精霊だもん、飛べちゃうんだもーん」
「その羽引き千切るから動くな」
「ちょっ、ユート目が本気だって!?
ごめんなさい調子乗りました許して下さい!?」
「ユート、案外元気だね………
とりあえず、昼ごはん食べよう?」
二人(?)のやり取りを苦笑いして見ていたナナは、とりあえずリビングのテーブルまで誘導する。そこには色鮮やかな料理が並び、どれも美味しそうな見栄えである。
「これ、ナナ達が作ってくれたのか?」
「うん!! リアさん達と協力したんだよ!!」
「私はメイドとしての仕事をしただけです」
「私は、何もしていない」
と、先に座っていた二人が言葉を発する。
「別に先に食べててくれて良かったんだぞ?」
「いや、みんなユートと食べたかったから待ってたんだよ」
「ねーねー、アタシはー?
みんなアタシのためには待っててくれなかったのー?」
「もちろん、ソフィアちゃんの事も待ってたよー」
「そっかぁー!! だよねーっ!!」
少し寂しそうにしたソフィアに、ナナがすかさずフォローを入れる。
「お腹空いたし、早く食べよう」
優人は取り敢えず空いている席に座り、みんなに食べるよう促す。どうやら皆お腹が空いていたようで、いざ昼食を取り始めるとあっという間に皿の上のものが無くなってしまった。
「今日の晩ぐらいに、お客来るから」
「んー? セシリアさんの事?」
「ああ、あと数人いると思うが」
「なら、おもてなししないとね。食材足りるかなぁ」
「そんなに多く作らなくてもいいぞ?
食事をしに来る訳じゃないからな」
「ユート様、こういうのは気持ちが大事なのです。
来ていただいた人に良い気分になってもらうのも、家主としての務めです」
「そ、そういうものなのか?」
「ええ、覚えておいてください」
「何かそういうのに疎くてごめんな」
「や~いユート怒られてやんの~」
「ソフィア、次口開いたら存在消すからな」
「ちょっ酷くない!!? …………あっ。」
優人は無意識で右手に『無名』を出現させていた。
「なるほど、ソフィアはよっぽど俺を怒らせたいんだな」
「ち、違うって!!
ごめんなさい許してすいませんでしたっ!!!」
「あっこらまて逃げるな!!」
ソフィアが全速力で飛び去っていったのを優人が追いかけていった。
「師匠、子供みたい」
「全く、いい年してユートもお子様だねー」
「ナナに、言われたくない、と思う」
「同じく」
「リアさんまでそういう事言う!?」
「ふふっ。さあおもてなしの準備をしましょう」
「リア、指示お願い」
「はい、では―――――――――」
いつの間にか姿の見えなくなっていた優人とソフィアの事は気にもとめず、女性達は着々と準備を進めていくのだった。
―――――――――――――――――――――――
日が落ちてからセシリアさんと部下数名が、優人の家を訪れてきた。
「わざわざ料理まで頂いてすまないな」
「いいんですよ、こっちが勝手に出したものですから」
「いやーしかし、あれには驚いたよ。いつ書いたんだ?」
「セシリアさんと会話しながらですよ」
「器用なことが出来るんだな、優人は」
「まあ、こういうのは慣れているんで」
「そうか。しかしあれはどういう事だ?」
「順をおって説明しましょう」
優人は今回の事について話をし始めた。
まず、セシリアに渡した手紙には
『声を出さないで読んでください
盗聴されてる可能性があります
今夜セシリアさんが襲われる可能性もあるので
信頼出来る部下を数人連れて
日が沈むまでに俺の家に来てください
不動産屋で家の場所は聞いてくれれば答えてもらえます
誰にも見つからないように来てください』
という内容が書かれていた。
「まず、セシリアさんの部屋に盗聴器、或いは盗聴系の魔法が仕掛けられていると思ったからあの手紙を渡した、という所まではいいですか?」
「いくつか質問いいか?」
「どうぞ」
座り直してセシリアが言葉を発する。
内容が内容なだけに、今リビングには優人とセシリアとその部下だけがいた。ナナとイリス、リアには二階の自室に戻ってもらった。ソフィアも二階に行かせようとしたのだが、部屋の隅で爆睡中なので放置しておく事にしたらしい。
「なぜ盗聴されていると思った?」
「まあ、普通に考えてですけど、国王だって元国王による反乱を予想していると思います。ということは元国王の娘のセシリアさんの事を知っていてもおかしくない。
なのにすぐに殺さなかったのはいつでも殺せるからか、もしくはそれを利用しようと考えていたからのどちらかでしょう。
いずれにしても、セシリアさんの事情を知っているなら向こうとしては盗聴する事のメリットが大きい、と思ったんですよ」
「普通にそんな事は考えないんだけどな」
はぁ、とため息をつくセシリアを無視して優人は話を続ける。
「ま、あとは単純に国王の人柄を信用してなかっただけですけどね」
「それは何ともいえないな」
「ま、気にしないで下さい。
で、あの会話が聞かれてたとなると間違いなくセシリアさんを消そうと動いてくると思ったんです。
ただ、日中から動けば国王の息のかかっていない部下に怪しまれるだろうから、深夜に事故に見せかけて殺しに来る、と踏んだわけです」
「優人、お前はどこまで予想しているんだ……」
「別に誰でも思いつくことですよ。
で、そんな事をさせまいと思ってこっそりここに来るように紙に書いておいた訳です」
「なるほど、ただここだとすぐにバレるんじゃないか?」
「そこら辺は問題ないですよ。今から片をつけに行きますから」
「は、今から?」
「ええ。それでお願いがあるんですけど、セシリアさんにはここに残ってもらって、部下の方には元国王を迎えに行ってもらいたいんです」
「分かった、協力すると約束したからな。お前達、すぐにお父さんの所へ向かってくれ」
「かしこまりました」
セシリアの部下が素早く家の外に向かう。
「そうですね、何かあった時のためにここで待機していてもらっていいですか?
何かあった時にナナ達を守ってもらいたいので」
「それでは、実質的に私は何もしない事になるじゃないか」
「いえ、俺の大事なものを守ってもらうんですから、かなりの大仕事ですよ」
「ふっ、はははっ。本当に変な奴だな、優人は」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。
……じゃあ行ってくるので後はお願いします」
「ああ任せろ…………無理はするなよ?」
「勝算があってやるんですから、大丈夫ですよ」
優人はそう告げて二階に準備しに戻る。と、廊下で話を盗み聞きしようとしていたのか、ナナ達三人が立っていた。
「はぁ…………お前ら何やってんだ?」
「いや、これは、その…………ね?」
「師匠、いってらっしゃい」
「ユート様、お気をつけて」
「え、ちょっと二人共あっさり過ぎない!?
何かナナだけ慌てて変な感じになっちゃったし!!」
「今回はナナの反応が正しいから安心しろ。
…………まあ、その、ちょっと出掛けてくるわ」
「ユート様、この剣を」
「いや、それはリアにやるよ。俺にそれはもう使えないからな」
「いや、しかしこんな素晴らしい剣を貰うわけには」
「悪いな、揉めてる時間はないんだ」
「ユート待って!!」
リアとの言い合いを避けようと部屋に入ろうとした時、ナナに後ろから抱き締められる。
「ナナ、どうした?」
「その………………帰ってきてね?」
振り返るとそこには、涙をこらえて寂しそうにするナナの顔があった。そんなナナに対して、優人は表情を変えず、ただ諭すように言葉を紡ぐ。
「ナナ、約束しただろ? 一緒にいるって。俺は、約束は破らない」
「ユート…………」
ナナはその言葉に安心したのか、そっと離れていく。
「ユート、早く帰ってきてね? ……待ってるから」
(こういうの思いっきりフラグなんだよな……変なミスをしないように気を付けよう)
優人は部屋で必要なものを収納に入れ、ソフィアの首を持ってちーちゃんに乗り、王国へと急ぐのだった。
フラグ立てるのはナナのお仕事です(キリッ
そろそろ王国編もゆる〜く終わりに近付いてきましたよ〜
次回投稿11/10(木)13:00予定です




