31話
「………気付いていたのか」
「気付いたのはつい最近なんですけどね。で、どうしてなんですか?」
「はぁ、契約のせいで言わないといけないのか。頼むから、この事は他言無用で頼むぞ」
「ええ、そのつもりですから」
セシリアは覚悟を決めたのか、少し力が入っているのが見て取れる。
「『セトの村に御影優人という名前の青年がいるはずだから、接触を図ってこい。害が無ければ放置して帰ってこい』という命令を、お前と初めて会った時に言われていた。
この時に正しい発音を聞いていたからだと思う」
「やっぱ国王絡みか…………」
「別に優人を騙していた訳では無い。ただ、特に優人に害が及ぶような事でも無いと思っていたから、言わなかっただけなんだ」
「セシリアさんを疑うような事はしませんよ。その為にこういう状況を作ったんじゃないですか」
「そうだったな」
「もう一つ、聞いてもいいですか?」
「何でも聞いてくれ」
「セシリアさんは、国王を恨んでいますか?」
「…………ああ、恨んでいる」
「理由を聞いても?」
「そうだな、長くなるがいいか?」
「もちろん、話して下さい」
「わかった。では、この国が元々私の父の国だった時の頃から―――」
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ここルークラート王国は、私の先祖が築き上げた国だった。
周囲を様々な環境が取り囲む中で出来た王国は、当初そこまでの発展はしなかった。
それでも、何代にも渡って王国の整備、街の安全化対策を練り、食料問題なども解決してきて、今から約四十年前にここまでの規模に発展できたのだ。
そして、二十年前に私の父が王位を継承し、国王になった時に事件が起きた。
東の方の深い森の奥に住居を構えていた狼人共がこの王国を侵略しに来たのだ。
街の者は皆で応戦し、その当時まだまだ小さかった私は父と共に王国外に逃げるように促された。
私達は出来るだけ遠くまで逃げ、小さな人間の集落で匿ってもらうことになった。因みにソフィアと出会ったのもここだったな。
その集落で一週間程過ごしていたら、生き延びた部下が報告に来てくれた。相手は持ち前の身体能力の高さを利用して、街の者を徹底的に排除して回ったらしい。戦ってくれたものはほぼ全滅し、王国は狼人に乗っ取られてしまったのだ。
悔しかった。代々受け継いできた王国をこのようにして乗っ取られるのが、酷く堪らなかった。
そこで私は現国王に復讐することを決めた。現国王を倒し、父に国王の座を返そうと思った。
その為に王国の騎士団に入隊し、実績を上げ、国王のそばまで近付ける機会を伺っていた。
そして、やっとの事で騎士団隊長に就任したのが約三ヶ月ほど前だった。
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「―――――――――そこからの事はもういいだろう?」
「ああ、大体分かったし、謎も増えましたね。因みに、セシリアさんのお父さんは?」
「今もまだその集落で匿ってもらっているよ。私はここに泊まり込みだから暫く会ってないがな」
セシリアは少し寂しげな顔をする。
「そういえば、お母さんは?
話の中にも出てこなかったみたいですけど」
「それが、私は母の記憶があまり無くてな。多分、もうこの世にいないかもしれない」
「どうしてそう思うんです?」
「物心ついた時に王国を襲われて、その時から母の顔を見た覚えがないんだ。父からは、母は王国に残って民と共に戦ったと聞かされた」
(おいおいセシリア父、母に戦わせるなよ………)
呆れ顔になっている優人を見て察したのか、セシリアが補足を入れてくる。
「いや、私の母は聞いたところだとS級の冒険者で、王国随一の剣豪だったらしいぞ?
ついた名が『剣姫』だったらしいからな」
(えー……そりゃ置いていくわな……)
「だとしたら、そんな強いお母さんが負けるとは思えないんですけどね」
「私もそう思ったんだが、何せ情報が無さすぎるからな。どこかに生き延びていてくれたら嬉しいのだが」
嘘がつけないこの状況で呟かれるセシリアの言葉は、間違いなく心の声だった。
「セシリアさん、王国を取り返したくありませんか?」
「そりゃあもちろん。だがそう簡単に出来るのならとっくに取り返している」
「分かってますよ」
「…………何か、策があるのか?」
「ええ、セシリアさんにも協力してもらいますけどね」
「ああ、王国を取り戻すためなら何だってするぞ」
「そうですか。それは頼もしい所ですね」
「だが、優人はどうしてそんな事を?
言ってしまえば、私とは赤の他人だろう。ここまでする必要なんてないはずだろうに」
セシリアの疑問に、優人は履いている靴を触れてこう告げる。
「俺、恩は返す主義なので」
「…………ふっ、はは。変わった奴だな優人は」
「そうですかね?
さて、俺はそろそろ帰りますよ。みんな待ってるだろうし」
「そうか。今日はありがとうな」
「いえいえ、俺から誘った話ですから。
……ソフィア起きろ、帰るぞ」
「ん〜〜?終わったぁ? じゃあ契約解除しておくね~
セシルばいば〜い、またね~」
優人は音を立てずにセシリアに一枚の紙を渡し、途中から爆睡していたソフィアを叩き起して部屋を出ていった。
―――――――――――――――――――――――
王城のとある一室では、複数の狼人が一つの物を囲むようにして座っていた。
『セシルばいば〜い、またね〜』
「……………やはりセシリアは、あの男の娘か」
「国王様、どういたしましょうか?」
「そうだな、暗殺部隊に今夜殺すように指示しておけ」
「かしこまりました」
狼人が一人、席を離れていく。
「しかしあの御影優人という男は何者なんでしょう?」
「わからん。知っているのは名前と異世界人だという事だけだ」
「『神のお告げ』は使わないのですか?」
「あれは年に三回ほどしか使えないらしい。そのうち二回も使っているからな。あと一回は念の為に残しておきたい」
「なるほど。ではこの男は放置しておくのですか?」
「下手に手を出して怒らせたら、何が起きるか分からんからな。
精霊契約をしている事からしても、かなりの強者だろう」
「かしこまりました」
「ただ、話を聞く限り何か仕掛けてくるやも知れん。
ここの城の警備を最大限まで強化しておけ」
「かしこまりました」
狼人がまた一人退室していく。
「国王様」
「どうした?」
「地下のアレはどうするおつもりですか?」
「ああ、今はどんな様子だ?」
「最低限の食事は取るのですが、それ以外は文字通り何もしません」
「中々タフだな、騙されているとも知らずに。そうだな、そろそろ可愛がってやる事にしようか。今夜、いつものように儂のベッドに縛り付けておけ」
「かしこまりました。準備のため私はここで」
「ああ、頼んだぞ」
狼人がさらにもう一人、部屋を出ていく。残った狼人は部屋の外の方に目を向け、ニヤリと表情を歪めた。
「この国は儂の物だ」
国王に対して優人が取る作戦とは……?
次回投稿11/9(水)13:00予定です
※申し訳ありませんが、
ここから少し投稿速度が遅くなりますm(_ _)m




