30話
セシリアさんに連れて行かれたのは、王国の中心にある王城のとある一室だった。部屋は中々の広さがあったが、ベッドやクローゼット、テーブルなどで埋められていた。
「すまないな、こんな簡素な部屋で」
「いやいや、というよりここ私室ですよね?
いいんですか? こんな素性も知れないただの男を部屋に入れちゃって」
「ああ、優人なら別段何もしないだろ?
それに、大事な話があると思ったからここにしたんだが、違ったかな?」
どうやら優人の意図が分かっていた上で、ここの部屋に連れてきたらしい。
「いえ、その通りです。
ただ、大事な話なのでもう少し警戒したいのですけど、話し声が他人に聞こえなくなる魔法とかってありますか?」
「はぁ、まああるにはあるが、ちょっと待ってろ。
―――――――――『反響空間』」
直後、優人のいた空間が少し変わった気がした。
「よし。これで私達の会話はこの部屋から漏れることは無いぞ」
「分かりました、少し待ってくれませんか」
「ん? 何だ?」
優人は索敵のスキルを使って、部屋の中に二人と一匹以外の生物がいないことを確かめる。
「……………よし、大丈夫そうですね」
「何をしたのか気になるところだが、とりあえず話を聞かせてもらおうか?」
「ええ、そうしましょう。でもその前に」
優人は呼吸を整え、はっきりと言葉にする。
「俺と、契約を結びましょう」
―――――――――――――――――――――――
優人と別れた後、ナナ達はすぐに帰宅していた。
「あの、ナナ、イリス」
「リアさん、どうしたの?」
「その、お二人はどうしてユート様と一緒に?」
リアが思っていた事を口にした。それに対してナナとイリスは少し考えて、すぐに返事をする。
「ナナはね、ユートに何度も助けられたし、ユートのそばにいたいって思える事もあったからかなぁ」
「私も、師匠に、助けられてばっかり、だから恩返ししたい、というのもある。
あと、師匠の強さに、惚れている」
「なるほど、それぞれユート様に恩義があるんですね」
「ナナは、別のものも、ある」
「ちょっとイリスちゃん!? わざわざ言う必要なくない!?」
イリスの発言にナナが過剰に反応し、顔が真っ赤になってしまう。
「……………ああ、そういう事」
「ん、リアも、理解力あって助かる」
「ねぇ、それナナの事バカにしてるよね!?
ナナだって理解力ない訳では無いからね!?」
「まあまあ、落ち着いて。ユート様って、本当に何者なの?」
「えっと、リアさんに言っても良いんだけどね、多分信じられないと思うよ?」
「ナナに同意」
「それでも、教えて貰ってもいいかな?」
「まあ、リアさんなら良いのかな?
――――――ユートはね、異世界から来たんだって」
「い、異世界? …………そんなの、あるんですか?」
「普通は、そうなる」
「うん、ナナもイリスちゃんも最初はそうなったけど、ユートの事は信じてるから、その事も信じようって思って」
「ユート様の事をそんなに信じているの?」
「もちろん!! ユートの言う事なら何でも信じられるよ!!」
「ナナのは、過剰だけど、私も師匠は、信じれる」
「そんなに素直に人を信じれるって、何だかいいね」
「そのうち、リアさんも同じ気持ちになれると思うよ?
ユートと一緒にいれば、ユートの事を信じたくなるもん」
「そうなのかな?」
「うん!!
……でもね、最近少し寂しいんだ」
「ナナ、私もそれ、分かる」
「二人共、何かあったの?」
「ユートはさ、何でも一人で抱え込んじゃうんだよ。
ナナを助けてくれた時も一人でオーガの集団に突っ込んでいくし」
「私を助けた時、ナナもいたけど、ほとんど師匠が解決した」
「そうなんだよね。今日のアレも、何か事件を解決するために一人で動いているみたいだし。
……ユートは、ナナ達に対して過保護すぎるんだよね。大事にしてくれるのはそりゃあ嬉しいよ?」
「師匠はもう少し、私達を頼ってくれてもいい、と思う」
「イリスちゃんの言う通りさ、ナナも頼って欲しいんだ。ナナ達だってユートの役に立ちたいんだけどなぁ」
「それを、ユート様に言わないの?」
「言っても、絶対に頷かないと思う。ユートは本当にナナ達の事を大切に思ってくれてるから」
「照れ屋だから、師匠は」
「何というか…………幸せなんだね」
「まあ、確かに幸せだね」
「うん、私も、幸せ」
「だったら、美味しいお昼ご飯を作ってユート様を待っていよう?
それが、私達の出来る事だから」
「…………うん!!
よーし、ナナも張り切っちゃおうかなー!!」
「ナナの手料理、楽しみ」
「じゃあ、ナナと私で料理を作るから、イリスはテーブルの準備をしてもらってもいい?」
「ん、了解」
会話を終えると三人は一斉に立ち上がり、昼飯の準備を始めにかかった。その三人の目は、いつもより少し良いものになっていた。
―――――――――――――――――――――――
「契約? 別にいいが何故だ?」
「いえ、大事な話なので出来るだけ不安要素は消しておきたいんですよ。
それに、ただの契約じゃなくて『精霊契約』ですから」
優人の発言にセシリアは目を大きく見開く。
「せ、精霊契約だと!? 出来るのか!?」
「ええ、俺は精霊一匹と契約結んでますから。
―――ソフィア、姿を見せてもいいぞ」
そういった直後、セシリアの目には優人の肩に乗るソフィアの姿が映し出されていた。
「こ、これが精霊………しかし、どこかで見たことがあるんだが……」
「やっほー、セシル。アタシだよー? ソフィアだよー?」
「…………あっ!!!
小さい時によく遊んでくれた精霊!!」
「そーそー、よく思い出してくれてたねー。
アタシは嬉しいよ〜〜〜うんうんっ」
「感動の再会の所申し訳ないんですけど、本題に入っていいですか?」
「あ、ああすまないな」
セシリアは優人に向き直り、顔をしかめる。
「どうして精霊契約を結ぶんだ?」
「精霊契約の内容を、『契約を結んだ後、解除されるまでお互いに嘘はつけない』というものにするためです」
「なるほど、私が万が一嘘をついたとしたら、優人は見破る術は無いからな。冷静な判断だな」
「そういう事ですね。結んでもらえますか?」
「ああ、いいぞ」
「話まとまったー? じゃあユート、始めていい?」
「ちゃちゃっと頼む」
「りょーかいりょーかい。
…………はいっ、これでしゅーりょーだね」
「特に何かが変わったって感じはしないな」
「そりゃそーよー、精霊契約なんて口約束を強力にしたようなものなんだからー」
「そうか。じゃあセシリアさん、先に一つだけ言っておきますけど、俺はあなたの敵ではないですからね」
「………………ふふっ、面白いやつだな」
「では、話をしていきましょうか。
まず、セシリアさんが元皇女だと言う情報は確かですか?」
「ああ、確かだ…………その精霊から聞いたのか」
「いやー、それほど隠す必要も無いかなーって。ダメだった〜?」
「いや、別に問題は無いぞ」
「じゃあ、次。どうして俺の名前を知っているんですか?」
「…………いや、村であった時に名乗ってくれただろう?」
「あー、聞き方を変えましょう」
優人は目をすっと細めて言葉を発する。
「どうして、俺の名前が発音出来てるんですか?」
遂に優人のツッコミが入りましたね〜
次話、王国の秘密が少し明らかに………?
次回投稿11/8(火)21:00予定です




