25話
「さて、何しようかな」
昨日のうちに必要な物は買い揃えていたので、優人は今日の予定を決めかねていた。
「ユート、クエスト受けに行かない?
最近モンスターと戦って無いから体がなまりそうで恐いんだよね〜」
「あーそれいいな。ここの冒険者ギルドも見ておきたいし」
「よかった、じゃあ早速行こうよ!」
「師匠、待って」
リビングのソファから起き上がろうとした時、イリスに腕を掴まれる。
「どうしたイリス?」
「師匠、忘れてる事、ある」
「忘れてる事? そんなのあるか?」
「メイド」
「あ」
そうだった、と言わんばかりに抜けた声を漏らす優人。どうやら本当に失念していたらしい。
「そういえばそうだった。どうしようか?」
「ユート、どうするの……?」
久し振りのクエストに胸を躍らせていたナナが、手の平を反す様に涙目で彼を見つめる。上目遣いのその表情に屈服させられた優人は、何とか上手い事逃げ口を見つけ出した。
「なら、メイド用の奴隷を買いに行って、そのままクエスト受けに行くか?」
優人はその場で妥協案を提示する。ナナもそれで納得したのか、いつもの笑顔に戻る。
「イリスもそれでいいか?」
「問題ない。私は、師匠に従う」
「じゃ、決まりだな。
とりあえず支度して今から行くから、ナナはちーちゃんの準備だけしておいてくれ。イリスは奴隷商店の場所、覚えてるか?」
「うん、大体は」
「なら王国についたらイリスが道案内頼むな」
「頼まれた」
と、予定が決まった所でソフィアが起きてくる。
「みんなおはよー。ってどっかいくカンジ?」
「ああ、奴隷商店でメイドを買ってから、クエストでも受けに行こうかなって」
「面白そうだね、アタシも付いて行くよ〜」
「ん、わかった。反照はずっと使えよ?」
「もちろん、アタシだって面倒事は避けたいからね〜」
と、ソフィアの同行が決まったところで優人も支度を整え始めていく。
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「ここが、奴隷商店」
イリスに連れて行かれたのは、冒険者ギルドから割と近いところにある、そこそこの大きさを持つ建物だった。因みに王国内を連れて歩けないという事で、ちーちゃんは外壁の門の所にある預かり所で預かってもらっている。
「師匠、早く入ろう」
イリスが少し上機嫌で店内に入っていく。彼女にとってここは生まれ育った家のようなものだから、何かしらの懐かしさがあるのだろう。
「アイリス、久しぶりだね。元気だったかい?」
「はい、元気です、でもお爺さんは………」
「ああ、その事は聞いているよ。
でも寿命だったんだし、最後は君に看取られたんだろ?
あの人もそれは幸せだっただろう、大丈夫だよ」
「そう、ですね。私も、クヨクヨしていられません」
遅れて優人達も店内に入ると、イリスとオーナーらしき人が話を弾ませていた。いつも表情の薄いイリスだが今はものすごく嬉しそうな顔をしていた為、それを見ていた者も微笑ましく感じてしまう。
「で、アイリスはどうしてここに?
知ってると思うが君の奴隷契約は解除されてるよ?」
「今日は、奴隷を買いに来た、師匠が」
「師匠、というのは後ろの彼でいいのかな?」
そう言って、オーナーは優人の方に向く。
「ああ、先日家を買ったから、メイド用の奴隷を買おうと思ってな。それでイリスのいた奴隷商店に来たってわけだ」
「そうですか。なら早速その話をしましょう、こちらへ」
そう言ってオーナーは奥の部屋に三人を案内する。
部屋に入るとテーブルを挟んでソファが二つあり、オーナーが片側に座ったので対面に腰をかける。
「さて、メイド用の奴隷の購入、で間違いないですね?」
「ああ、間違いない」
「メイド用の奴隷にも2種類あります。メイド長になれる程の経験を持った奴隷と、メイド用になりたての奴隷です。
今回はどちらをご希望でしょうか?」
「師匠、今回は、前者の方が」
「だな」
「分かりました。では候補を連れて参りますので暫くここでお待ち下さい」
そう言い残して、オーナーは部屋を出ていく。
「思っていたより、悪い人じゃなさそうだな」
「師匠、どういう、こと?」
「いや、ほらこういう仕事してる人って大体が悪人だと思ってたからさ」
「それは、かなり偏見。オーナーは、基本的に優しい」
「ああ、それは話しててよく伝わってきたよ」
「それに、オーナーは、父から受け継いだだけ。
元々この仕事を、することが決まってたから」
「なるほどな、俺の偏見が過ぎただけか」
「仕方ない、と思う。奴隷商店なんて、良いイメージ少ない」
「ま、それもそうだよな」
と、そんな会話をしていると一人が異常に静かなのが気になってくる。
「ナナ、どうかしたか?」
「いや、奴隷ってさ、そ、その。
え、エッチな事に使うものだって思ってたから」
(わーお、超偏見……軽く俺を超えてくる辺り、流石ナナだな……)
と、我慢し切れなかったのか、隣でイリスの笑い声が少し漏れる。
「ちょっとイリスちゃん!? 笑わなくてもいいじゃん!!」
「ごめん、でも、ナナが可愛くて、つい」
「その可愛いはバカにしてるよね!?」
「そんなこと、無い。ナナは普通の、女の子だもん、ね」
「し、仕方ないじゃん!! そう思ってたんだもん!!」
ナナが顔を真っ赤にしてイリスを怒ろうとする。美少女二人のじゃれ合いはまさに天国にいるような光景だった。
と、そんな所でオーナーが戻ってくる。
「お待たせしました。今回紹介できるのはこの四人ですね」
「オーナー、いつもと、紹介の方法が違う?」
「おっ、アイリスはよく気がつくね。
普通の奴隷と違って、メイド用の奴隷は丁寧に扱わないといけないから、あの檻には入れられてないんだよ。
だから、檻のところまで連れて行って選んでもらう、って言うのは通常奴隷だけなんだよ」
「なるほど」とイリスの納得がいった所で本題に戻る。
「さて、この中から選んで下さい。
一人ずつ話をしたい時は右手の部屋を使ってもらって結構ですので」
「ならあの部屋を使わせてもらう。こちらの準備が出来たら声をかけるから、一人ずつ順番に中に入れてくれないか?」
「かしこまりました」
「ナナ、イリスはここで待っていてくれ。選ぶのは俺一人でやりたい」
「まあ、別にそれはいいけど、変な事しないでよ?」
「師匠、ナナの変態発言は、無視していい。好きなだけ、選んで来て」
「ちょっイリスちゃん!? どこが変態発言なの!?」
二人がじゃれ始めたので、さっさと部屋に入ることにする。
(さて、何人耐えれるかな………)
優人は誰にも見えないように、こっそりと悪い顔をするのだった。
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「あ、ありがとうございましたぁ…………」
三人目の候補が泣きながら部屋を出ていく。
「ちょ、ちょっとユート? 何をしてるの?」
「師匠、私も、気になる」
「まあまあ、気にするな。ただの適正検査だ」
「絶対嘘だよね!?
ただの検査で泣くことなんて普通有り得ないからね!?」
ギャーギャー騒ぐナナを無視して、オーナーに向く。
「オーナー、最後の一人頼む」
「は、はぁ…………わかりました、リア」
「はい」
オーナーに声をかけられ、最後の一人が優人と部屋に入っていく。それを見届けたナナは、すかさず出てきた候補の一人に話を聞き出そうとする。
「ねえ、あの中で何があったの?」
「それは、他言無用とのことですので………」
候補の一人が泣きながらも答える。
「ユート、一体何をしてるのよ………」
何が行われているか不明な部屋に目を向け、ナナはため息をつくのだった。
泣くような検査って、何やってるんでしょうね〜
次話で、優人の怪しい検査の内容が明らかに、
そしてメイドを購入?
次回投稿11/6(日)13:00予定です




