24話
アタシはこれでも偉い精霊なのよ?
だから、他の精霊と違って各地を渡り歩く事も出来たし、何をしてもお咎めを食らうことは無かった。
そんなアタシも、長旅に疲れて休むことにしたのよ。
そんな時に目に付いたのがここの家で、二階の物置部屋を借りてゆっくりしてたの。
『反照』のおかげで住人に見つかることもなかったし、家の物をバレずに食べる事も出来るから、すごい暮らしやすかったわ。
そんな時、住人の誰かが異常に食料が減ってる事に気付いたらしくて、家中を捜索し始めたの。私はやばいと思って、物置に隠れてたわ。
で、住人が物置にいる時にアタシ、物音を立てちゃってさ。
そしたら住人が「ゆ、幽霊がいるぞー!!」って慌てて家を出ていっちゃってね?もうそれが可笑しくって。
多分、その時に人を驚かす事にハマっちゃったんだよね〜
それからは来た住人に毎回イタズラを仕掛けてたの。
もう、みんながみんな恐怖して、面白かったわ〜
で、そんな時に来たのがあんた達だった。正直、カモだと思ってたわ。
女の子二人に若い男一人だもん、チョロイでしょ?
で、いつものように少しだけ姿を見せて脅かしたら、普通は驚く所なのにあんたは追っかけてきた。
もう、アタシが驚いたわよ。
その後は、まあ言わなくても分かるわよね。
それが、まあここまでのアタシの出来事かな。
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(う、うわ…………この精霊、思ってたよりクズだ)
ソフィアの話を聞き終えた優人は、いや優人だけでなく三人共がドン引きしてしまっていた。
「で、アタシの話は終わったけど、あんたの話を聞かせてちょうだいよ。
あんたみたいな人間、生まれて初めて見たもの」
「優人でいい。さて、何から話そうかな」
「なら、アタシの質問に答える、ってのはどう?」
「ああ、それでいいぞ」
「なら、まずはユートの存在についてからね。ユート、この世界の人間じゃないでしょ?」
「なっ」
これには優人も驚いた。まさか自分の存在が一瞬で見破られるとは思っていなかった。
「そりゃ気付くわよ。
アタシは精霊よ? ユートだけこの世界とは異なる成分で構成されてるぐらい見ればわかるもの。
で、ユートは言うなれば異世界人って事でいいのね?」
「ああ、それで合ってると思うぞ」
「そ、なら次の質問。何の目的でこの世界に来たの?」
これもまた鋭い質問だった。
「鋭いな、さすが『知』を司る精霊って所か。
聞いた話だと、この世界で起きてる争いを止めて平和な世界にする、って目的らしい」
それを聞いたソフィアは頬に手を当てて唸る。ビールのジョッキ程の大きさしかなく、背中に蝶の羽の様なものが生えている彼女のその動作は、どこか神秘的なものを感じた。
「んー、変な話ね。アタシの知る限りだと、そんな異世界人に助けてもらう程に困り果てた争いなんて起きてないんだけど」
「ソフィア、それは本当なのか?」
「ええ、争いなんて起きたら大体が決着付くし、休戦協定結んでるんだもの。それを考えたらこの世界は平和なんじゃない?
だから、ユートが来た理由が分からないわ」
(……どういう事だ?
ソフィアが嘘をついてるようには見えないし、あの神が嘘をついていたのか?
だとしたら、本当の目的はなんだ?)
目の前の大精霊から提示された情報に考え込んでいると、隣にいたイリスが彼に凭れ掛かってきた。
「師匠、私もう限界。眠たい」
「ユート、ナナも眠たいよ〜」
どうやらナナも限界らしく、優人に抱きついてくる。
「ソフィア、この話は朝、またしよう」
「ん、オッケー。アタシは二階の一番奥の部屋で寝てるから、起きたら声かけてちょ~だいね?」
「ん、分かった。
……………もう悪さするなよ?」
「わ、分かってるわよ!」
「あんな怖い思い二度としたくないし……」、とソフィアはブツブツ呟きながら二階の方に戻っていく。
「さ、俺らも早く寝よう。眠たいしな」
優人はほぼ眠りに落ちていたイリスを担ぎ、ナナの手を引いて部屋に戻るのだった。
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「ユート、先に精霊契約をしましょ」
三人が目を覚ましたのは、太陽が真上に昇ってからだった。
起きてすぐ、ソフィアの元に向かうと、最初に言われたのがこれだった。
「師匠、精霊契約するんだ、すごい」
「イリス、そんなにすごい事なのか?」
「うん。精霊と仲のいい森精族でも、極々少数の者しか、契約を結べない。
その上、大精霊と契約する人、今まで一人もいない」
「そうよ!!
この大精霊のソフィア様が直接契約を結ぶのよ?
ありがたく思いなさい!!」
「よし、悪霊退散、邪気退散、っと」
「ちょ、じょ、冗談に決まってるじゃない!?
お願いだからその剣戻して? ね、ね?
分かった、アタシが悪かったですごめんなさい!!」
ソフィアが涙目で縋り付いてくる。その大精霊の情けない姿に、優人はため息を禁じ得なかった。
「まあもういいから、その精霊契約について説明してくれ」
「わ、分かった。まず精霊契約って言うのはね―――」
ソフィアが精霊契約について話を始める。
精霊契約の使い方は主に二種類あり、一つは重大な契約を結ぶ際、精霊を立会人とした場合に使われる。この契約を違反すれば、命を以て償うことになる。
もう一つは精霊が対等、もしくはそれ以上だと見なした相手と結ぶ時に使われるもので、精霊を守護する代わりに精霊を従わせることが出来る。
今回ソフィアが優人とするのは後者の方である。
「なるほど、話はだいたい分かった。
お前にとってのメリットは俺という盾が出来ること、俺にとってのメリットはお前という情報網が出来ること。
その解釈で合ってるな?」
「うん、さすがね。
まああと付け加えるなら、ユートと居れば面白い事になりそうって言うアタシの興味本位なんだけどね」
「あっそ。まあデメリットも無さそうだし、俺としてはありがたい話ではあるな」
「でしょ? じゃあ早速始めましょうか」
「ああ、俺は何をすればいい?」
「とりあえずリラックスして、目を閉じてちょうだい」
「わかった」
優人は言われた通りに目を瞑る。
(―――――――――――――――!?)
すると、突然唇に柔らかいものが触れる。優人はすぐに目を開ける、とそこには小さな頭があった。
「―――ってソフィア!? お前、今何を―――」
「何を、って契約のキスをしただけじゃない。何をそんなに動揺する事があるの?」
どうやら精霊契約の後者の方は契約時にキスをしないといけないらしく、その事を当然の様に口にするソフィアに優人の精神は削り取られてしまう。
「ゆ、ユート?」
余りの衝撃に固まっていた優人は声のする方に顔をやると、ナナが涙目で睨んでいた。イリスはこうなる事を知っていたらしく、特に何の反応も示していない。
「ナナ、そんな顔するなって。
俺だってこんな事するなんて知らなかったんだ。」
「……………本当?」
「あ、ああ本当だ。嘘はついていない、信じてくれ」
「………………分かった、信じる」
何とかナナの気分を落ち着かせることが出来た彼はホッと胸を撫で下ろす。もしここで彼女に泣かれでもすれば、宥めなければならない優人からすれば大惨事である。
「何キスしたぐらいで焦ってんのよ?」
「お前は黙ってろ」
「はいすいませんごめんなさい」
とりあえず、精霊契約を終わらせた優人は夕方までの時間を家具や食材の購入にすべて使うことにした。だが、その日のナナはずっと機嫌が悪く、優人は機嫌を取るためにあたふたする事になったのだった。
第二のいじられキャラの予感……
次回投稿11/5(土)21:00予定です




