22話
「じゃ、ついてきてくれ」
優人達は地竜業者の後について行く。数分間歩くと、大きな舎が見えてきた。
「ささっ、中に入って見てくれ」
舎の中では数多くの地竜が縄に繋がれていた。
「じゃ、ナナとイリス見てきてくれ」
「え、ユートは行かないの?」
「ああ、ちょっと考えたい事があってな」
「師匠、それって、さっきの事?」
「いや、それもあるが別の事だ」
「そっか、無理しない程度にねー?」
「悪いな、頼む」
ナナとイリスに地竜を選んでもらっている間、優人は舎の壁にもたれかかり、考え事を始める。優人の考え事というのは、主に二つの事柄である。
一つはこの世界の歴史や戦争事についての書物が存在しない事。少ない、というのならまだ分かるのだが、一冊も存在していないのはあまりにも異常過ぎる。そうなると、その歴史について書かれていたあの神様からの手紙の内容は確かなのだろうか?
……いや、逆の可能性として、図書館側が何らかの理由で書物を置けない、という事も考えられる。
普通に考えれば後者の方が有力なのだろう、しかしこの世界にいる以上、常識的にいかない方がいい。
だがまあ、やはりこの件に関しては情報が少ないので、これ以上に話を発展させるのは困難そうである。
二つ目は、セシリアの事。
あの人は何か重大なことを隠している、そんな気になって仕方がなかった。実は、会話中にも何か違和感を感じていた。それの正体にも全くもって心当たりは無い。村で初めてあった時もそうだった、何か少しの違和感を感じていたが、気のせいだと無視していた自分がいたのだ。
(……ん、待てよ?
そもそも村にセシリアさんが来た理由は何だ?
それが何故セシリアさんでないといけないのか?
多分、ここがキーになってくるはずだ、
何だ、どうすれば話が繋がる?)
うんうん唸る優人の傍に一人が近づいてくる。
「ユート? 大丈夫?」
「ああ、ナナか。んー、少し手詰まりって感じでなー」
「へぇ、珍しい事もあるんだね?
ま、ユートなら何でも解決出来ると思ってるけどね〜」
「俺はそんなに完璧超人じゃないぞ?」
「知ってるよ? まず疑う所から始まるもんね?」
「よく分かってるじゃないか。
俺のトリセツ書けるんじゃないか?」
「え、トリセツ? 何それ?」
「いや、まあそれはいいや。
で、何か用があったんじゃないのか?」
「あーそうそう!! ペット候補選んできたんだ!!
だからユートにも見てもらおうかなって思って!!」
(いや、ペットだけどペットじゃないんだよなぁ。でも、今のまま考えていても何も変わんないな、少し気分転換するか)
「あーうん、分かった。じゃあ行こうか」
「うん!! こっちだよ〜!」
優人はナナについて行く事にした。
―――――――――――――――――――――――
「――――――で、こうなるのか」
ため息をつく優人の前では、二人の女の子が口論を繰り広げていた。
「いや、絶対この子の方がいいんだよ!!
イリスちゃんも気に入るから!!」
「ナナ、それは違う。
この子の方が、やる気に満ち溢れている。必ず、役に立ってくれる」
(聞いてる限り、イリスの方がまともに選んでるんだよなぁ)
ナナの選んだ地竜を見た優人は、同様にイリスにも選んだ地竜の紹介をされた。
一頭だけ買う予定だったので大人なイリスが折れてくれると思っていたのだが、実際はこのような状況になってしまったのだ。
「いやいやイリスちゃん。このつぶらな瞳!! キレイなまつ毛!! そしてチャーミングな口元!!
どう考えてもこの子しかありえないよ!!」
(だからねナナさんや、本気でペット選ぶような感覚で選ばないでくれませんかね?
愛でるために買うんじゃないのよ?)
「ナナ、選ぶのはそこじゃない。力強い瞳、丈夫そうな肉体、強靭な足。三点揃ってる、この子にするべき」
(おお、イリスは本当にしっかりしてるよ。ただ、何かちょっと変な方向に走りそうで怖いんだけど、これは俺の気のせいなのかな?)
その後も口論は数十分におよび、結局はイリスが折れてくれた。
「決まったんだな、じゃあ代金は金貨三枚だ」
会計を済まし、業者から地竜の説明を受ける。
「―――――って所だ、問題ないか?」
「ええ、ほとんど馬と変わらないみたいだし、違う所とか野菜が肉に変わったぐらいだろ?」
「ああ、ぶっちゃけそれでいいと思うぞ」
「そうか。んじゃ俺らはここで」
「おう、また何かあったら来てくれ」
業者に別れを告げ、優人達は早速地竜に乗ってマイホームへと向かうのであった。
―――――――――――――――――――――――
「おー!! これがナナ達の家なんだね!!
思っていたより全然大きいし、最高だねー!!」
家の前についた途端、ナナが大はしゃぎする。
優人達が買った家は王国の郊外に位置する住宅街より、さらに少し離れた、人目につきにくい場所にあった。立地だけ見れば微妙な感じもするだろうが、二階建ての家にしてはかなりの大きさであり、庭も十分に広く、それに地竜用の小舎まで付いていた。
王国まで行くのに地竜を使えば30分ほどでつくので、優人達にとっては十分満足のいくものだった。
「ちーちゃん、ここまでありがとうねー!!」
「がうっ」
ナナに褒められ、ちーちゃん(命名:ナナ)は嬉しそうに鳴き声を上げる。その鳴き声は、最早犬のそれである。
ナナがちーちゃんを小舎に連れていく間に、優人とイリスは家に入る。
「おお……これは広いな」
「すごい、屋敷みたい、カッコいい」
玄関を入ってすぐに大広間が現れる。家具がない分もあるかもしれないが、それでもかなりの広さがそこにはあった。
「とりあえず、二手で手分けして家の中を見て回るか」
「じゃあ、私は、一階を見て回る」
「なら、俺は二階だな。終わったらここに集合で」
二人で手分けして家の中を見て回ることにし、優人は二階に向かう。階段を上がれば奥に向かって廊下が続き、左右にいくつかドアがある。
(何か、簡易ホテルみたいだな。こんなに部屋あって使うかなぁ)
などと考えながら、一つ一つ部屋の中を確認していく。
廊下の突き当たりに差し掛かると、そこからさらに左右に分かれる。
(右は多分トイレ、かな。
ドアの上に思いっきり『WC』って書いてあるし)
優人はそう思って左の方に進む。どうやら左のドアはスライド式だったらしく、その感じからある程度予想がついてしまう。
スライドドアの向こうは予想通り、脱衣場だった。脱衣所に入って左側に、曇りガラスで作られたドアが確認できた。ガラスドアを押すと、左手に風呂、右手にはサウナルームとシャワーがあった。その予想以上の広さに、優人は呆気に取られる。
(何だよこれ……マジで銭湯と変わらねぇぞ)
とりあえず一通り見たので、イリスと合流することにする。
「あ、師匠、お疲れ様」
「おおイリス、どうだった?」
「キッチンがすごい。あと―――」
と、各自報告を終えていき、ナナも戻ってきた。
「さて、もう今日は寝ることにしよう」
「でも、ベッドとか布団とかないじゃん?
どうするのユート?」
優人は返事代わりに収納から掛け布団を取り出す。
「洞窟にいた時に使ってたやつなら残ってるし、ナナとイリスはこれにくるまって寝ればいいんじゃないか?」
「ユートは?」
「まあ、俺はどこでも寝れるから、適当な部屋の床の上で寝る事にする」
そう答えると、ナナがものすごく悲しげな顔をする。
「どうしてそう一人になりたがるかなぁ。一緒に寝る、って言うのはダメなの?」
「男と女が掛け布団一枚で一緒に寝るのはさすがに色々とまずくないか?」
「師匠、気にしたら、負け」
まるでそれが真理であるかの様に語るイリスに、優人は頭を抱えたくなる気持ちに駆られてしまう。そしてその先に待つのは、妥協。
「んーなら、三人で寝るか?」
「え、うん! うん! 寝る! 寝ちゃうよ!」
結局三人は、二階の一室の壁にもたれながら身を寄せあって掛け布団一枚で夜を過ごしていった。
しかし、三人はあの事実を完全に忘れていたのだった。
優人のお家事情はまだまだ続きますよ〜
次話では、なんと………?
次回投稿11/4(金)21:00予定です
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