19話
「―――やったか?」
「はい、言われた通りに」
「良くやった、下がっていいぞ」
老人に声をかけられた青年は、一歩後ろに下がる。
「さて、どうしたものか。王国に報告は要らないだろうが、村人達には―――」
老人は一人、ブツブツと考え事を始める。
と、そんな時だった。何者かが駆け足で部屋に入って来る。
「大変です! 襲撃者が―――」
「何だと!?」
老人が顔を上げ、声のする方へ目をやるとそこには
「――――――襲撃者が、ここにいますよ?」
―――優人がいた。
「お、お前っ!? どうしてここに!?」
「さあ? 何故でしょーね?
あ、焼け死んだと思ってた?
残念、こうしてピンピンしてるぞ?」
優人はわざとらしくニヤリとし、老人をからかう。
その後ろで、青年―――だった肉片が目につく。
「な、どうしてここが分かった?」
老人――村長と優人がいたのは、集会場の地下にひっそりと作られていた小部屋だった。
「んー、まあちょっと考えたら分かることだろ。
狡猾に物事を考える奴ってのは、隠し事をする時は案外大胆にするもんなんだよ。
ま、『灯台下暗し』ってやつだな」
「ワシが、ワシが何者なのかどうして気付いた?」
「それはもっと単純な理由だ」
すっ、と目を細めて、何かを悟るように告げる。
「――――――俺は、端からお前らなんて信じてない」
「――――――っ」
優人の声は、どこまでも冷たかった。底の見えない暗黒の海を覗いている様な、そんな感じがした。
「さて、お喋りもここまでにしよう。俺も早く済ませて寝たいんだよ」
「ま、待て!! 村長の座をくれてやる!!
望むなら俺の持っている物は全部くれてやる!!
だから、命だけは見逃してくれ!!」
「はぁ、何にも分かっちゃいないな。
まあいい、一つだけしか取らねーから安心しろ」
優人は軽くため息をつく。
「そ、そうか!!
何が欲しいんだ!? 金か?女か?地位か?」
村長は恐怖で顔を歪ませ、全身を震えさせながらも必死に言葉を紡いでいく。
そんな村長を無視し、優人は右手に剣を、左手に『無名』を構える。
「じゃ、首もらっていくわ―――――――――」
その部屋から、声が一つ消えた。
―――――――――――――――――――――――
「あ、ユートお疲れ様ー」
「師匠、お疲れ様」
部屋と集会場をつなぐ階段を上りきった先で、二人の女の子が彼の帰りを待っていた。
「ああ、何だか呆気なかったな」
「そりゃ、ユートの手にかかれば余裕でしょ?」
「師匠だもの、当然」
「そうか、そうなのかもな」
二人からの褒め言葉を素直に受け止めると、近くの長椅子に腰をかける。
「とりあえずここで寝ることにして、詳しい話を朝、村人達全員に話そう」
「そうだね、そうしよっか?」
「うん、それがいいと思う」
ナナとイリスは互いに頷き合い、優人の左右に座り身を寄せてくる。
「…………近い。寝にくいから少し離れろ」
優人は咄嗟の出来事に、つい冷たい態度を取ってしまう。
するとナナが、予想してたかの様な口ぶりで囁く。
「今ぐらいはさ、気、抜いてもいいんじゃない?」
「……………………そういうのには慣れてない」
「本当に、素直じゃないんだから」
「うるせえ、お前が気にする事じゃねーよ」
そんな事を話しているとイリスが袖を引っ張ってくる。
「………師匠」
「ん? イリス、どうかしたか?」
イリスは優人の目をしっかり見据え、諭すように口を開いていく。
「私達の前で、気遣いは要らない」
「……………そっか、お前らには敵わないな」
優人は天井を見上げ、少し寂しげな表情を浮かべ、
「どこの世界でもさ、やっぱり騙す奴と騙される奴って存在してるもんだよな」
そう、ポツリと呟く。
それを聞いたナナとイリスは、さらに優人に寄り添い、優しい微笑みを向けて話しかける。
「優人が優しいんだよ、他の誰よりも。でも――」
「師匠は、すごい人。でも、―――」
「それを知っているのは、この世界でナナ達「私達」だけだから」
二人はそう同時に告げる。
「………………ありがと、な」
優人はそれだけ言い、前のテーブルに突っ伏す。
優しい雰囲気の余韻に浸り、寄り添う二人から伝わる体温をしっかりと感じ取りながら、優人は珍しく深い眠りにつけた。
―――――――――――――――――――――――
三人が目を覚ましたのは、日が昇ってから少し時間が経ってからだった。村人達も少しづつ目を覚まし始めたので、ナナにお願いして全員集会場に集まるように言って回ってもらった。
「旅のお方、こんな朝早くからどうかしたか?」
村人の中でもリーダー格にあるらしき男性が、思ったままのことを尋ねてくる。
「今日集まってもらったのには、いくつか大事な話をするためです。急な出来事に驚くと思いますけど、どうか最後まで落ち着いて聞いて頂けると有難いです。
ではまず、昨夜の出来事から―――」
優人は、集まってくれた村人全員に、昨夜の出来事、村長の正体について事細かに話し出した。
「―――――――――という事なのです」
話を終えると、村人のほぼ全員が唖然としていた。
「なぁ、旅のお方よ、これから俺らはどうすればいい?」
さきほどの男性がまた尋ねてくる。
「まあ、まずは村長を決める事が優先だと思う。
湖の殺菌はこっちでやっておくから、その間に決めておいてくれ」
そう告げると、返事を聞かずに三人はイリス先導で湖の方へ歩き出した。
残された村人達はどよめき出し、何人かはまだ唖然としていた。
「………よし」
と、リーダー格の男性が何かを決めたらしく、村人達の方に向けて言葉を発する。
「みんな、聞いてくれ――――――」
その男性の言葉は、その村の希望に変わる。
湖とその周囲を一瞬にして殺菌し終えた優人達は、 村へと戻った。
村人達は全員集会場から動いていなかったらしく、三人の帰りに応じる。
「旅のお方、俺らは村長を決めたよ」
リーダー格の男性が、優人にそう告げる。
「そうか、それは良かったな。じゃあ俺らはそろそろ王国に向かうから」
昼から王国に向かうと、運転手に言われていた優人は、少し早かったが馬車の方へ歩き出そうとする。
「あーちょっと待ってくれ。せめて村長の名前だけでも教えてくれ」
「ああ、それぐらい……………今なんて言った?」
「ああ、この村の新村長であるアンタの名が聞きたい」
「は、はあぁぁぁぁぁぁ!!?
待て待て、俺が村長? 悪ふざけにも程があるだろ」
「いや、これは村人全員一致の意見だ。アンタほど聡く、強い人が村長なら村人達も皆、安心して暮らせるってもんだ」
「いやしかしだな。俺は冒険者だし、この村に居続けるわけにはいかないし」
優人はあまりにも唐突すぎる事を言われ、たどたどしい対応になってしまう。
「分かっている、アンタは村長っていう存在でいてくれるだけでいいんだ。
村の主導は俺がやっていこうと思っている」
「なら、いっそお前が村長に………」
「しかし、いつまた謀られるか分からない。そういう時に手助けしてくれればそれだけでいいんだ。どうか頼めないか!?」
「お、おぅ…………」
男性がものすごい勢いで迫ってくる。その剣幕に気圧され、優人は首を縦に振ってしまう。
「そうか、それは有りがたい!!
どうか、この村の事をこれからもよろしく頼む」
そう一方的に喋り、男性は頭を深く下げる。
「はぁ……分かったよ。ただし、俺は基本何もしないぞ?
旅がメインだし、この村だってかなりの期間空けることになる、そこは理解していてくれ」
「ああ、もちろんだ」
優人と男性は軽い自己紹介の後硬い握手を交わし、それぞれの方へ歩いて行く。
『特性:村長を習得しました。』
「ユート、村長だって!!
何か一気に老けた感じがするね!」
ナナが優人の方を向いてニヤニヤ笑う。
「師匠、さらに偉くなった、すごい」
悪戯な笑みを浮かべる年上のナナと比べ、イリスは礼儀正しく尊敬の眼差しを送る。
二人から別々の事を言われながら馬車に乗り込み、優人は再び王国に向けて出発するのだった。
ナナとイリスに挟まれて寝る優人が羨ましい!!
次話は超荒れちゃいますよ〜
次回投稿11/3(木)13:00予定です
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